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第21話 アーマード・セフィム・コア


その頃アーマーは騒ぎの中心にいた。




 腕の立つ者を探していたが、アーマーのお眼鏡めがねに叶う人物には巡り合えずにいた。




(こいつもダメか……これで何人目だ?)




 そう思いながら、対戦相手を軽く負かしてしまう。見ている観衆もすでにアーマーを負かせる相手はいないのでは? といった雰囲気を醸し出していた。そんな中、ミワンがアーマーに声をかけた。




「アマ、もう三十人以上は相手してるでしょ? そろそろ休憩をとったら?」




 ミワンの自分を気使った声に同意し、一度この場を閉めようとした。




(そうだな……もう他の探し方に変えるしかないっちゃかな)




 その時、一人の青年が観衆の中から出てくると、アーマーに手合わせを願い出た。その青年は銀色の髪の毛に日差しが強く反射し輝きを示していた。細面の均整がとれた顔で服装は全体的に黒が多く含まれており、肩当てから背中にかけてまわった白い防護布で保護された剣を背負っていた。ベルトから下は動きやすい麻の生地で出来たものを纏っており靴もショートブーツであった。




「相手をしてくれないか?」




 青年は剣を抜き構えた。アーマーも彼から何かを感じ青年に向かって剣を構えた。




「じゃあ、お前を最後の相手にするっちゃね!」




 二人の剣がぶつかり合いだすと剣の太刀筋を見て、直すぐにこの青年の強さを感じ取ったアーマーは更に剣の速めて迫った。




(いい太刀筋してるっちゃね~これならどうだ?)




 より速くなった攻撃で青年を狙うが、全ての剣撃を防いでいる。




 見ている観衆がその剣技に見惚れ始め、さらに剣を合わせること数十合、剣撃で全く引けを取らない状態が続いた。剣の合わさる音がだけがその場に響き渡り、ようすを伺っていたミワンたち三人も、この状況に見とれてしまっていた。




「ちょっと……あの子凄くない? アマの剣撃を全て受け止めているわよ!」




「アマさんの本気モードの剣撃を久々に見たけど……やっぱ凄いよね」




「確かに……アーマーさんはその前に三十人以上の相手して来たんですよね? それなのにまだこんな早業出せる力を残しているなんて……凄すぎますよ」




 ミワンは相手の青年を褒め、ディープとヒロサスは改めてアーマーの凄さを感じていた。二人の試合に大きな展開はなく、しばらく打ち合いが続き状況を崩そうと最初に動いたのは青年の方だった。




「あんた、上手いね」




「お前もいい腕してるっちゃね」




 アーマーが言葉を返すと、青年は間合いを取った。そして次の瞬間、青年の技が繰り出される。周りの空気が青年に吸い込まれるかのように流れると、その流れが止まり一気にアーマーめがけて空気の刃が襲い掛かっていく! その攻撃をアーマーは間一髪で避けることが出来た。




「あっぶね~そんな技出さなくてもいいちゃね~!もう充分!って、うお!」




 アーマーが話している最中に青年は二撃目三撃目を放っていた。




 辛うじてその攻撃をかわしたアーマーは体制を整えた。




「だから~お前の腕はもう充分にわかったっちゃ!」




 そう言うとアーマーも反撃でウル(気刃)を青年に向かって放つ。アーマーの攻撃は真っ直ぐに飛んでいくと、衝撃で青年の周りに砂埃が立った。




「まじか!」




 思わず放った一撃が相手に当ってしまったように見え、アーマーは冷や汗を搔いた。




「アーマーさん!」




「やっちゃった……」




 ヒロサスとディープが言った。砂埃が収まってくると、攻撃が当たった様に見えた青年はしっかりと防御していた。




「お~」




 ヒロサスとディープが拍手しながら声を揃えて青年が防いだことを称えた。観衆も二人に声援を送っている状況にかわっていた。青年は観衆が煩わしく思えたのか、アーマーに場所を変える提案をしてきた。




「ここだと見ている人に被害が出る……場所を変えたい」




「いや、もうお前の強さはわかったから、この勝負お前の勝ちでいいっちゃよ」




 アーマーは充分彼の強さを認識したので、これ以上の試合を拒否しようと話す。




「お前は良くても、それでは俺が困る……ここで続きをしてもいいが」




 構えに入る青年に対しアーマーは周りの事を考えて、仕方なく場所を変える提案を受けた。そしてこの青年には何か目的があるとアーマーは感じていた。




「しょうがないっちゃね~。じゃ! ついてきな!」




 そう言うとアーマーは観衆の前から素早く離れて行く。それを追う青年と二人を追う事になるミワンたち三人がその場から離れていく。




「ちょ! アマ どこ行くのよ?」




「場所変えるって、もう勝敗付ける必要あるんすか?」




「とりあえず後を追うしかないですね~」




 騒ぎの中心にいた二人が観衆の前から姿を消えると、二人を探してその場が騒ぎになっていた。




 アーマーは人のいない広い所に移動した。




(この辺なら周りを気にしなくて済むっちゃかね……)




 アーマーが足を止める。すると青年も直ぐに追いつきアーマーと対峙した。アーマーはすかさず青年に名前を聞いた。




「まだ名前を聞いてなかったっちゃね……俺の名前は」




「アーマー……みんなからそう呼ばれているんだよな! 俺の名はポン・クワトロ・ジャスティール」




 言葉を遮る様に青年が答えた。そう自分の名を名乗った瞬間に、青年は先程よりも素早い剣撃をアーマーに打ち込んできた。




「わ! ちょっとまてポン! 本気で戦う理由が知りたいっちゃ!」




「ポンじゃなくジャスティールだ!」




「その呼び名は長いっちゃよ! ポン! 俺はお前の事を知らないっちゃけど、ポンは俺を知っているのか?」




「俺も知らない! ただ、あんたを倒してくれと頼まれた! それだけだ!」




 その言葉にアーマーの考えはまとまらなかった。ポンに依頼をしたのが誰なのか全く思い浮かばなかったからである。恨みをかうようなヘマをした覚えは無かったし、賞金首になった覚えもなかった……しかし一つわかったことがある。このポンと言う青年を自分は仲間にしたいと言うことだ。




  (その依頼のことはポンを仲間にした後で聞いた方がよいっちゃね。まずはポンを仲間にするためにはっと)




 考えている時にミワンたちが追いついて来た。二人の対戦を見た三人はかなり慌てた。さっきまでと一転して完全に本気モードでの対戦になっていたからである。その剣のぶつかり合う音は大きく響き、何度となく火花が散っていた。





「ちょっと! 二人とも本気でやってるじゃないの! どういう事?」




 思わず声がうわずったミワンに、ディープも感想をもらす。




「まじっすか! アマさん疲れてないんすか?!」




「確かにこの人は凄い腕ですけど、なんで本気でやっているんですか? おかしいですよ!」




 三人が来たのを見てヒロサスにアーマーが声をかけた。




「ヒロサス! 他のみんなはどこまで来ている? わかるか?」




「ちょっと待って下さい!」




 いきなり問われて少し慌てながらも、ヒロサスは精神を集中して詠唱を始めた。ヒロサスが使用した魔法は仲間の居場所を特定できるものであった。唱えた者が見知っている人を魔法を通して感じ、近い距離であれば位置がわかるという魔法だ。




「ピロさんが近くに居ます。一緒に桔梗さんも! それとハマさんは――もうすぐ近くに来ますよ!」




 それを聞いたアーマーは決着をつける為に一気に攻撃の姿勢に転じた。




「それじゃ~そろそろ勝負付けるっちゃね!」




 アーマーは小さな剣撃で相手の攻撃のタイミングを奪い、大きな剣撃で相手にダメージを与える独特のリズムを持った剣技法を披露した。そのアーマーの攻撃にポンのリズムが崩れだし、それを見逃さなかったアーマーは決めの技を放つ。それを何とかかわしたポンだったが、その隙に背後をとったアーマーが剣をポンの背中に向けて告げた。




「勝負ついたっちゃ!」




「参った……」




 ポンは理解したように持っていた剣を地面に落とした。




「アマ!」




「アーマーさん!」




「アマさん!」




 二人の勝負を見ていた三人が駆け寄って来た。勝負がついた事で、アーマーは剣を鞘に収めてポンに話しかけた。




「どうっちゃ? ポン、俺を倒して欲しいと頼んできた奴の事を話してくれないちゃっか?」




 素直に頷いたポン。そこにピロと桔梗が姿を現した。




「遅かったっちゃね~二人とも」




「アーマーが危なそうだったら、手を貸そうかと思ってたが……」




「まあ、平気だと思ったけどね。アーマーまだまだいけるでしょ?」




 二人の言葉は戦いを実際に見ており、なおかつ何かあれば手助けできたことを意味していた。




 見ていた三人と、そしてポンはまだアーマーが余裕だった事に驚いていた。




「俺との戦いの前にかなりの人数と戦っていたはずだけど、まさかまだ本気じゃなかったのか?」




 アーマーは首を振りポンの疑問に応えた。




「いや、本気でやったさ。ただポンの前の奴らに本気でやれる相手はいなかったっちゃね」




「アーマーさんあの人数でも問題ないなんて、凄い体力ですね」




「ほんっと、呆れるぐらいの体力だわ」




「さっすがアマさん」




 ミワンたちは改めてアーマーの底力を思い知った。




 話の途中だったがポンは自ら依頼をしてきた人物の知っていることを彼の方から全て話してくれた。




「アーマーを倒して欲しいって頼んできたのは……」




 ポンの話では、依頼人はアーマーを狙うのに固執していたわけではなく、クランの弱体化を狙っていたそうだ、アーマーに決めた理由は一番手っ取り早くクランが弱体化するからだということだった。そしてポンが依頼を受けたのは彼が貧困の状態であって手伝えば金と食糧を与えるということで受けたという事だった。それに、依頼人の名前や顔などは隠されており、ポンは具体的な特徴を知らないということだった。




「じゃ~アマさんを倒せって言った人については詳しくはわからないって事?」




「そうですね。その人物の本当の狙いはわかりません」




「その話が本当だとしたら、おかしなところがあるわね……狙うのはアーマーじゃなくてもよかったって事でしょ?」




「いや……でもこのクランを狙っているのは確かっちゃ……そのために俺を狙うのは自分で言うのもなんだけど、悪くない選択だとおもうっちゃね」




 アーマーに続けて桔梗とピロも意見を言った。




「確かに……アーマーが居なければこのクランは結構ガタガタに成りかねない」




「今はヤンヤも居ないからな」




 クランが狙われてると重大な話をしていると、こちらにやってくる三人の姿が見えた。




 それはハマと二人の知らない男だった。




「この話はハマには言うな! 今は心配をかけるわけにはいかないっちゃ……何よりそいつの目的がこのクランの壊滅だったらハマを困惑させるだけだしな」




 アーマーはみんなに今の話を口止めをすると一同は頷き、そしてポンは自分の処遇をきいた。




「俺はどうなる?」




「何言ってるっちゃ、ポンはこれから俺達の仲間っちゃね かまわんっちゃろ?」




 当然のように話すアーマーにクランメンバーのみんなは納得していたが、ポンは唖然とした。




「俺はお前を本気で殺やろうとしたんだぞ!」




「もともとアーマーさんがいいだしっぺで、仲間を集めるのが目的でしたからね……」




「そう! 見どころのある人を探して仲間にするって!」




 ヒロサスとディープが気にしていないと応え、アーマーは改めてポンに尋ねた。




「ポン、お前は頼まれてしただけっちゃね? お前個人の感情でしたことでないっちゃろ? それなら俺にわだかまりはないっちゃよ、俺は殺やられていない――生きてるっちゃ……それに俺はポンとの出会いに縁を感じる。




 このクラン、聖夜に入らないか? おもしろいっちゃよ~」




 アーマーの言葉と度量の広さにポンの気持ちが変化したのだろう。ポンはしばし沈黙のあと呟いた。




「縁か……目的もないし、行く場所もない……負けた時点で俺の命はもう俺のものではないからな――こんな俺でも平気なら」




 みんなは笑顔を向けポンに声をかけた。そこにようやくハマたちが仲間の元へたどり着いた。




「ここにいたのか、みんな! この二人をクラメンにしたいんだ!」




 二人の説明を直ぐに始めたハマの話を聞いて、メンバーたちが相談した。




「つまりメンバーになって行動を共にするなら条件をきいてくれということか」




 桔梗はそう受け取った。それに続いてヒロサスも意見を言った。




「別に問題はないと思いますけど、みなさんはどうですか?」




 ピロ、ディープ、ミワンたちも反対はしなかった。




 アーマーも何か考えていたが、直ぐに二人のクラン参加を認めた。




「よっしゃ~! これで二人ともめでたくクランメンバーになったという事で、みんなに二人を紹介します!」




 しかし、ハマはそのあとの言葉が出てこない。




「ハマさん?」




「なに?じらしてるんですか?」




「そんな焦らす事もないだろ? 紹介してくれ」




 みんなに急かされるがハマは口ごもってしまっている。




 それを見かねたミワンがハマに優しく尋ねた。




「ハマ? どうしたの?」




 ハマは顔を真っ赤にして話し出した。




「あの……な、名前を聞いてなかった!」




(その言葉に思わずその場にいたハマ以外の全員がコケた。)




 

 気を取り直して、新メンバーの二人は自みずから自己紹介を始めた。




「こんな調子で平気なのか? 俺はノキサーンだ、よろしく!」




「俺はビクス、よろしく」




 大柄な男がノキサーン、細見の男はビクスと名乗った。




「とりあえずこれで二人が新たに加わったし、これで何とか琴ちゃん救出作戦できそうだね!」




「このメンツなら琴一人ぐらい助けられるはずったい。そうと決まれば段取りっちゃね!」




 一先ひとまずアーマーはみんなを連れ、場所を移動することにした。




 一同は酒場を兼ねた食事処に来ると、明日にせまった救出作戦の段取りを始め、アーマーがみんなに作戦の説明をした。この作戦は全員が気持ちを一つにすることが大前提だ。




 その為にメンバーの色んな意見を聞きながら打ち合せを進めて行く。




 今日からクランメンバーになった三人にとっては、いきなり大きな作戦となるので




 時間の無い中、充分なコミュニケーションをとっておく必要があった。




 流石だったのはアーマーの話術だ。三人を上手くクランに溶け込ますために、あの手この手で距離感を埋めて馴染ませていったのだった。そして打ち合せを終了すると。




 ハマはクランメンバーのみんなに対してしっかりと目を見て伝えた。




「じゃあみんな! 明日はよろしくね、三人が入ってくれたおかげで、救出作戦の幅も増えたし必ず上手くいくよ!」





 明日の救出作戦の話が一通り終わり、アーマーと別行動から合流した桔梗ききょうは、食事をとりながら食堂の片隅で話をしていた。




 アーマーが頼んでクランを脱退した仲間たちの情報を桔梗ききょうが持ち帰り、それを聞きながら考えを巡らせていた。




「やっぱそうやったんか……」




「ああ……アーマーの読み通りクランを抜けた奴らを探ったら理由がわかった。




 ミーチャは見知らぬ男にクランを抜けたら金をやると言われたそうだ。




 タックル、チョコはあの戦いで確かにビビったのもあったらしいけど、同じく金を積まれて他のクランに入る事を決めた。シューターは抜けた仲間と仲が良かったからそれで――コレットに関しても同じで、知らない男にクランを抜けろと言われたそうだ。そして、その全員に共通していたのが、接触してきたのが黒いローブを着た男だったって事」




 その報告はポンの言っていた情報を裏付けるものでもあった。何者かがこのクランに干渉してメンバーに揺さぶりをかけ、クランの弱体化を計っていたという事だった。




「今まで何なんの素振りもなかった仲間が、あの一件をきっかけで大勢抜けたのには何かあると思ってたっちゃ」




「しかし、その黒いローブの男が誰なのかは分からなかった……この事はハマには?」




 桔梗は口に飲み物を運びながらアーマーの考えを聞こうとしていた。




「いや、まだしばらく話さんでいいっちゃね。明日の救出作戦が終わってからでも遅くないっちゃし……」




「そうだな、今は余計な事で動揺させてもまずいからな」




 桔梗は頷いて同意した。そこへハマが楽しそうな表情でやってきて声をかけてきた。




「二人で何の話してんだ?」




「いい女はいたか? って話っちゃ!」




「そう、ハマが喜ぶ女性クランメンバー探しとかね」




 それを聞いたハマは少し酔っているのか、鼻の下を伸ばしてその話に乗り出してきた。




 ハマに勘づかれないようにアーマーが話をはぐらかしたのを理解して、桔梗も合わせてハマに心配をかけないように振る舞った。




「マジ! どんな娘がいた?」




「まあ、まあ、みんなの方で話そうか」




 桔梗がハマを連れてみんなの方に行き、その場に独り残ったアーマーは考えにふける。




 ふと、皆の輪から離れて酒場の外に出ていった二人に目をやると、それはノキサーンとビクスだった。気になったアーマーは二人と話すちょうど良い機会だと思い、二人を追っていく。




「どうした? 二人とも、もう酔い潰れた訳じゃないっちゃろ?」




「あんたか……」




 アーマーの方に振り返ったビクスが言った。




「ちょっと外の空気に当たりたくなっただけだ」




 ノキサーンは外にあるベンチに腰をかけ夜空を見ながら言った。




「そうったい、ちょっと二人には聞こうと思ってたっちゃ……二人が出した条件の事なんだが」




 言い始めるとノキサーンが口を挟んだ。




「まさか! 呑めないって言うんじゃないだろ~な!」




「いや、そうじゃないったい。ノキサーンの言ってた西の都市ファルドは、ここ数年盗賊や魔術士くずれやらの国に逆らう連中で不当に占拠されていて、治安がかなりやばい状態にある、って事を知ってるっちゃか?」




 ノキサーンはそのことを知っていたアーマーに驚いて話し出した。




「まさかファルドの近況を知っている奴がここにいるとは思わなかった……確かに、その情報は間違ってはいないな。ファルドの都市は今、実質的にトルジェ王国の統治下にはない状態だ」




「どういう事っちゃ?」




「一年ほど前、西の都市ファルドにわずか数名の者が現れて、ファルドを統治していた領主とそれに従う兵士などをすべて皆殺しにしたんだ……その時に逃げ遅れた領民などは、占拠しているやつらの奴隷の状態になってしまった」




「マジか? そこまでひどい状態なら」




 アーマーの言葉を読んでいた様にノキサーンは話を続けた。




「国が動くだろって事か? 当然だ! 周辺警備隊や首都ウォーセンからも鎮圧の兵を何度も送り込まれたが……ことごとく返り討ちにされた」




 ノキサーンの説明にアーマーも言葉が見つからない。続けてビクスが話をした。




「国ではどうする事も出来ず周辺都市には厳戒態勢をひき、誰もそれ以上の手出しが出来なくなって、今の状態になっているって事だ……その間にファルドには国の統治を無視した魔術師、盗賊、その他にも得体のしれない怪物が集まる巣窟になったという事だ」




 ビクスの説明にアーマー自身の予想よりファルドの状況が悪い事を知った。




「そんな事になってんか……ノキサーンはそんな状態のファルドに何の目的で向かうっちゃ?」




 その問いにノキサーンは両手を堅く握りしめ、しっかりとした口調で言った。




「ファルドは俺の故郷である……そして残して来た妻と子供を助けに行く為だ!」




 アーマーは自身の悪い方向の考えが外れてくれた事にほっとしているのと同時に、彼に明確な目的がある事で、自分たちとの目的の共有ができると判断出来た。




「なるほどっちゃね……一人で救出なんか当然無理だな――仲間がいればなんとかなるかもしれない。それで一緒に行ってくれる仲間を探していたって訳ったいね」




「そうだ、ただの仲間なら金を積めばいくらでも集まるだろう。だがそんな危険を冒して目的を果たしてくれる仲間はそうはいない」




「俺達も仲間を助けに行く――それが選ぶポイントになったっちゃかね。そんで、その行動力と力量に賭けてたいって事っちゃね!」




 煙草を吸いながら話を聞いていて、彼らがこのクランを狙っている者ではないとわかったのはアーマーにとって大きな安心に繋がった。




「そうだ――明日になればこのクランの力量も解る。それ次第でもあるが……」




「もちろん俺たち二人は戦力と思ってもらっていい。その辺のクラン志願者より使えるはずだ」




 ビクスが付け加える。アーマーは二人の目的の確認が取れてほっとし、再びみんなのいる酒場の中に戻ろうとした。しかし、ビクスがアーマーを引き留めた。自分の条件についてアーマーが聞いてこなかったからだ。




「俺の理由は聞かないのか?」




「ん? ああ~聞かなくても、これからいくらでも聞く機会はあるっちゃしね!また今度にでも教えてくれ、あと二人とも名前で呼ぶように皆に言っておくっちゃね、苗字で呼んでいると遠慮があってイザって時に困るしな」




 酒場へ帰っていくアーマーを見送り、ノキサーンはビクスに話しかけた。




「頼りにしていいのか……よくわからんな」




「ああ……でも俺たちは彼らに賭けるしかない」




 二人は、遠い西の夜空を見上げた。

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