第20話 新たな仲間
ラスグーンの街にいるハマたちは新たな仲間を集め始めてから、すでに三日も経過していた。しかし状況はかんばしくなかった。ただ待っていただけでなく会場周辺に来ていた人にある意味片っ端から声をかけて、クランメンバーの勧誘を行った日もあったが、仲間になってくれる人物は全く見つからなからず、先日ハマから話が出た二人のクランメンバー候補も見つかっていない状況だった。
「くそ~新しいクランメンバーが集まらない……あの二人も見つからない――このままじゃ琴ちゃんがどうなるか……くっそ~」
「まあまあ、ハマさん焦っても見つからないし下手な人がクラン入っても直ぐ辞めちゃいますよ!」
「そうですよ、今回のクラン大会はレベルも高そうですし、いい人はまだいますよ!」
焦っているハマにディープとヒロサスがフォローを入れるが、ハマは深琴が今どうなっているかが気になって仕方がなかった。
そこにミワンが血相を変えて走ってやってきた。
「ミワンさん」
ヒロサスが声をかけると、走ってきたミワンは近くにあった飲み物を一気に飲み干し、息の上がった状態を整えようとする。
「はあ、はあ……」
「ミワン? どうかしたの?」
「どうかしたのじゃないわ、ハマ! 琴ちゃんが……二日後に処刑だって事がわかったのよ!」
「えええーー!!」
「急がないと琴ちゃんが危ないのよ!」
ミワンの予期せぬ言葉にハマはオロオロするだけだった。
「どうしよう……まだメンバーも集まってないのに」
「とりあえずアーマーさんと合流しましょう! ハマさん!」
「わかったよ、アーマーに相談しよう」
四人はアーマーのいる場所へ向かっていく。
アーマーと合流した四人は、改めてミワンから深琴の状況について報告を受けた。それは明後日の昼にシーフの街のどこかで、深琴とレバンナという者が処刑されるという内容だった。
情報を知ったアーマーが話し出す。
「状況は切迫してるっちゃね……ピロと桔梗は…間に合わないかも知れんし」
弱きになっているとも、とれる発言をしたアーマーにハマは決して明るいとは言えない表情で声を絞り出していった。
「まだ時間はある! クラメンを勧誘して人数増やして……」
「ハマ……みんなにも聞いておこうと思うっちゃ……ここは引くって手もあるっちゃよ」
冷静に言ったアーマーの提案に、ハマは驚いて問いただした。
「なに言ってるんだよ! アーマー、琴ちゃんを見捨てろって事なのか?」
「そうっちゃ……この状況で人数も相手の規模も不明では不利すぎるっ……このまま琴の事は諦めて」
そう言って話を閉めようとするアーマーの襟首えりくびを掴み、ハマはくってかかった。
「そんなのおかしいだろ! この街まで一緒に来た琴ちゃんを見捨てるなんて……そんなの出来る訳がないだろ!」
「この人数で助けに行ったとしても勝ち目も無ければ、またクラメンに犠牲がでるかもしれんっちゃよ……そんな状態でどうやって琴を助けるっちゃ?」
そう言われて少し沈黙したハマだったが、思っていることを隠さず吐き出した。
「そうかもしれない。けどそんな打算的に仲間を見捨てるなんて……出来るわけないだろ! 人数なら俺が集める! だから琴ちゃんを――仲間を見捨てる様な事を言うのはやめてくれ」
語尾を強めて言うハマに他のメンバーも意見を言った。ミワンはハマの仲間を思う気持ちに改めて気が付いた。
「ハマ……あなたは」
「ハマさん……僕はアーマーさんのいう事も一理あると思います……けど、やっぱり仲間は見捨てられないですよね」
「そうだね……死んでいった仲間の仇の奴がいるかもしれないし。そう言った意味でもここで見捨てたら、俺たち最悪のクランだって言ってるようなものだものな」
ディープもヒロサスも、そしてミワンも自身の気持ちを確認した。
「私がこのクランに入って間違ってなかったと思うのは、こういう時よね」
アーマーは皆の意見を聞き、笑いを浮かべた表情に変っていた。
「やっぱそう言うと思ったっちゃね! こういう少人数で挑むときは一人でも違う意見だったら上手くいかないっちゃね!」
「アーマー! まさか、みんなの気持ちの確認する為にそんなこと言ったの?」
ハマは、アーマーがみんなに迷いが無いかを確認するために否定的な話をした事に気がついた。
「あたりまえっちゃ! 俺が琴を見捨てるなんて事は100万$をくれるって言ってるのを断るようなものっちゃよ!」
アーマーの言葉を聞いたハマたちの顔がほころんだが、現実はかなり不利な状況なのは確かであった。
「この状況を変えるには少しでも手伝ってくれるメンバーを増やさないといけないっちゃね! せめて十人、いや五人でもいい……ピロが桔梗ききょうが上手く間に合ったとしても足らんけん」
「わかってる! 必ずこの前の二人のクランメンバー候補も見つけだして協力してもらう!」
各々(おのおの)の思いと覚悟を決め、二日後にせまる処刑から深琴を救うべく気持ちを再確認したのだった。
翌日、アーマーとミワンを除いた三人は、新たな仲間を集める為に五日後にあるクラン大会の会場前に来ていた。そして、どうクランメンバーを集めるかを考えていた。
「今は大会前で会場に来ている人はあまりいませんね……」
「そうだよな~アーマーたちはどうなんだろう?」
ヒロサスと共に、ハマも困り顔で考えていた。
「アマさんの事だから、見つけてるかもしれませんね!」
三人がそんな話をしていると、何やら広場の方で賑やかな人垣が出来ていると通りがかりの人が噂していた。そんな話が気になった三人は様子を見に行ってみることにした。
「俺から一本取るか降参させたら! 金一万ドルっちゃよ! さあ誰か強者つわものはおらんっちゃか!」
人垣の中心にはアーマーがおり、どうもこの騒ぎを起こしている者に見えた。
「アーマー何やってるんだ?」
彼に近づこうとしたハマはミワンに腕を掴まれていた。
「ハマ!」
「ミワン! この騒ぎはいったい?」
それはアーマーが提案した仲間を見つける手法だった。ミワンはアーマーのやり方を聞いて、確かに強い人物を見つけるには手っ取り早い方法だと思ったので様子を見ていると三人に説明した。
「騒ぎになればその中には強い奴もいるはずだから そういった人をスカウトすれば、早く補充できるって!」
その説明を聞いたヒロサスとディープは納得した様子だった。
「下手に探すよりは効率は良いですね……しかもアーマーさんを負かせる程の腕だったら即戦力ですし」
「さっすがアマさん!やる事がぶっ飛んでる~」
二人の反応とはハマは違っていた。アーマーに頼ったメンバー探しに自分の不甲斐なさを恥じていたように見えた。
(アーマーはこうやって体張って集めようとしているのに……俺は何をやってるんだ!)
そう思うと同時にハマはその場から走り出していた。
「ハマ?」
「ハマさん?」
ミワンとディープが叫んだが、その声は届かず、ハマはその場を離れて行った。
(こんな事じゃいけない……俺自身がもっと頑張らないと! アーマーや他のメンバーにばかり頼っていちゃ……なんの為のクランマスターなんだ!)
ハマはメンバーになってくれそうだったあの二人組を懸命になって探し続けると、その気持ちが通じたのか偶然なのかハマは探していた二人の男達と巡り合うことが出来た。
その二人に向かって走っていき声をかけた。
(あれは?!)
「お~い! 君たち!」
ハマの声に気がついて振り返った二人の男は、確かに先日話をした二人組だった。ハマは少しだけほっとして、息を切らせながら彼らに近づくと話しかけた。
「君たち…ハァ! ハァ!」
「あんたは……この前のクラマスじゃねえか」
「俺たちに何か用ですか?」
大柄の男が返事をすると、もう一人の男もハマに気づいて声をかけてきた。
「この前うちのクランに入ってもいいって言ってたよね? もしまだ決まってなくて、気が変わらなければうちのクランに入ってくれないか?」
「俺達を話の途中でほったらかしてどっか行っちまうクランなんか興味ねえな!」
「あの時はすまなかった……どうしても急ぎの用が出来て、君たちに失礼な事をしてしまった……あの後も君たち二人を懸命に探していたんだよ!」
大柄の男の言うことも確かだと思ってハマは素直に謝った。その上でもう一度クランに参加してもらえないか頼んだ。その必死なようすのハマに細身の男が問いかけた。
「その急ぎの用は済んだのかい?」
「いや……まだ済んでいない。そのためにも力になってくれる仲間を探しているんだ!」
細身の男は少しばかり親近感のようなものを感じたのか、ハマを試すように言った。
「それで人手が欲しいので俺たちを探していた? そういう事かな……随分虫がいいですね……あの時私たちは、ほったらかしにされたんですよ」
「今更入ってくれと言われてハイそうですか!って言うとでも思っているのか?」
大柄の男も突き放すように言い放った。そんな二人に対してハマは誠実な気持ちを言葉にして彼らに告げた。
「本当に申し訳ない……でも、どうしても助けたい仲間がいるんだ! 君たちの力を貸してくれ! 何でもいう事は聞くから!」
その言葉を聞いて細身の男が反応した。
「なんでも? 俺たちが入るにあたって交換条件があったのを覚えていますか?」
「あ、えっと、確か――西の都市ファルドに行く事とトルジェ王国兵士の誰かを探す事だったよね?」
二人はハマに頷いて見せた。
「その約束を守ってくれるなら、俺たちは他には要求しないし、クランの事にも協力もする」
「ほんとう? 大丈夫! みんなには俺から伝えるし、必ず約束は守る! だから仲間の救出に協力してほしい」
ハマの表情は喜びに変わって、二人にクランメンバーになる事を改めて頭を下げお願いした。
二人組は目配せをし、ハマに握手を求めるように手をだしてきた。
「とりあえず他の皆さんに会ってからですが……」
ハマも出された手をしっかりと握り、二人に応えた。