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第19話 第一回近況報告会

 【星の家】で夕食を済ませ、我が家へ。
 クラマとマイアは当然いるが、キッカ、ケン、ヤスも今日は来ていた。
 実は態々呼んで来てもらったんだ。ま、呼ばなくても就寝前までは大体は来てるんだけどね。

 議題は近況報告と魔法書について
 議題と言うほど大層なものでは無いんだけど、『近況報告会』をしようと言ったら皆がノリノリになってしまったので、和室なのに大きなテーブルを態々置いて黒板も衛星に作ってもらった。
 この一階の部屋は、クラマが元の姿になっても雑魚寝ができるようにだだっ広く作っていた。
 皆の手元には紙とボールペンも配ってある。
 結構、本格的な感じになると、皆もそれなりに神妙な顔になるのが可笑しかった。

 まずは、キッカから。
 キッカはヤスと組んでこの周辺探索を毎日行なっている。
 冒険者ギルドの依頼にも当てはまるし、ちょこちょこ魔物も現れるので、食材の確保や程々のレベリングになって丁度いいらしい。
 倒した魔物はそのまま収納バッグに収納し、冒険者ギルドに持っていくと、周辺調査の証拠にもなるしケンの解体練習用の素材にもなって一石二鳥にも三鳥にもなっている。
 領主様もこちらに都合のいい依頼を出してくれて感謝だな。

 倒した魔物にもよるけど、日当は金貨五枚は下らないそうだ。もう一端の上級冒険者だね。
 素材を売って、解体もケンの練習になって、依頼を熟す事で冒険者ギルドへの貢献度も上がって、レベルも上がって、食材も確保できて、お金も入る。正に黄金のループだね。

 ヤスはキッカと行動を共にしてるので聞く必要は無い。
 「そりゃないっすよー」と言ってたけど、さっさと終わらせて魔法書の事を早く聞きたかったのでスルーした。
 ケンは順調に解体の腕を上げていると、良い顔をして話してくれた。
 解体担当のボス、ガンドランダー、通称ガンさん。ケンからおやっさんと呼ばれて喜んでた、デカくて強持ての見かけによらず可愛い熊の獣人から、もうすぐ一人立ちできるとお墨付きを貰ってると自慢気に報告してくれた。
 最近は早めに帰ってきて、【星の家】の子供達の中の希望する子にはケンが先生になって解体を教えたりしてると付け加えてくれた。冒険者ギルド登録をした子は殆んどケンの解体の弟子になってるようだ。

 この周辺は魔物のレベルも高いようだけど、キッカが町に行った時に装備は購入して来るので、命に関わる事は無いみたいだ。
 でも、怪我はする。回復系の魔法を使える者はいないので、今は回復薬頼りだ。それも魔法書の使い方を覚えれば今後に役立てられるんじゃないかな。
 という事で、さっさと報告会を終わらせよう。

 次はクラマだ。
 クラマも昼間はいない、いつもどこかに出掛けている。そういう意味ではマイアもそうなんだけど、マイアの行き先はマンドラゴラとアルラウネのいるマイア畑に行ってるはずだから、謎なのはクラマだけ。
 クラマがいつも何をしてるのか、興味も#一入__ひとしお__#だ。

 だけど、クラマの言葉は俺の上がったテンションを落胆させるものだった。
 レッテ山で魔物を倒したり生態調査をしたり、池にある『#漆黒大蛇迷宮__ピュートーンダンジョン__#』に行ったりと、普通の報告をされた。
 今までと何ら代わり映えしない事をしてたみたいだ。
 因みに『#漆黒大蛇迷宮__ピュートーンダンジョン__#』は、ラスボスを倒しても、次の日には復活してるらしい。同じ奴が復活するらしいが、何度倒しても経験値は入るらしいので、大体一日の終わりにはラスボスを倒して家に戻ってくるという事だった。
 ラスボスの所へは直接#転移__ジャンプ__#できるそうだが、どうやってかまでは教えてくれなかった。クラマって意外とケチだ。

 俺も地図の件があるので、行く予定だから教えてほしいとも言ったんだけど、それでも教えてくれなかった。
 順番に一階層から行くと魔物に出会えないけど、いきなりボス部屋だったら、俺もラスボスが見れるかもしれないから、ちょっと粘ったんだけどダメだった。

 気を取り直してマイアの報告を聞いた。
 マンドラゴラとアルラウネの繁殖は順調で、既にマンドラゴラとアルラウネを素材とした魔法薬 も完成していて、更に今の場所が手狭になってきたから拡張してもいいかと問われた。

 別に断る理由もないし、レッテ山の麓周辺ならと許可を出した。
 前回の植え替えの時は勝手に移動させたのに、今回は俺に許可を求めるあたり、本当に何か意識が変わったんだね。

 今は管理させるために、俺の従者になった三精霊とは別に精霊を一人召喚してるらしいが、畑を増設するに当たって、飛び地にするから更に一人召喚するので、二人の名前を考えてほしいと要求された。
 名付けに関しては今まで通りの態度で、ほぼ命令だった。

 魔法薬も見せてもらった、というか貰った。
 ズラズラ~っと出して見せてもらったけど、綺麗なガラスの小瓶に液体が入っていた。
 ガラスの小瓶と言っても、本当に小さくて見た目も大きさも10ミリグラム程度の薬品アンプルまんま。使い方も頭の部分を折って中身を飲むか振りかけるかで効果があるらしい。
 それを百本ずつの単位で出してくるので、出されるものから俺が収納。キッカ達にも収納を手伝ってもらう。

 全部で五千本はあったんじゃないだろうか。
 こんな少量で効果があるのかと聞いたら、HP1000の者が瀕死になっても全快できると説明された。こんな少しで? と思わないでも無いけど、マイアがここまで断言するんだから本当なんだろう。
 続いて、同じアンプルで色違いを同数。こちらはMPを回復させる魔法薬で、こちらもMP1000を全回復させるものだそうだ。
 売値っていくらぐらいなんだろう。いや、そもそも市場に出してもいいものなんだろうか。

 最後にマイアが出したものは丸薬だった。少なくとも俺にはそう見えた。
 マイアの説明では、これは丸薬ではなく種のようなものだという。
 意味が分からないので説明を聞くと、部位欠損のための薬だと言う。
 部位欠損って手や足を失う事だよな。その失われた部分に埋め込み、HP回復薬かMP回復薬を振り掛けると生えてくるそうだ。
 これらの薬に名前は無いのかと聞いたら「ありません」とキッパリ言われた。
 それ以上ツッコむと、また名付けをさせられそうだったから自重したよ。

 しかし、凄いな。これだけの薬ができるマンドラゴラとアルラウネ。幻の素材って言われるだけの価値はあるよ。
 でも、これだけ作って更に畑を広げるって、どんだけ増やしたんだ?
 そう思って聞いてみたら、HP回復薬にマンドラゴラが一本、MP回復薬にアルラウネが一本、部位欠損回復の丸薬にそれぞれが一本ずつ。合計四本しか使われて無いそうだ。
 凄過ぎるね。
 マンドラゴラやアルラウネも勿論凄いけど、その薬を精製できるマイアもまた凄過ぎる。

 最後は俺からの報告。
 俺の事は殆んど伝えてあるんだけど、報告会だからね、一応俺からも報告しておく。
 国家認定の冒険者になれるかもしれない事、もし了承の返事が来たら王都に出向かないと行けない事。今いる土地が借地になってしまったけど、国家認定冒険者になったらレッテ山の麓全域を使ってもいいと言われてる事。奴隷を購入した事、その奴隷を奴隷から解放してケーキ屋をしようと準備中である事。
 今日、魔法書をもらって来た事。

 大体、俺が言った事は知ってたみたいだから質問も無く、次の議題に移れた。

 魔法書を一冊出して、皆に尋ねる。
「これが今日もらった魔法書なんだけど、使い方を知ってる人」

 シ―――――ン

「キッカは知らない?」
 首肯で答えるキッカ。そのままケンとヤスに目を向けるが、首をブンブン振り手でもバツを作り完全否定する。
 キッカが知らないものをケンとヤスが知ってるはずもないか。

「じゃあ、クラマは? クラマは魔法も使えたよね」
「知らぬ。#妾__わらわ__#が魔法書など読めると思うておるのか。魔法など生まれた時より使えておるわ」
 生まれた時からは言い過ぎだと思うけど、文字も書けなかったし本には縁が無いんだろうな。
 そういう意味ではマイアも同じか。

 と思ってマイアを見ると、
「私が使うのは精霊魔法ですので、魔法書の魔法とは相容れぬ魔法です。覚え方は知りません。それよりエイジは妖精にも好かれてますから精霊魔法を覚える方がいいのでは?」
 ん? 俺って精霊魔法の素質があるの? それなら覚えたいかも。
 魔法を使えるようになれるんなら、どっちでもいいんだけど、簡単で便利な方を選びたいな。

「マイア、精霊魔法ってどうやって覚えるの?」
「精霊魔法は妖精か精霊と契約をします。魔力を常時消費する常時存在契約か、召喚時だけ魔力を消費する召喚契約かを選び、必要な時に妖精か精霊の力を借りて発動します。精霊召喚の場合でしたら、魔力を与える代わりに魔法を発動させる事もできます」

 常時存在って事は、ずっと妖精に纏わり付かれてるって事か。
「どっちの方がいいの?」
「一長一短ですね。常時存在契約は、すっと魔力を消費しますので、位の高い精霊と契約すると、それだけで魔力の枯渇に繋がります。しかし、ずっといるという事は、危機の察知や急な要請にも答えます」

 ずっと魔力の消費を続けるのか。でも、危機察知などをしてくれるんだな。
「召喚契約は召喚する時に魔力を消費するだけで、一発だけ得意な魔法を放って還って行きます」
 こっちは魔力消費がその時だけなのでそこはいいんだけど、サポートはしてくれないのか。

「どちらも契約は難しいですが、エイジはもう妖精に懐かれてますので、常時存在契約でもいいかもしれませんね」
「それって畑にいる妖精の事を言ってるよね。俺が召喚したわけじゃないけど、それでもいいの?」
「構いません。妖精は契約してしまうと、その人が悪の化身であっても契約者からの協力要請を絶対に断れません。私が召喚した妖精です、私が譲渡すれば問題ありません」
 また、三精霊の時みたいに又貸しみたいになるの?
 畑にいる妖精って相当な数だけど、マイアはあれだけの妖精を召喚しても大丈夫なのかな。ま、レベルも保有MPも俺とは比べ物にならないから問題ないんだろ。

「じゃあ、召喚契約は?」
「精霊界へ行って契約をさせるか、魔法陣で呼び出して契約をさせるかですが、相当気に入られるか、実力差を示さなければ契約は難しいでしょう」
 精霊界へ行くって、そんな事できないだろうし、呼び出して力を示せって…無理だね。

「私でも妖精と契約できますか?」
 キッカが割って入って来た。
「キッカですか。あなたにもお世話にはなってますから一匹ぐらいならいいですよ」
「ありがとうございます! 私達、回復担当がいないので、回復系の妖精と常時存在で契約したいんですけど、どの妖精がいいですか?」
「回復魔法はどの妖精も持ってますが、水が一番効果の高い回復魔法を使います。状態異常回復も持ってますので、水の妖精がいいですね。ウンディーネ、ウォーター・リーバー、ケルピー、シービショップなどいますが、皆池にいますから好きな妖精と契約をすればいいでしょう」

 池? 畑じゃなくて? それって……
「池にいるって事は水から出られない妖精って事?」
 キッカの代わりに俺が聞いてみた。
「出られなくはありませんが、身体を浮かせるか変身しないと陸上での行動はできませんから、その分の魔力の消費も契約者が負担します。召喚契約にする事をお勧めします」

「むー……」
 常時存在契約にしようと考えてたのか、キッカが考え込んでしまった。
 なにか思いついたのか、キッカが顔を上げてマイアに尋ねた。

「じゃあ、畑にいるシルフ達は回復魔法が使えませんか?」
「使えますけど、大した効果は望めませんよ。風の妖精は補助や攻撃が得意ですから」
「むー……」
 キッカはまた考え込んでしまった。
 そんなキッカに俺がアドバイス。

「別に今慌てて決める必要は無いだろ。マイアが一匹は契約していいって言ってくれてるんだから、ゆっくり決めればいいんじゃないの?」
「…そうね、そうする」

 これで会議は終わりでいいかな。
 あ、最後にこれを聞いとかないと。

「あのさ、占いと思ってくれていいんだけど、ここの子供達が人間不信になってるみたいなんで、その人間不信に効果がある場所って聞いたらスラム街に連れて行かれたんだ。スラム街ってそういう効果があると思う?」
「占い?」
「そう占い。凄くよく当たる占いなんだけど、今のところ効果が見えなくてね。接点も見えないんで困ってるんだ」

 衛星に連れて行ってもらったんだけど、占いって言っておけば無難だろ。
 俺の問いにはキッカが答えてくれた。

「効果は分からないけど、イージが連れて来たピエールって子、うちの子達と凄く仲が良くなってるよ。それが接点にならない?」
 あ、本当だ。ピエールってスラムから付いて来たんだった。だったら、何か分かるかもしれないな。
 明日にでも聞いてみるかな。
「ありがとうキッカ」

 これで、第一回『#煌星__きらぼし__#冒険団』の近況報告会は終了した。

 俺の知りたい事は分からなかったけど、意外な事がいっぱい知れたし回復薬なんかも貰えて有意義な会議だった。
 今後も定期的にやりたいね。

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