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第17話 祝賀会

 領主様に呼ばれて訪れた城だけど、城門の審査で揉めた。
 招待客の名前の中にクラマとマイアの名前が無かったからだ。

 そういえば従者は誰も連れて来るなって言われてたっけ。

「クラマ、マイア、今日はお前達はダメみたいだ。先に帰って待っててよ」
「ふん、たかが人間の分際で#妾__わらわ__#を拒否できるはずも無いであろう」
「ええ、それには同意です。ここはクラマにお任せしますわ」
「#相__あい__#分かった」

 【狐火】!

 シュボッ!

 クラマが小さな青い炎を一つ出した。
 青い炎が門兵達の前で浮かんでいる。
 大きく回りだしたね、兵士の皆さんが全員で青い炎を目で追ってるよ。
 回り方が小さくなってきて回転も速くなってるよ。

 あれ? 兵士達の目が虚ろになって来て無い?

 ボヒュッ!

 青い炎が消えるとクラマが一言。
「通ってもよいのじゃな?」
「はい…どうぞ…お通りください」
 兵士が覇気のない声で答える。

 これって催眠術じゃん! 魅了なのかもしれないけどさ、そんなので入ったら不正じゃん! 俺も人の事は言えないけど、この後どうする気なんだよ。入るだけじゃダメなんだぞ。

 呆気に取られてる俺を置いて、二人はさっさと城に入って行く。
「ちょちょっと待ってよ」
 慌てて二人の後を追いかけて行った。


 先行した二人に追いつき祝賀会会場に入ると立食形式になっていた。
 入り口での入場チェックは無かったのは助かった。
 入ってみると、華やかで豪華な世界が広がっている。
 男は軍の制服や貴族のキリッとした衣装しかいない。女はドレス、ヒラヒラになっているもの、肩を出しているもの、タイトなものからふんわりした物まで色鮮やかに会場を華やかな雰囲気に飾っていた。

 よかったぁ、装備を衣装に着替えさせてくれたセシールさんに感謝だな。ここまで煌びやかな世界だとは思わなかったよ。軍の兵士なんかもいると思ってたから装備でもいいと思ってたけど、甘かったなぁ。兵士関係の人も白の制服で金の装飾をされた格好いい制服で統一されてるよ。

 マイアはドレスだから会場の雰囲気に合ってるけど、クラマは和風の着物に似た服だからちょっと浮いてるかな? 留袖みたいなもんじゃ無くて、巫女さんみたいにゆったりとした着物だからまだマシだけど、クラマにドレスを調達してあげた方が良かったかな? でも、クラマって服なの?

「クラマ、その服ってさ、着替えれるの? なんならドレスに着替える? 俺が用意するよ?」
「そんな心配は無用なのじゃ。#妾__わらわ__#は変幻自在、必要と思えば衣装も変えられるのじゃぞ」
「へぇ、服も変身できるって事か…あ? 領主様が来たけど、何か怒ってる? あ! お前達二人の事じゃないかな、従者は無用って言われてるから」
「怒りの対象が私達とは分を弁えぬ者もいるんですね。では、ここは私が」

「【ポレン】&【スメル】」

 マイアを中心に何かが飛び散った。
 あ、いい香り! なにしたの?

「【ヘイフィーバー】」

『『『ハックション!!』』』

 会場中の人が同時にくしゃみをした。してないのは俺とクラマとマイアだけ。
「マイア、何したの! 毒とかダメだよ、いい香りがしたから違うとは思うけど」
 今更だけど小声でマイアに注意した。

「大丈夫です。少し花粉を振りまいて、私達が招待客である事を認識させただけです。毒などはありません。花粉だけでは無粋ですので香り付けをしました」
 何それ、集団催眠みたいな物? 花粉を吸わせて心を操ったって事? ここの全員を?
 あ、領主様も顔が穏やかになってる。にこやかな笑顔でこっちに来るぞ。さっきまでの表情とは大違いだ。

「ようこそイージ。今日は息子の帰還と次期領主の継承を祝ってやってくれ」
「どうもお招き頂き……えっ! 領主様が変わるのですか?」
 帰還のお祝いだけだと思ってたから驚いた。挨拶の途中にも関わらず質問してしまったよ。

「すぐに変わるわけではないが、変わる準備を始めると言ったところだ。いきなり明日から領主としてやれと言われてもできるもんではないからな。今日、この式で今まで曖昧であった後継者問題をハッキリとさせておいて、徐々に業務の引継ぎを行なっていき、一年後に継承式典を王都で行ない代替わりとなる。これからアンソニーは領内にいて政務に携わって行く事になるな」

 凄く丁寧に説明してくれたけど……ああ、俺以外の人への説明も兼ねてるんだね。
 納得して頷いてる人の姿が何人か確認できるよ。

 でも、俺の中では領主交代って、現領主が亡くなって次の人が継ぐものだって思ってたから、途中交代するって聞いての驚きもあったんだよね。そこも聞いてもいいのかな?

 んー、辞めとこ。俺には関係ない話だしね。
 しかし、効き目抜群だね。城門の所でのクラマをいい、この会場でのマイアといい。やりたい放題だよ。こんな力、悪用されたら人間の町なんて簡単に滅ぶんじゃない? ここにだって騎士というか、その上職の人達がいて、その人達にも効いてるって事は、その気になったらクラマやマイアは人間を操り放題じゃないのか?
 そう考えると怖いよね、二人にその気は無いように思えるから今はいいと思うけど、今後は注意して見ておかないとね。

「ようこそエイジさ……エイジ。クラマ様、マイアドーランセ様もお久し振りでございます」
 領主様が移動して行くと、代わってアイリスがやって来た。

「あ、アイリス、久し振り。あ、じゃなくて、本日はおねまきいたまき……」
 ……噛んだ、恥ずかしい。

「ふふふ、そんなに畏まらなくてもいいんですよ。その為の立食パーティなのですから」
 噛んだ俺を慰めてくれるアイリス。優しいよね、うちの二人もこれぐらいしてくれたら怒る事も無かったんだけどね。いや! それは終わった事だよな。仲直りしたんだからもう何も言うまい。今後に期待だ。

「ありがとう。今日は二人はいないの?」
「ケニーとターニャの事ですね。二人は会場の外の警備に回っています。それでエイジにお話があるのですが、少し二人きりになれませんか?」
 うっ、二人きりか。前回の件があるから遠慮したい。今日はクラマとマイアも俺から離れそうに無いし、難しいんじゃないかなぁ。

「ここじゃダメ?」
「……はい」
「クラマとマイアも?」
「……お二人なら結構です」
 また何かした? クラマもマイアも何かした素振りは無いね。だったらいいかな。

「分かった、込み入った話なんだね。どこに行けばいいの?」
「ありがとうございます。では、バルコニーなら今は誰もいませんから、そちらでお願いできますか?」

 アイリスに誘われるまま、俺達もバルコニーに出た。
 パーティ会場から出ると、広いバルコニーがあり白いテーブルセットもあった。
 アイリスはテーブルセットを通り過ぎ、手摺の所で立ち止まった。
 俺達もアイリスの傍に行く。

 外はまだ明るいが、もう少しすると陽も落ちて来るだろう。何時頃まで祝賀会をするのかは分からないけど、特に知ってる人もいないし、顔繋ぎをしたい人もいないし、アイリスの話が終わったら帰ろうかな。

「それで? 話って何?」
 言い難そうにしているアイリスに声を掛けた。

「……お父様を助けてください。私が頼れるのはエイジしかいないのです」
 領主様を助ける? さっき会ったけど元気そうだったぞ?
「領主様を助けるってどういう意味? 今も会場にいらっしゃるみたいだけど」

「はい……実は、剣を探して欲しいのです」
「剣?」
 意外な相談だった。俺はてっきり恋人にしてくださいって再告白されるのかと思って警戒してたよ。それが領主様を助けるだの、剣を探して欲しいだの。どういう意味なんだ?

「はい、以前エイジに魔族から助けて頂いた時にお父様が持っていた『封魔の剣』なのですが、どうしても修復の目処が立ちませんでした。それに責任を感じたお父様が、お兄様に領主の座を譲って引退しようとしています。引退後は修復できる鍛冶屋を求めて世界を旅するとおっしゃられて……」

 あー、そんなのあったねー。ファルシロンだっけ? 残念な名前の剣。確か、魔族に折られたよね。先祖代々伝わる剣と言ってたから、領主様が責任を感じて直す旅に出るってとこかな?
 でも、そんなの誰かにやらせればいいのにね、領主様なんだから。お金も権力もあるでしょうに。

「他の人には頼めないの?」
「できません。封魔の剣が折れた事を他の貴族に知られる訳には行きません。フィッツバーグ家の存続に関わります。この件は現場で見ていたエイジと、そのお仲間のお二人ですからお話ししたのです。昔、フィッツバーグ領の領主になった時に王様から賜った我がフィッツバーグ家の至宝の剣が折れたなど、誰にも悟られるわけには行かないのです」

 そんなに大事なものだったんなら、そんな剣で戦うんじゃないよ! 何やってんだよ領主様は。
 大体、剣なんだから折れる時もあるさ、それがお家の一大事になるほどの事なの? たかが剣じゃないか、いくら王様に貰ったものだとしてもさ。相当古い剣だったんだろうし、経年劣化で折れやすくなってたんじゃないの?
 黙ってればバレる事も無いだろうけど、そんな事ができる領主様じゃなさそうだし、困った領主様だね。

 たぶん、いや絶対衛星なら同じ剣を作れるだろうし、修理もできるんだろうな。
 やってもいいんだけどさ、また色々聞かれるものイヤじゃん。前回、マスター達と来た時にあっさり秘密をバラしちゃう領主様だし、俺がやったと分からないようにしたいんだよね。
 ま、一年は猶予がありそうだし、協力する方向で答えておこうか。最終的にはまた忍び込んで、誰がやったか分からないようにコッソリ直してもいいしね。

「わかった、協力するよ。でも、何から手をつければいいか分かんないし、時間もまだある。まずは修理できる優秀な鍛冶屋を探せばいいんだよね?」
 あれ? 優秀な鍛冶屋? 最近聞いたような……

「はい、でも時間は一年しかありません。時間があるとは言えないと思います」
 一年が短いか。どう取るかによるけど、俺には解決が見えてるから後は解決までのルートを逆算で探すだけだから短いとは思えないんだよね。
 答えが分かった式を作るって感じかな。

「ま、なんとかなると思うよ」
「真剣に考えてくれてますか? 私は凄く真剣に相談してますのに」
 俺の軽い口調の答えに満足できなかったアイリスが怒ってしまった。
 すかさず言い訳をしようとしたら、クラマが割って入って来た。

「そんなのはエイジに任せておけば楽勝じゃ。安心して待っておればよいのじゃ」
「そうです、私達二人がかりでも及ばないエイジですもの。簡単に解決できますわ」

 ……その丸投げ的発想に変更は無いんだね。
 二人がかりでも及ばないって…あー、衛星で付いて来ないようにさせた時の事を言ってんのか。クラマは出会った頃にも味わったやつだな。確かにレベルやステータスが凄いこの二人を押さえ込む衛星って凄いよね。

「そうなんですね。でも、口の堅い優秀な鍛冶屋ってドワーフしかいないと思うのですが、ドワーフに知り合いでもいるのですか?」
 ドワーフ!! そうだよ、ドワーフに今度会うんだよ、外装工事を頼むために。
 何があったか知らないけど、腕は優秀なのに最近は鍛冶仕事をしてないって言ってたよな。その人がやった事にして衛星に任せるってどうだろ。
 一度会ってみないと何とも言えないとこだけど、中々の名案じゃない?
 だって今は鍛冶屋じゃないんだから、目を付けられる可能性も低いし、口が堅いかどうかは会ってみないと分からないけど、攻略ルートが見えた気がするよ。

「うん、知り合いじゃ無いけど、近々知り合いになる予定かな。さっきより何とかなるような気がしてきたよ」
「……さっきよりも、ですか。知り合いにドワーフはいないのですね」
 テンションが上がった俺とは対照的に、アイリスの態度はハッキリと落胆していた。

「うん、でも何とかなると思う、俺に任せてよ。どうするかはハッキリ言えないけど、一年以内には解決できると思うよ」
 一ヶ月でも何とかなりそうだけど、多めにね。
「わかりました。では、解決できたら教えてくださいね」
 期待はされてないみたいだね、態度で分かるよ。

「そこの者! その場を動くんじゃないぞ!」
 え? 俺?
 男が一人、凄い勢いで俺の元に走ってくる。

 え? 誰?

 ズッダーン!

 男が勢いよくすっころんだ。
 マイアに足を引っ掛けられて、勢いよく俺に飛んで来そうな所をクラマに上から潰された。

 二人共、グッジョブです。助かったよ。

 で、だれ? この人。

「お兄様……」
 お兄様!? ってことは次期領主様? なんで俺にかかって来たの? 殴られそうな勢いだったよ?

 なんで?

しおり