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蹂躙の始まり

「もっとよく狙って、ほら1発必中を意識してください」

「それは無茶苦茶だよアイリ、外れ弾が出るのは仕方ないって」

「無理ではないです。 全神教と事を構えるというのであれば、備えておくに越したことはありません」

訓練場でアイリに半ば無茶な要求をされ、セラはげんなりしていた。
ガトリンクバックラーの精度を向上させるのは良いにしても、全ての弾を命中させるのは神の領域に等しい。

「効率を上げて、短時間で決着を付ける様にしましょう」


【効率良く人に当てて殺せ】


アイリがやらせようとしているのは、こういうことだ。
外れ弾が無関係な人に当たれば、治療費や慰謝料を渡さなければならない。
無駄な出費をしたくない、商人気質がこんな形で出ていた。

「それに早く全神教を解体出来れば、それだけ慰み者にされる女性も減らせますから…」

ようやくアイリの真意に気付けた、自分と同じ目に遭う女性を出したくないのだ。
そうなると良い所を見せたくなるのが、セラの良いところでもあり短所でもある。

「じゃあ、アイリにとっておきを見せちゃおう!」

「とっておき?」

セラのとっておきを見せられたアイリは、採算度外視という思考を植えつけられた。

「あのとっておきが有れば、多少の外れ弾も気にする必要無いでしょ?」

「アレの前では、採算とか命中とか考えるのがバカらしくなりますね」

「でしょ?」

「でも小盾の方は、今後も練習を続けて下さいね」

残念ながら、どうしても譲れない一線があるらしい。
しかし初めて出会った頃と比べて、感情を表に出すようになった。
良い兆候だとセラ・リリア・リィナの3人は考えている。

別の意味でいえば、セラの毒牙がすぐ近くまで迫っているのかもしれない…。

セラ達がアイリを助け出してから、さらに2つの娼館を潰して分かったのは全神教の変わらぬ業の深さだった。
精神に支障をきたしている者までおり、とても許せるものでは無い。
だが1番許せないのは……。

「好みの女の子までエロ爺に食われているのよ、絶対に許すわけにいかないわ!」

単に可愛い女の子を先に食われてしまった逆恨みである。



さすがに3ヶ所も娼館を破壊されれば、全神教の上の者たちも自分達が狙われていることに気付く。
そこで総本部へと繋がる教会周辺に武装した者を置き始めた。
静かな湖畔に大規模な駐屯地が作られ、セラ達を迎え撃つ準備が進められていた。

コンコン……。

「失礼します」

「ご苦労、ヴェントル団長」

「本当に総本部に攻め込もうなどという愚か者が来るのですか?」

「彼の者たちは、我らが全神教の信徒が集まる宿泊施設を襲撃してきた。 この地にも災いを招こうとするだろう」

宿泊施設と聞いて団長の顔が醜く歪んだ。
建前は宿泊施設だが、実際は娼館であることなど百も承知。
団長だけでなく、団員たちもそこで良い思いをしてきているからだ。

「奇跡的に生き延びた連中の話じゃ、襲撃者は少女3人という話だ。 捕縛した時は、あんたよりも先に味見させてもらうぜ」

「構わん。 そのまま壁にでも埋めて、許しを乞う姿を見て楽しむが良かろう」

それを聞いたヴェントルは薄ら笑いを浮かべて部屋を後にする。

「これより魔装兵団、湖畔の防衛任務に入ります!」

駐屯地に戻ったヴェントルは待っていた団員たちに報告した。

「おまえら、クソ野郎からの許可は頂いた。 襲撃者の女共を捕らえれば、俺たちの好きにして構わないそうだ」

「クソ野郎って団長の兄君ではないですか?」

「兄とはいっても異母兄弟だ、母親が違えば育てられ方だって違う。 父親ゆずりの腐った性根だけが同じだ」

団員たちの間から笑い声がこだまする。
全神教が異教認定した者たちの弾圧や、教会内での秩序回復をもくろむ者を粛清する暴力機関。
それが魔装兵団である。

「ガキが3人だ、どうせ余裕ぶっこいて街道をやってくるに決まっている。 大人を怒らせたらどうなるか、きっちり教えてやれ!」

この時、彼らはまだ見ぬ少女たちを完全に見誤っていた。
3人それぞれが、一騎当千の実力を持ち合わせていることに。

愚か者は、無知であることに気付かない。
リーダー格の少女が、別世界の異物を所持していることを彼らは知らない。
もしもこの事を知っていれば、きっと全員が逃亡を図っていただろう。
2日後、湖畔は一面赤い血で染まった……。



ドルルルル……!
聞いたことの無い音が、早朝の湖畔に響き渡る。
慌てて陣幕から兵士たちが飛び出すと、死守すべき教会の前に3人の少女が立っていた。
夜間の見張りが手を抜くことは考えられないし、結界が破られた様子も無い。
混乱している魔装兵団を前に、青いワンピースを着た少女がクスクスと笑い始めた。

「駄目ですよ、修行をおろそかにして。 こんな結界を張る様じゃニナリス母さんに叱られますよ」

「なっ! 貴様はニナリスの娘か!?」

「ええ、リリアと言います。 とは言っても、もう母さんも私の結界を破る事は出来ないですけどね」

とても信じられない事を言う娘に驚愕していると、いつの間にか教会の建物の両側に丸くて太い筒が出た小さな塔が立っていた。

「射程4km、毎分5000発」

「?」

「この2つの断罪の塔がそれぞれ持つ、攻撃能力よ。 あなた達全員この塔の射程内に居るわ、慈悲は期待しないでちょうだい。 後悔は地獄に堕ちてからすれば良いわ」

セラの挑発にいとも簡単に乗ってしまう魔装兵団、その殺気に反応して断罪塔が動き出した……。

「ファランクス、女を食い物にする愚か者達を全て消し去りなさい!」

ブィイイイイ……!!

断罪塔の裁きが開始された。

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