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荒野

「・・・・・・ほぅ」

 真っ暗な闇の中、少年の僅かに感心したような声が小さく響く。

「やや遅いぐらいだが、それでもやっと最初に抜けた出た者が現れたか。後はこれに続く者が現れるかどうかだが・・・」

 少年は暫し考えるも、一つ息を吐くと頭を切り替える。

「侵食速度は上々。干渉は軽微。組み換えは・・・まだ上手くいっていないか。向こうもまだまだ始まったばかり。こちらはほぼ終わりだし、もう少しこうしておくか。・・・あれはギリギリのところで保ててるようだが、さてはて、何がきっかけで崩壊するのか。まだ少しは楽しめそうかな」

 遠くを見つめていた目を細めると、少年は視線を別の方向へと動かした。





「暑い」

 荒野を歩いていると、日中の暑さに額に汗が噴く。
 どうも人間界と比べても気温が高いようで、荒野に来てから数日経ったが、まだ適応出来ていないらしい。
 その暑さに、魔法を使おうか悩む。夜は夜で結構気温が下がるので、その差についていけずに体調を崩してしまいそうだ。
 荒野を大岩目指して進んでいるが、異形種に数体遭遇しただけで、他に生き物は見掛けていない。
 その遭遇した異形種も、こちらに気づいて直ぐに武器を捨てて戦闘の意思がない事を示してきたので、戦いにはならなかった。意味も無いのにわざわざ戦う必要もないからな。
 最初に目指していた大岩には辿り着けたが、そこに在った洞窟には誰も居なかった。大勢が生活していた痕跡はあったのだがその跡は古く、一応そのまま洞窟を調べてみれば、奥の方が崩壊していた。
 崩壊した周囲もところどころが崩れていて、真っ黒く染まっている。それに、そこら中に骨が転がっているのが目につく。

「ここで戦闘があったようですね」

 崩壊している黒い壁を確認していたプラタが、そう口にする。

「戦闘? という事は、ここに転がっている骨は戦いに敗れて死んだ者達、という事か」
「はい。この崩壊もその時に起きたのでしょう。そして、それを起こしたのは間違いなく――」
「あの幽霊、だろうね」
「はい。こういった場所が荒野と砂漠には幾つも存在しております」
「正しく虐殺だね。何の為にしたのかは知らないけれど、襲われた方はたまったものじゃないね」

 ある日突然住処を襲撃された上に、圧倒的な力で皆殺しにされるなど考えたくもない。住処も壊された訳だし。

「この崩れた岩の奥にも空間は広がっているんだよね?」
「はい。入り口からここまでよりも広いです」
「そっか・・・」

 そこにはこれ以上の骨が転がっているのだろう。しかしだとしたら、この崩壊は最後に意図的に行ったのかな? でなければ、この先にも出入り口が在るか、穴でも空けて出たのかもしれない・・・もしくは転移という手もあるか。

「・・・・・・このままここに居てもしょうがないから、戻って別の場所に行こうか」
「畏まりました」

 荒野を一ヵ月ほど見て回ろうかと考えているので時間は少しあるが、それでも多くはない。広い荒野を見て回ると考えれば、それでは少なすぎる。帰りは転移で戻るので、片道分だけ考えればいいのは助かるけれど。
 プラタに声を掛けた後、洞窟を後にする。
 次の大岩を目指すが、距離があった。大岩と言っても一つ一つが山の様に大きいので、その間を進むだけでも大変だ。
 その距離に、これは不便ではないかとも思うも、もしかしたら集落同士で交流はあまり盛んではなかったのかもしれない。
 それにしても、その大岩以外は何処を見ても地面ばかり。まだ木の一本も見ていないが、何を食べて暮らしているのだろうか?

「プラタ」
「如何なさいましたか?」
「ここに住んでいる者達は、何を食べて生きているの? 何も無いように思うんだけれど」

 周囲に目を向けながらボクが問うと、プラタは地面に目を向ける。

「主食はこの土です。それと、地面を掘るとたまに出てくる芋のような植物を食べております。狩りをするにも、他の生き物を見つけるのが難しいので」
「土を食べるの?」

 プラタの視線を追うようにその先に目を向ける。そこには赤茶けたような土や白っぽい砂礫のようなものがあるだけ。ついでに地面に這うようにして広がる草も。

「はい。少し掘ったところの土からであれば、軽く固めて食べられるようです」
「この草は?」
「この草の根に先程申し上げました芋のような実が生るのですが、中々それは実らないようで、草の下を掘れば見つかるというモノでは御座いません。そして、この草の葉や茎や根っこ、つまりはその実以外には毒がありまして、それらを食べるには処理にかなりの手間が掛かるのです」
「そうなんだ。じゃあ水は?」
「異形種達も魔法は使えますので」
「なるほど」

 どうやら食糧事情は明るくないらしい。まあそれは見れば分かるが、食事がつまらなそうだな。・・・ろくに食べないボクが言う事でもないだろうが。
 それでもここに住んでいるのは、こういう場所にしか住める場所が無いからだろうな。周辺は魔族やエルフとか、異形種では勝てない種族ばかりだし。
 数が多いといっても、一定以上は増えていないのがその証拠だろう。
 まあそれでも、わざわざ異形種を滅ぼしてでも手に入れたい土地でもないので、絶滅まではしていないという事だろうが。
 荒野が旨みの少ない土地であるのは実際に見て理解出来たので、こんな土地を欲しいとは思わないのは納得出来る。というか、もしも手に入れたら管理する手間が増えるので、損失の方が大きくなる。
 そんな土地だからこそ安全なのだろう。この辺りは人間界と同じだが、こちらの方が損失は大きそうだ。それに、人間界は周囲を森が囲んでいた事も大きい。
 旨みの少ない平原を手に入れるには、まずは森に住まう種族を倒さなければならないのだから。攻める方角にもよるが、それでは割に合わない。
 平原から手に入れられる物も無くはないのだが、それよりもやはり防衛を強く意識しなければならないからな。あの地に今の様に物々しい拠点を構えてからは空からの攻撃は今のところないのだが、昔はあったのだ、これからも無いとは言い切れないだろう。

「・・・・・・ふむ」
「どうかされましたか?」

 プラタの話を聞いて、少し思う事があった。いやむしろ、何故今まで気づかなかったのか疑問に思うほど。

「いや・・・人間界って不自然な場所だなぁと思ってね」
「不自然、ですか?」
「うん。昔は空からの攻撃もあったらしいが、今のような国家が形成されてからは無いと聞く。それでも上空には大鳥の姿が目撃されている訳だし、どうして現在は空からの攻撃が無いのだろうなと思ってね。それに、森があるとはいえ付近に地中に暮らす者も居ないし、平原に出る敵も人間が対処出来る範囲だけ。まるで人間を育てる為のような環境じゃないか」
「・・・・・・それは、確かにそうですが。偶然では? そういう場所を見つけて住み着いたというだけで」

 長年世界を見てきたプラタがそう述べる。確かにその可能性も在るが、果たして本当にそうなのだろうか? まるで何者かの意思が絡んでいる様に都合がよすぎる気もするんだよな。それでも、偶然と言われたら反論出来ないのだが。

「うーーーーん。まぁ、そうかな? 別に気する必要もないか。結局人間にとっては都合がいい訳だし」
「はい」
「しかし、ここは苛酷な地だね。よくもまぁ、こんな場所で数が増やせたものだよ」

 生活するだけでも大変な地。そこでかなりの数を増やすというのは凄い事だろう。

「食べ物はまぁ、土があるのかもしれないが・・・」

 それも限界が在るだろう。同じ場所だけ掘り続けると、大穴が開いてしまう。それに、全員が全員魔法が使えるのだろうか? 水の創造といっても、ここでは周辺の大気から水を集めるのは大変だろうから、本当に創造する事になる。そうなっては、技術と大量の魔力が必要になってくる。
 魔力の方は周辺から集めるという手段が在るも、それにも限度があるし、何よりそうすると、体内の魔力のみで創造した場合と比べて質が悪くなってしまう。
 それらを考えると、膨大な数になる異形種が増えて一定数を維持出来ているのが信じられなくなるな。

「水もまた、そこまで調達できるものかな?」

 一度は納得したが、異形種の数を思い出して改めてそんな疑問が浮かんでくる。

「一ヵ所で暮らす数は限られています。それに土を採掘する場所も決まっており、大きな穴を掘った後は、そこを補強して一部の者を移住させます。水につきましては、井戸のような物や湧き水が流れる場所が在りますので、基本はそこを利用しているようです。水の創造を行える者も少しは居りますし、水の創造も少し変わった方法で行われております」
「少し変わった方法?」
「はい。水の核となる部分。もしくはその核を覆う周囲の部分だけを創造し、他の部分は大気の水を宛てがうのです。つまりは創造と凝集の二つの方法を複合させているという訳です」
「なるほど」

 それであれば、全て創造するよりは魔力消費量は減るし、大気から集める量も減る。それでも質はいまいちだろう。それに、それでも限度がある。

「しかし、この辺りに井戸や湧き水なんてあるの?」
「ここの地下には水脈があるようでして、場所によってですが、深く掘れば水が出るようです。それに、岩の隙間から水が染み出ている場所も在ります。大分奥の方ですが」
「ふむ?」

 大岩の中には山に埋もれている物もあるも、中には荒野にデンと鎮座している物もある。ならば前者のような大岩の中なのだろうが、山と言っても、見渡した限りではこの辺りに在るのは禿げ山だけだったはず。苔生しているような大岩は無かったと思うが・・・気づかなかっただけか、まだ見つけていないだけか。これは後者かな?
 そんなことを考えつつ、そういう事であればここもまだマシなのかとも思う。

「そうか。土が主食なのはきついが、水があるのであればまだ何とかなるか。後は気温かな」

 個人的には堪える暑さだが、人間界でも季節によってはこれ以上に暑くなる事も珍しくない。やはりもう少し魔法に頼らない生活をするべきだろうか? それとも、ここはもう開き直って魔法をガンガン活用していくべきだろうか? うーん。せっかく使えるのだし、ここは使っていく方向でいくか。
 そういう訳で、早速使っていく。そうして自分の周囲を快適な温度に変えた後、歩みを再開させる。
 照りつける太陽光も帽子のおかげで眩しくはない。帽子というのも結構便利なものだな。その事を荒野で過ごしてから実感した。これは戻っても帽子を被る習慣をつけてもいいかもな。・・・なんだったら、帽子に周囲を適温に保つ魔法を組み込んだ魔法道具にしてもいいかもしれない。
 新しい魔法道具の作製について軽く思案しつつ、プラタと共に荒野を進んでいく。
 上空には太陽が輝いているが、少しずつ傾いてきている。魔法のおかげで暑さは和らいだので、温度は快適だ。
 食事に関しても自前で何とかなるので、問題ない。
 次の大岩を目指して進んでいるが、そこの様子についてプラタに尋ねてみる。

「今向かっている大岩の中には、異形種は住んでいるの?」
「いえ。あの大岩の中にも骨が在るだけです。といいますよりも、現在の異形種の生息地は更に北西方面でして、この周辺には食料を取りにたまに来るだけです」
「そうなんだ」
「はい。ですが、少し先に地下に住む異形種達でしたら確認しております」
「地下か。入り口はどこに在るの?」
「少し先の地面に」
「地面に・・・それ大丈夫なの?」
「補強はされておりますので、自然に崩れるような事は無いかと。それに出入り口は複数用意しているようですので、問題ないかと」
「へぇー。しかし、地下だと食糧には困らなそうだね」
「はい。水も用意されているようですので、基本的に地下で暮らす異形種達は外には出てきません」
「ふむ。そこにあの幽霊はこなかったの?」
「その地下はその後に作られた場所ですので、問題なかったようです」
「そっか。そこにはどれぐらい住んでいるの?」
「現在は十数万ほどではないかと」
「そんなに居るのか・・・」

 という事は、その地下空間はかなりの広さなのだろう。明かりはどうなっているのだろうか?

「地下の明かりはどうなっているの?」
「魔法で明かりを取っているようですが、居住空間全てとなりますと難しいようで、一部のみ明るいようです」
「そうなんだ。異形種って夜目が利くの?」
「人間よりは利きますが、完全ではありません」
「そうなんだ。暗視は?」
「簡単な魔法を扱える者は人間よりも割合が多いので、それなりには居ります」
「そっか。魔法道具は創らないの?」
「魔法道具を作製する技術を有している異形種の数は多くありません。それに創れたとしましても、質はそこまで高くはないようです」
「なるほど。やはり魔法道具作製となると、それなりの資質が必要になってくるんだねぇ」

 兄さんの知識がはじめからあったので、ボクは結構簡単に魔法道具を作製出来たけれど、やはり魔法道具というのは知識や技術、資質なんかが物を言うようだな。本当に恵まれた環境だったんだなと、改めて思う。

「物を創造するには、技術・知識・認識など、様々な要素が一定以上必要になってきますので、粗悪品でも創造出来る者は多くないのです」
「だから人間界でも魔法道具は少ないのか」
「はい。むしろ現在の人間の実力を鑑みれば、多い方かと」
「うーん、そうか。人間にはそっち方面の才能でもあるのかな?」
「可能性はありますが、今のところその兆候は見られません」
「そうなの?」
「はい。数は多いのですが、それでも突出しているというほどではなく、また粗悪品だらけでそれ以上の品を創れそうな者となると、逆に少ないぐらいでして」
「そっか。まあ確かに、人間界の魔法道具は質があまりよくなかったね」

 思い出してみても、人間界で見かけた魔法道具はろくなものが無かった。何しろ、個人で使うような結界の魔法道具を人間界全体を包むようにして使っていたぐらいだ。
 確かにあの魔法道具はそこそこ優秀ではあったが、それでも個人向けだ。それを人間界全土を包む広域結界として使っていたのは、偏にそれ以上の結界を発生させる魔法道具を創れなかったからに他ならない。勿論、マンナーカ連合国による妨害もあっただろうが。
 まあそれはそれとしても、代わりとなる広域結界を発生させる魔法道具を創ったら驚かれたぐらいだ。あれは手抜きの魔法道具だったのだが、それでなので、人間界の魔法道具作製の程度が知れるというやつだろう。

「はい。ご主人様ほどですと、世界でも数えるほどしか居りませんが」
「そうなの? 今でも人間界では質の高い魔法道具は無いの?」
「はい。高品質という訳ではありませんが、中位程度の魔法道具でしたら作製されております」
「それはオクト達が?」
「はい。その通りで御座います」
「そっか。順調に成長しているんだな」

 そうして妹達の成長に感心していると、目的の大岩に到着する。それは山のように大きな岩であった。
 見上げても頂上が見えない。左右も何処までも伸びていて、本当に岩なのか疑問に思えるほど。
 触れてみると当然の様に堅くてざらざらとしている。
 そんな岩の途中で、高さ二メートル横一メートル五十センチメートルほどの入り口が突然出現する。
 外から覗くその入り口は暗く、外からでは中の様子は窺い知れない。それでも魔力視で視る限り、浅い部分に十人前後の異形種が居るのが確認出来た。

「あれ? プラタ、中に異形種が居るようだけれど?」
「食料か、住処か、何かしらを探しに来たのでしょう」
「ふぅん。まぁ、とりあえず中に入ってみようか」
「はい」

 どちらにしろ入る予定だったので、それは気にせず中に入る事にした。
 大岩の中に入っていく。
 ボクが先に入ろうと思ったが、プラタがすっと前に出てそのまま先に大岩の中に入っていったので、ボクはその後に続いて大岩の中へと入った。
 大岩の中は真っ暗だが、暗視を用いれば問題ない。しっかりと中の様子が視えるので、異形種の姿が確認出来る。
 異形種達は、ボク達が中に入ってきてようやくこちらに気がついたらしく、慌てたように手に持つ武器を構えた。
 持っている武器は槍と剣が半々。中には背中に弓の様な物を背負っているようだが、気づくのが遅すぎて中・近距離の間合いだ。
 その槍や剣だが、ボロではないのだが造りが粗い。見た感じ、少し斬り結んだら簡単に折れてしまいそう。
 身につけている鎧は動物の毛皮を繋ぎ合わせて作った物だが、枚数が用意出来なかったのか、要所要所を隠しているだけの簡易的な物。
 それに加えて、中には骨で作った鎧を身につけている者も居る。こちらは素材が十分に在るからか、しっかりと身体を覆っていた。
 そんな異形種だが、見た目は人間と変わらない。身長も同じかやや高いぐらいで、顔は美形が多い。
 以前プラタから聞いた話では、戦闘状態になった時は顔が獣に変化するらしいから、武器を構えはしたが戦闘状態という訳ではないのだろう。
 まぁ、近場の出入り口を塞いでる訳だし、その警戒も理解出来るのだが、前に荒野で出会った異形種達は直ぐに敵意が無い事を示したんだがな。無謀すぎると思うが。

「・・・・・・」

 ボクの前を行くプラタが、そんな異形種達を静かに眺めながらゆっくりと近づいていく。
 それに何かを叫ぶ異形種達だが、恐怖からか、声が震えて上手く言葉になっていない。それでも拾えた言葉や状況などを鑑みるに、止まれとでも言っているのだろう。

「退いて下さい。そこに居られては邪魔です」

 歩みを止める事無く、プラタが異形種に警告を発する。
 それに戸惑うように互いの顔を見合わせた異形種達は、大人しく横に避ける。洞窟の中は奥に向かって段々と広くなっているようだが、それでも入り口は十分な広さがあるので、横に避けた異形種達の前を無理なく通れた。
 一応背後にも警戒しながら先に進む。ひんやりとした洞窟の中は、少し鼻に衝くような臭いがする。
 硬い地面は様々な物が散乱しており、そのどれもが散乱してから時間が経っているのが見て取れた。

「ここもあの幽霊に?」

 壁の黒い染みや沢山の骨を目にして、プラタに尋ねる。

「はい。ここも皆殺しに遭った場所です」
「やはりそうか」

 どんどんと奥へ進むと、ところどころ壁が崩れている場所が増えていく。

「ここも奥は崩れているの?」
「はい。途中で崩落しております」
「そっか」

 余程派手な攻撃をするのか、わざとなのか。とにかく、あの幽霊は派手な攻撃が好きらしい。
 更に奥へ行くと、今にも消えそうな弱弱しい明かりを放つ魔法道具が幾つか転がっていた。
 それの一つを手に取って、眺めてみる。
 二十センチメートルほどの高さの円柱型で、両手で包み込めないぐらいに太い。半透明な物に覆われていて、中に光っている小さな球体が確認出来る。
 周囲から魔力を集める魔法道具らしいが、魔力の収集量はあまり多くはないようで、そのせいで光量が乏しい。

「ふむ。無駄だらけの魔法道具だな。それにどうやら壊れているようだし」

 外観を確認後、組み込まれている魔法を視ていくと、その杜撰な構成にため息が出そうになる。人間界の魔法道具といい勝負の出来だ。それに、ここで行われた虐殺の時に強い衝撃でも受けたのか、組み込まれた魔法が歪んでいた。

「これは・・・妙な魔力に当てられた、という事?」
「そうなるかと」
「ふーーむ。魔法道具にそんな弱点が在るのか・・・」
「はい。しかし、かなり特殊な魔力ですので誰でも行使出来るというものでは御座いません。それに、それを知る者もかなり少ないので、普通は気にする必要のないものです」
「ふむ」
「たとえ行使出来たとしましても、全ての魔法道具に有効という訳でもありません」
「そうなの?」
「はい。今回はその魔法道具が粗悪品であったのが大きいかと」
「ふむ・・・なるほど」

 もう一度手元の魔法道具に眼を向けてみる。全体的に構成が甘く、光量があまり確保出来ていない。
 壊れているのを考慮してみても、これでは手元を照らすので背一杯だったのではなかろうか? もう少し魔力を集めるようにして、効率も上げなければならないだろう。
 まあそれはそれとして、歪んでいる部分を観察する。まるで強引にこじ開けられたような変容を見せているが、よく視ればそこは特に構成が甘い部分であった。

「それでも、これは良い資料になるよ」

 暫く観察をした後、その魔法道具をそっと元の場所に戻す。
 改めて周囲を見回して、散乱している似たような魔法道具の数々を確認すると、その歪みについて学んでいく。再現は難しいが、魔法道具に対しての一つの突破口は掴めそうだな。

「奥に行こうか。異種族の物というのは興味深い」

 魔法道具に限らず、洞窟内には人間界ではお目にかかれない物があるので、見ているだけでも勉強になる事ばかりだ。
 そのまま更に洞窟の奥へと進むと、次第に道が枝分かれしている箇所が増えてくる。その枝分かれした道の先には空洞が並んでいるので、部屋か何かだろう。
 そちらにも興味はあるが、今は奥へ進む事を優先させるか。プラタと一緒に奥へと続く道を進んでいく。

「この洞窟は異形種達が拡張させているの?」

 その人工的な造りは、到底自然に出来たとは思えない。

「はい。岩を削る程度でしたら異形種でも可能ですので、数が増えた際に拡張しているようです」
「ふむ」
「異形種は常に数が増えておりますので、住処は常時拡張が行われております」
「大岩は確かに大きいけれど、それは大丈夫なの?」
「あまり広すぎる空間を造りすぎないようにしているようです。それと限界まで拡張した場合は一部が移住します」
「なるほど。じゃあ、拡張と同時に移住先も探しているのか」
「仰る通りで御座います。食料を探すついでに移住先を探しているようです」
「・・・ん? という事は、入り口に居たのはそちらの可能性もあるって事?」
「はい」
「ふむ。まぁ、ここは片づければ直ぐに暮らせるだろうけれど・・・」

 周囲を見回して、散乱している骨に目を向ける。それと共に入り口に居た異形種が身につけていた骨の鎧を思い出し、これらは材料にはなるだろうなと思う。壁の染みは削ればいいだろうし、臭いも直に変わるだろう。入り口に風を中に送り込む魔法道具が設置されていたし、道中には中の空気を循環させる魔法道具が在った。どちらも壊れているか、壊れる寸残だったけれど・・・。
 落ちている家財道具はそのまま使えそうな物と、少し修理すれば使えそうな物が結構在る。
 魔法道具は使えない方が多いだろうが、それでも片づける手間を考えても十分な価値が在るだろう。あとはこの先の崩落状況とその更に先の状況次第だが、それも拡張が出来るのであれば問題ないか。
 そんな事を考えながら、入り口に居た異形種達の方を確認してみる。

「・・・・・・んー。あの異形種達もこちらに向かってきているようだね」
「はい。探索を開始したようです」
「まあ洞窟内は広いから、普通に探索する分にはそうそう遭遇する事はないだろうけれど。それでも、よくプラタと出合った後でその後を追えるな」

 やろうと思えば周囲を調べて直ぐに捕捉可能なのだから、広さなど関係ない。それに、ボクならプラタと出合って見逃されたのなら大人しく逃げるが。

「矮小過ぎてご主人様の偉大さに気づけないのでしょう」
「・・・動きとしては、やっぱり探索か。何が目的かは知らないが、個人的には勝てない存在と遭遇した場所に住みたいとは思わないけれど・・・まあいいか」

 今更プラタの発言に突っ込んだりはしないが、異形種達は固まって一つ一つの空間を丁寧に調べているような動きをしている。

「その崩落している場所はまだ奥?」
「はい。もう少し先で御座います」

 魔力視では魔力の濃淡で状況を判断出来るが、大岩の中の空間というのは中々に判りづらい。大きな空間は何とか分かるのだが、大岩の魔力の影響で、狭い通路だと非常に認識しづらい。
 崩落個所は濃度が濃いので何となく判るのだが、それでも確証は無い。とりあえずプラタの言葉通りであれば、おそらく先に在る広間の更に先の通路辺りで合っているのだろう。
 そう考えたところで、まあ行けば分かるかと奥へと進む。
 崩落現場だと思われる場所に近づくにつれ、鼻に衝く臭いが強くなってくる。空気を循環させている魔法道具が壊れているか、はたまた崩落で奥が行き止まりになっているからかは分からないが、おそらく血の臭いが残っているのだろう。それと、吐きそうなほどの悪臭がするので、奥に在る遺体が長いこと腐敗していたのかもしれない。
 前回よりも強いその臭いに顔を顰めながら進むと、崩落現場と思しき通路の手前の広間に到着する。そこは今までで一番広い場所だったが、その広間は真っ黒に染まっており、大量の骨が転がっていた。

「・・・ここは?」
「集会場のような場所だったのでは?」
「かもしれないけれど・・・」

 それにしては数が多い。集まっているところに襲撃を受けたのだろうが、気づかなかったのか、それともここに避難させていたか待機させていた者達なのか。
 何にせよ、一面骨だらけの空間というのは不気味なものだし、気分のいいものでもない。
 転がっている骨を踏まないように気をつけながら進み、奥の通路を目指す。

「凄い数の骨だこと」

 しかし、プラタは特に気にしていないようで、邪魔な骨は踏みつけながら進む。
 まあプラタは軽いので、踏まれた骨はほとんど折れていないが、むしろそんな移動でよく転ばずに進めるものだと感心するほど。
 そうして広間を突っ切ると、奥の通路に入る。
 少し進むと、通路を埋める大量の岩や砂が現れる。それを見て、上の方にも目を向けた。

「これだけ崩落していると、上の方はどうなっているんだろう? 穴が開いているのかな?」

 岩の中を拡張しているとはいえ、通路の上の方はそこまで削ってはいない。精々が立って移動しても余裕があるぐらいで、跳びはねると頭をぶつけそうな高さだ。
 それぐらいであれば上部の岩の部分には余裕がありそうなので、これぐらいの崩落は問題ないのかもしれない。

「いえ。上には余裕があるので、穴が開くほどではなかったようです」
「ふぅん。確かに外から見た大岩は上も高かったからね。二メートルちょっとぐらいの高さの通路じゃ、それを埋めても余裕はあるか」

 通路の横幅も同じぐらいだしな。もう少し拡げてもいいと思うが、異形種達にとってはこれぐらいの大きさの方が丁度いいのかもしれない。

しおり