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215 町のうわさ

「ほら、見てごらんなさいユーリ。公爵家の子ですら、ノックもできないんですよ?所作に不安が残ると言っていましたが大丈夫です」
 にこっと笑われた。
 うん、そういえば、ローファスさん貴族だったね。
「困ったときは、ローファスに師事しているとでもいえば問題ありませんわ」
 ローファスさんに師事?
「しぢってなぁに?」
「ローファスがキリカちゃんの先生っていうことよ。キリカちゃんたちはローファスから冒険者になるためのことを教えてもらっているでしょう?」
 ああ、なるほど。確かに、ダンジョンルールとか教えてもらったりしてるよね。
 ……。
「ダンジョンルールはほとんどブライス兄ちゃんが教えてくれた」
 カーツ君の言葉に、ローファスさんがむっとする。
「いや、そんなことないだろう?俺だって、いろいろ教えてやったよな?」
「あ、思い出したの。お腹見せちゃだめだって言ってたのよ?ダンジョンでは、えっと、男の人にお腹見せちゃダメって」
 あー。
 あああー。
 なんか、正確には全然違うけれど、そんなような話もあったような、ないような……。
「ローファス、お前は、いったい何を教えているんだっ!」
 ガタンと激しい音を立ててシャルム様が立ち上がった。
「ち、違う、な、ブライス!」
 そうそう。ブライス君はお屋敷に止まりました。朝食も一緒です。……息子であるローファスさんだけギルド本部に泊まったって、変だよね。
「言い訳はいい!表へ出ろ!私が鍛え直してやる!」
 と、シャルム様が剣の束に手をかけた。
「あの、本当に違いますよ。その、えっと、もともとはダンジョンルールのパーティー内恋愛の話をキリカちゃんが誤解していて……えっと、お腹をモンスターに見せるような服装は危険ですよね?男の人の気を引きたいからって、その……肌を見せるような服装じゃ……」
 と、なんかローファスさんの無実を証明しようとしてうまく言葉が出てこなくて……だって、裸で抱き合っちゃダメな話なんて言えないって!人の親に!
「ん?服装の話なのか?」
 違うけど。コクコクと激しく頷いておく。
「もう、そんな話はどうでもいいですわ。勝負は禁止です。すでに庭ではパーティーの準備を進めていますからね。二人が剣を合わせたら、パーティー会場がどうなるか……」
 うん。たぶんボロボロ?
 小屋の外でのブライス君とローファスさんの特訓後を思い出す。
「そうだ、それだ!どういうことだ、パーティーって!」
 ローファスさんがここに来た本来の目的を思い出したようだ。
「あら?何か問題でも?」
「何か問題って、町中のうわさだ。俺が知らないとでも思っているのか!」
「そう。街中で噂になっているの。それは楽しみだわ。口コミであっという間に広がりそうね」
 リリアンヌ様が満足顔。
 確かに、話題性があるならば、パーティーに出席した人からあれよあれよという間にチョコレートのうわさは広がるだろう。
 一度食べてみたいという声も上がるはずだ。
「冗談じゃないぞ?」
 なんで、ローファスさんは怒っているんだろう?
 カカオ豆を輸入して、いつでもチョコレートが食べられるようになるの嫌なのかな?
「あのね、キリカもパーティーにでるのよ」
「は?なんだと?何の冗談だ!」
「冗談ではありませんわ。ユーリちゃんももちろん出てくれるのよね」
 あ。はい。お手伝い自体するのはもう無理そうなので……。頷いてみせる。
「ユ、ユ、ユーリが?まさか、だって、……ユーリは、その、いやなんだろ?」
 嫌?
 まぁ。ちょっと後悔はしてるけど。
「嫌ではありませんよ?必要とされるなら、パーティーに出ます」
 そう。チョコレートを食べるために必要とあらば、パーティーでお手伝いします。
「ユーリが望めば、その、俺、別にパーティーなんて必要ないぞ、うん、あ、その、」
「は?何を言っているの、ローファス。パーティーは必要でしょう?ふがいないシャルムが、陛下面した人間とその周りの奴らに価値を認めさせられなかったんですから!」
「なんだって?今すぐ、認めさせてやるっ」
 飛び出していきそうなローファスをリリアンヌ様が笑顔で制した。
「その必要はありませんは。計画は完璧です。チョコレートの価値を認めなかった陛下面した人間その他たちは、後悔しながらチョコレートの価値を認めるえしょう。わたくしの名のもとに、名だたるご婦人やお嬢さんをパーティーに招待してありますから。パーティーでチョコレートをふるまい、私たちからチョコレートを取り上げようとしている陛下面した人間や、その場にいて陛下に賛同した人間の名前を上げますわ。家に帰ったら、せいぜい奥様や娘さんや母親や妹、周りにいる女性たちに責められればいいんですわ。チョコレートを取り上げた人間の家族ということで、社交界からつまはじきにされるかもしれないと、ひいては主人や息子の出世にも影響が出るとおびえればいいんですわ!」
 黒い。
 リリアンヌ様の美しい笑顔が非常に黒い。

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