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 薬研究室に姉がいるとか、サーガさんが言ってたっけ?その人のことかな?
「研究が進むなら僕は構いませんよ?」
「キリカもなの!」
「私の名前は伝えなくていいですっ!」
「あ、俺も。別に何も案を出してないし」
 これ以上いろいろな人に名前を覚えられるようなことはないほうがいいので。うん。王立だったよね?薬研究所って。お城には近づかない。
 ……もう、お城のすぐ隣の建物にいるけどさ……。これ以上は近づきませんっ!
 さて、そんなこんなで着せ替えタイムが終わりました。
 そのあとからが、本番の準備だと、その時の誰が思おうか……。

 明日着るドレスと同じ形の服を着せさせられました。
「キリカ様、足の運びは肩幅よりも小さく。走ってはなりません。ユーリ様、脇は閉めてグラスを持ち上げてくださいまし。カーツ様は鼻のしたをこする動作はおやめください。ブライス様は問題ありません」
 そして、特訓が始まります。
 ああああっ!
 あああああああああっ!
 まさか、本を頭の上にのせて歩く練習とかじゃないよね?と思ったら、本はそこそこ貴重品なので、頭の上にのせられたのはお盆でした。
 うぐぐぐ。
 カラカラーン。
 無理です。どう考えても、明日までに貴族に恥じない所作を身に着けるなんて、無理です!……パーティーのお手伝い、やっぱりやめますなんて……今更、言えませんよね……。
 はい。まっすぐ前を見て歩くんですね。足元見ない。はい。えっと、背筋、なんだっけ、そうそう、操り人形をイメージして糸で上に引っ張られてる感じで。
「キリカ様、ドレスのスカートが広がるのが嬉しくてもくるくる回ってはいけません!カーツ様、椅子に座っても背もたれにもたれてはいけません。ユーリ様、足はそろえて立ってください。ブライス様は問題ありません」
 ……。
 ブライス君、冒険者見習い生活で、どこでその所作身に着けたの?小屋に来る前どんな生活してたの?
 うん。だけど、これだけ注意されていれば、没落貴族の娘説を否定で来たわよね。
 特訓すること数時間。
「では、夕食の時間となりましたので、ここでおしまいにいたしましょう」
 やった!
「次は食事のマナーをお教えいたします」
 ……。
 食卓に並べられている食事は、何もありませんでした。
 と思ったら、今回は1品ずつ料理が出されるパターンの食事です。ナイフとフォークとスプーンと、やたらと並べられているアレですね。
 一応習いました。家庭科の授業。高校のマナー実習で。一番外側から使うのですが、この世界もそれで正解なのかな?
 分からない時は、ブライス君を見て真似しよう。そうしよう。
 はい、大丈夫なようです。
「キリカ様、フォークとナイフと両方使います。カーツ様、フォークを根元まで口に入れてなめるようなことはしてはいけません。ブライス様は問題ありません。ユーリ様は、完璧ですわね」
 おや?
 カーツ君やキリカちゃんの目が「やっぱり没落貴族の」と言っているような気がして仕方がない。違うよ、違うんだ。
 日本だって、こんな食事何回もできるほどのお嬢様ですらなくて、庶民。どどど庶民でしたから。

 次の日の朝食。
 正直にリリアンヌ様に言うことにしました。
「あの、パーティーをお手伝いするとは言ったのですが、昨日教えていただいた所作を身に着けることができていなくて……大丈夫でしょうか?」
 リリアンヌ様が首を傾げる。
「あら、大丈夫よね?あなた?」
 話を振られたシャルム様がへの字にした口を開く。
「パーティーなど聞いておらぬぞ!」
「あら?女性が女性を招いてお茶会やパーティーを開くことなど日常茶飯事ではありませんか?主人に断りを入れる必要があるパーティーは、自分よりも位の高い方を招くときだけではありませんでしたこと?公爵家よりも位が高いといえば、王家のみですわ。王家をパーティーにご招待した覚えはないのですが?」
 というリリアンヌ様の言葉に「それはそうだが……」とシャルム様が黙った。
「どういうことですか!母上!」
 バタンとドアが開いてローファスさんがやってきた。
 ギルド本部に寝泊まりしているので、朝食をともにしないとは聞いていたけれど、急に食べたくなったのかな?
 匂った?
 いつもご飯時に来るよね?

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だんだんローファスさんにたいするユーリの認識が
ご飯の匂いに釣られてやってくる人になっている。


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