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※ 〇〇ズムは主人公の独自解釈です。事実とは異なる場合があります。あしからず。
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ゾクッとした。思わず変な声を《《上げてしまいそう》》になったが、平常心を保つことに成功した。街道を少しばかり速度を上げて歩いていく。アルフが追い付いてくる。
「ねぇ、ひょっ、ってなーに?」
「しらん。」
「さっき言ってなかった?」
「しらぬ。」
アルフは戯言《ざれごと》をぬかしている、が気にする必要はない。黒球の上で寝そべり、まったりと移動する。もちろんアルフには、尻尾ビンタと硬い木の実をくれてやった。木の実をしっかりと回収するあたり、アルフは《《がめつい》》かもしれない。痩せぎすの体だから少し位、多く食べた方が良いか。
「痛くはないだろう?」
「なんか納得いかない……。」
「安心しろ、俺は納得している。ジャイ〇ニズムというやつだ。」
「えー? 僕、聞いただけなのに。ジャーヤニ?」
「覚えなくても良い、ためにならん。」
ジャーニー、ジャーニーと言っているアルフ。残念だったな、それじゃ小旅行だ。まぁ、楽しそうだから良いか。わざわざ修正して水を差す必要もないだろう。
そんな事を考えていると、目の前でアルフが転んだ。
「あ、いたた……。」
「……怪我してるぞ。」
「よく転ぶから、気にしないで。」
よく転ぶ。
鼻歌交じりに歩くなんて不注意だ、と言えば終わってしまうかもしれない。でもアルフ。
「お前、何回目だ?」
「ん? 何が?」
「歩いていて転ぶのが、だよ。」
「うんしょっと、数えたこと……ないよ。空《むな》しくなるもん。」
擦《す》りむいた膝《ひざ》を払いつつ、捨て台詞のように言うアルフ。前を向き歩き出そうとする。
誰も追ってこないし、休憩がてらに試してみるか。
「アルフ、休憩だ。ここに座ってくれ。」
「……うん。」
「治せるなら治してやってくれ。」
道端に座らせたアルフを見ながら言う。黒球にゴッソリと持っていかれ……お、今回はじわじわなんだな……。擦りむいた膝が、ゆっくりと綺麗に治っていく。病院で大活躍しそうだな、結構疲れるが。
「終わったか。」
「……すごーい、痛くないよ。」
「歩いて確かめてみろ。」
治療が終わり、《《先ほどと変わらない》》歩き方のアルフを見ながら黒球に小声で問う。
「アルフは……足じゃないんだな?」(ボゥ)
「魔力があれば、治せるか?」(ボゥ)
「……そうか。」(ボゥ)
それぞれに黒球が、小さな蝋燭に灯す程度の火を1秒足らずの間、出現させた。《《なんとなく》》だが、肯定しているように思う。……あれ、いつから俺は肯定だと?
「まぁ、いい。さっきの石をいくつか出してくれ。必要分がそろったら治してやれ。」
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…………
……
「だから! させないって言ってるでしょ!」
「おいおい、そう怒鳴るな。……はぁ、まいったなー、ったく。」
「……。」
あぁ、アルフうるさい。誰と言い合っているのか、と考えた時、急速に思考がクリアになった。薄目を開け、様子を伺う。
目の前にアルフ。その向こうには白髪交じりの30代のオッサン、1メートル弱の木の棒を持っている。オッサンの隣には、小さな袋を持った20代の野郎がいる。二人ともに防具類を身に付けてはいない。
簡易な木の柵なのか塀なのか、が見える。村の中には入っていないようだ。入ろうとしたら、止められたってところか。昼下がりの陽気で欠伸を押し殺した時、アルフが俺を抱き上げた。
オッサンは面倒臭そうに頭を掻《か》く。隣の野郎は我関せずのようだ。
「おいボウズ、そいつは魔獣なんだろ?」
「そう、だと思う。」
「なんで、そこまでするんだ?」
「だって、助けてくれたもん!」
「はぁ? さっきも言ってたな……魔獣が人を助けたってのか。」
「そうだよ!」
堂々巡りなのだろう……仕方がないか。
もぞもぞと動き、アルフの腕から脱出する。地面に降り立ち、二人を見据える。オッサンは片足を引き、棒を構える。野郎は袋を地面に置き、オッサンの後ろに下がった。
「よかった、起きたんだね!」(コクリ)
「……襲ってこない、みたいだな。」
俺がアルフから揉みくちゃにされている様《さま》を見て、オッサンは構えを解いた。野郎がチラチラとこっちを見ている。気にしない、気にしない。
「あぅふ~、いいかぎゅえんに、はーにゃーせー。」(アルフ、いい加減に、放せー)
「心配したよ~、ぎゅえっ!」
心配させたらしいので《《軽く》》肉球で押し返す程度に止《とど》める。手前のオッサンが数歩近づいて聞いてくる。
「お、おい。その魔獣、喋《しゃべ》るのか?」
「そうだよ! 問題ないでしょ!」
「問題ってなぁ……おい、どうするよ?……えぇ?」
「問題ないのに……。」
オッサンたちが小声で相談し始めた。俺を抱くアルフの腕に力がこもる。悔《くや》しそうな顏、か。
アルフを見上げて聞く。
「アルフが気にして、どうするんだ?」
「だって……。」
「《《人》》はズレたものを嫌うからな、気にするな。入れるなら御《おん》の字《じ》だろ?」
賢い子だ。ただ、言いたい事を言う年頃だろうに。我慢して、考えられる。ここでの生活に慣れたなら、うまくやっていけるだろう。
オッサンたちの相談が終わったようだ。野郎が村の中央方向へ走って行く。
「あー、すまんが縄だけは着《つ》けてくれ。」
「わかった、アルフ?」
納得できていない表情だが、アルフは俺の首に縄を巻く。俺の前足では着けられないからな……飼い犬の気分だ、嬉しくない。
……本当だぞ?
――――――――――――
「……ふぅ、疲れた。」
「ご苦労さん。」
アルフが寝床を整え、横になる。木枠にワラを敷き詰め、シーツを掛けただけの寝床。
村に足を踏み入れてから……さっさと休みたかったのだが、なぜか村人に怖がられてしまい、宿が見つかったのは夕方だった。宿と言っても、馬小屋並みだけどな。俺の分の費用が不要な代わりに、他の宿泊客が食べている時は食べに来るな、との《《オネガイ》》付きだ。余程、魔獣が怖いようだ。過去に何かあったのだろう。
部屋は三畳程度で、アルフには|十分な大きさのベッド《家畜のエサ用の木箱》が一つ、|木の椅子《何かの台》が一つだけ。上下にスライドさせ開閉する窓が一か所。照明や部屋の鍵など無く、入口扉は床との隙間にストッパー代わりの木片を差し込む。こんな部屋でもパン10個分もの費用を取られ……ボッタクリかもしれん。
「とりあえず体を綺麗に……よし、寝ろ。」
「えぇ、まだ早いよ?」
「寝られるときに寝ておいた方が良いぞ。」
「……はーぃ。」
黒球にササッと綺麗にしてもらい、アルフを寝かしつける。さっきから階下《かいか》で静かに動き回っている連中がいる。何もされなければ良いが……難しいか。
疲れていたのだろう、アルフは数分で寝入ったようだ。夕飯までの2,3時間は寝かせてやりたい。
「アルフに音や振動が届かないようにしてくれ。」
膜の形成を横目に、周囲の音を拾う。俺たちの部屋の前を歩く足音、荷馬車が止まる音、痴話喧嘩や椅子を動かす音……少しずつ静かになっていく宿の周辺は《《不自然で》》夕暮れ時の薄暗さと静寂は不気味ですらあった。
そろそろ黒球に矢印を出してもらおうか、と考えた時、部屋の入口をノックする音が聞こえた。
トン、トン
アルフは寝返りをうち、入口扉に背を向けた格好だ。扉の正面には立たず、様子を伺う。もちろん黒球を盾にして、だ。
トン、トン
「おーぃ、ボウズ濡らした布と飯もってきたぞー……寝ちまったか……置いとくわけにもいかんしなぁ。」
ん? 宿のおっちゃんか? 受付にいたオッサンなのだろう。
黒球に敵じゃないなら開けてやれ、と言うと、扉の下の木片を器用に外し、少しだけ開けた。
「お、ボウズ起きて……げっ。」
パン2つと水差しを載せた板を持ったオッサンが扉を開けて入ろう……として立ち止まる。
彼我《きが》の距離は2メートルほど、俺を視界に入れた途端ものすごーく嫌そうな顏をした。まぁ、受付でも引いてたしな。
アルフの足元まで移動して丸まると、胸を撫で下ろしてオッサンはゆっくりと入ってきた。
「寝てんのか……わりぃな、ボウズ。危険は無さそうなんだが、ハブっちまって。」
夕食を椅子代わりの台の上に置き、オッサンが出て行った。とりあえずパンを黒球に回収させ、次《つ》いで矢印を出させる。部屋の外には動かない赤矢印2、徐々に離れていく(おそらくさっきのオッサン)白1が浮かぶ。……もっと人はいるだろうに。矢印の基準は何なんだろう?
まぁ、今は扉の向こうの輩《やから》に集中しよう。
はずした木片をもう一度、扉の下に静かに挿《さ》しておく。部屋に強引に入ってくるならば容赦はしない、と決めて待機する。
「そぉ~っと、そぉ~っと……。」
「見える? 見える?」
「まだ見えないよ、ちょっと待って。」
「開かないね……やっぱ部屋まで押しかけちゃダメじゃない?」
なんだろう、扉越しに高い声が聞こえてくる。赤い矢印だから敵だよな? と、確認の意味で黒球に目配せする。すると、赤から少しずつピンク、そして白い矢印に変わっていった。敵ではなくなった、のだろうか。黒球はアルフの上にスゥ~っと移動していった。動かない白矢印に注意しておこう。
誰かが歩いてくる……オッサンだな。夕飯を載せていた板を扉の近くに置いておこう。オッサンが扉の近くへ来たところで、
「何してるんだ、お前らっ!」
「ひゃっ、お父さんだ!」
「げっ、お父さん。」
ゴンッ
「イッターィ、叩くことないじゃんか!」
「うぅ、痛いよぉ。」
「いいから、戻って手伝え!」
どうやらオッサンの関係者だったようだ。小さな声で話していても、丸聞こえだった。ブーブー言いながら遠ざかっていく音が聞こえる。音が聞こえなくなり、矢印も消えた。これで休めるなぁ、とアルフの横で丸まることにする。
「んん?」
「あー、起こしちまったか?」
「お腹減っちゃって……えへへ。」
「パンあるぞ? ほれ。」
「パンだぁ♪」
起きたアルフに夕食を与えつつ、先ほどのオッサンたちの事を伝える。少し考えたアルフが口を開く。
「たぶん……その子たち、オジサンの小間《こま》使いかな?」
「親子かと思ったが。」
「ないない。」
アルフが悲観したことを言う。この村でアルフは……
「歳が近いなら友達になれるんじゃないか?」
「いいんだ、僕……慣れてるから。」
「……そうか。」
「ごめんね?」
「……俺に謝る必要なんて無いだろ。」
もっと、もっと周りを頼っていいはずなのに。もう少し大きな街に行けば、居場所を見つけられるのだろうか。
「アルフはやりたい事ってあるのか?」
「ん~、よくわかんない。」
「大きな街で色々経験したら、見つけられるかもな?」
「街かぁ……どんな所なんだろ。」
夜は長い。アルフが眠くなるまで《《見たことのない街》》の話をしてあげよう。出来るだけ面白く、興味が湧くように。アルフが『何か』を見つけられるように。