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 カルダモンだよね!
 胡椒ほどの辛みはないけれど、鼻にスーッと抜けるさわやかな香りと、肉の臭みを消して風味を良くしてくれるスパイスの女王。
 久しぶりの香辛料。おいしいです。
 おいしそうに食べる私の顔を、リリアンヌ様が嬉しそうに見ている。
「あ、これちょこっと初級MPポーションに似た味なのよ」
 そうよ。キリカちゃん。コーラにはカルダモンも使われてるからね!
「これ、初級MPポーションを使ってお肉を焼いたの?」
 キリカちゃんが首を傾げる。
「はははは。面白いことを言うね、ポーションを料理にに使うなんて」
「面白いことじゃないのよ。だって、ユーリお姉ちゃんは――」
 ガシャンッ。
 キリカちゃんが秘密をうっかり口にしようとしたので、カーツ君が慌ててスプーンを器にぶつけた。
「す、すいませんっ」
 カーツ君が慌てて頭を下げる。
 リリアンヌ様がいるから、牢の中のように一緒にご飯を食べようという言葉に簡単にのってしまったけれど……。
 よくよく考えると、私たちはど庶民だ。食事のマナーも知らないような人間。お貴族様と食事って、めちゃめちゃ恐れ多いことなんじゃ……。
 食器を鳴らしての食事はマナー違反だよね……えーっと。
「良い良い、堅苦しい食事の席じゃないからな。食べやすいように食べればよい」
 リリアンヌ様の旦那様は笑って許してくれている。
「あなた、一つお願いがあるんですの」
 リリアンヌ様が旦那様の顔を見てにっこりとほほ笑んだ。
「だめだ」
「あら、まだ何も言っていませんわよ?」
「この子たちを養子にしたいという話なら駄目だ」
 え?養子?
「なぜですの!この子たちは、私を助けてくださいましたわ!」
「確かにそれには感謝しているが、そう何度も言わせるな。そう簡単に養子をホイホイと迎えるわけにはいかないのは分かっているだろう?何かずば抜けた能力を持った人間でないと、周りも納得しない」
 うん。そんなようなことローファスさんやサーガさんも言っていましたね。
「ユーリちゃんは、ずば抜けた武器を持っていますわ!」
 リリアンヌ様がどや顔をした。……いや、それ、私の能力じゃなくて、武器の能力がすごいんですけど……。
「キリカちゃんは、ずば抜けてかわいいですわ!」
 認めるけど、かわいいのは正義だけど、でも養子にする基準としては弱いよね。
「カーツ君は、ずば抜けていい子ですわ!」
 それも認めるけど、もう、なんていうか、親バカの主張みたいになってますよ。
 案の定、旦那様は困った顔をする。
「リリアンヌ……」
 旦那様が、リリアンヌ様の背中に大きな手をまわして二度ほど上下にさすった。
「分かっていますわ……シャルム」
 どうやらリリアンヌ様の夫はシャルム様というらしい。リリアンヌ様はしょんぼりしてあきらめたようだ。
「養子は無理だが、どうだろう、屋敷で働きたいというのであれば仕事をしてみるかい?」
 シャルム様が、私たちの顔を見た。
 貴族のお屋敷で仕事を?
 それは、この世界ではどういう感じなのだろう。一流企業勤務みたいな感じなのだろうか?
 だとしたら……。社会人生活未経験の私に務まるだろうか?3歳児並みの体力しかない私に務まる?文字も読めないし、この世界の知識どころか一般常識すら欠けているのに。
「あのね、キリカ、冒険者になるのよ。今はまだ冒険者見習いだけど、頑張るのよ」
「俺も、せっかくですが、S級冒険者になるという夢があるんで」
 キリカちゃんとカーツ君はすぐにはっきりと自分の意思を示すことができるのに。
 私は……まだ、はっきりした夢がない。何かあるたびに、これになろうかあれになろうか……と、ふらふらと考えが変わっている。
 なんにでもなれる自由があると思ったけれど、自由すぎるのも結構大変なことなのかもしれない。
 自分の責任で、自分が全部決める。誰に何をしたらいいのかとアドバイスを求めることもせず、誰かにそれはやめておけと止められることもなく……。
 この世界のことを良く分かっていない私が、自分の未来を決めるのは……思った以上に大変だ。
 何がしたいのか、何になりたいのか決められないまま、ずるずると今の生活を続けてしまいそうだ。
 ああ、それじゃぁ、日本にいた時と何も変わらない。何も……。
 自立しなくちゃって言いながら。冒険者になるんだと思っても、カーツ君のようにS級冒険者を目指すわけでもない。自立するためならば、お屋敷で雇ってもらって仕事を覚えたほうが早いんじゃないだろうか。だけれど……。
「冒険者……そう、あなたたちも冒険者にあこがれているのね……」
 あなたたち?
 リリアンヌ様が寂しそうな表情を見せる。

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