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 魔力に風の属性を混ぜ込み、二本の小型の矢を生み出す。

 それを矢につがえて思いっきり弦をひく。


双極の矢(ツイン・アロー)!』


 氷人形(ゴーレム)が同時にやってきた機会(チャンス)をみすみす逃すはずもなく、魔力を練ってお得意の同時発射技を繰り出す。


「……あ、れ?」


 狙いが当たるのは別に普通だ。
 だが、それよりも威力がいつもと違う気がしたのだ。

 試しに、背後にもやってきた別のゴーレム達も壊したが、やはりいつもより破壊力が違った。


(心成しか、射撃速度も上がってる……?)


 今日食べたポーションパンは、まだ例の一角虎を使用したサンドイッチのみ。

 パンの部分は、ここ何日か口にしたように柔らかさは抜群。
 肉の処理も、ケインが冒険者になる前ある程度実家の食堂で手伝ってたが、父親レベルかそれ以上。

 しかし、その処理だけでなく、不思議なサクサクとした衣を纏わせて、黒い酸味のあるソースで一緒に挟んだ野菜と美味しく食べさせてくれた。


(シェリーに買ってきてもらったの全部美味しかったけど……)


 他のポーションすら口にしてないのに、この威力はなんだ?とケインは疑問に思うが、一つ思い当たる事があった。

 とりあえず、次、次と異常な速さで壊していきながら、少しずつ思い出し事にした。


「シェリーが初めて持ってきた、クリームパンと同じかなぁ?」


 これまで食べてきた、パン屋のポーションはほとんど食事目的だったのであまり意識はしてなかったが。

 シェリーの初見でもあの威力が、もともとの彼女の技の質を多少高めてくれてるだけだろうと、ただ思っていた。

 ちゃんとメモ見てれば、と思いながら合計10体目のゴーレムを破壊したところで上から冷気が降り注いできた。


『余所見してたらあかんでー?』
「おっと!」


 着実に倒してたものの、やはり高位精霊には考え事をしてたのがバレてたらしく。

 ご丁寧に15体ものゴーレムを創り出して、ケインに向かわせてきた。
 これは流石に余所見していられないなと、矢筒から五本程矢を取り出した。


「ちょ〜っと、試したいし……いっけぇーっ!」


 魔力は纏わせず、ケインの腕力とポーション効果に頼って矢を放つ。

 そして、それはケインの予想通りに、軌道をまず向かってきた5体へ。(やじり)が当たれば、勢いに押されてあっという間に氷の体が粉々に。

 ついでとばかりに、矢は勢いを殺さずに後ろにいたやつにも。

 すべての矢がそのように反応して、15体いたゴーレム全部を破壊したのだった。


『…………速ない?』
「俺もそー思う!」


 これは、一刻も早くシェリーに確認を取りたい。

 瞬発力はとうに確認出来たものの、他の箇所にまで効果を発揮できるとは思わないでいたからだ。

 もちろん、まだまだシェイドがお代わりさせたゴーレムを倒しつつ彼女の元に向かうが。


「はぁっ!」


 そのシェリーを援護すべく、既に指導役兼保護者のジェフが彼女の周辺にいるゴーレムを壊しまくっていた。

 一気に、例の槍(・・・)があるからとは言っても、近距離攻撃で5体も破壊とはさすがランクBの為せる技と言うところか。


「あ、ジェフも今日一緒に行ったんだっけ?」


 じゃあ、彼でもいいかと思って近づこうにも、シェリーには適度に残しながらもゴーレムを壊すのに必死。

 ケインも適度に周囲に来るのを壊してはいるが、とてもじゃないがジェフの勢いには追いつけないし、あれでは声を掛けづらい。


(たしかに、シェリーは体術メインで戦っていても……腕力はアクアより劣る普通の女の子だもんね……)


 と言うより、アクアが異常過ぎだ。
 あの腕力は、ジェフもだがケインも敵わず、そこいらの屈強な男も簡単にひねり潰せれるくらいに。


「そんなとこもカッコ可愛くて好きだけどー」


 実は、既にアクアと付き合ってるケインなのだった。
 パーティー唯一のカップルと言っていい。


(ジェフは自覚してるかわかんないけど、昔は苦手にしてたシェリーを気になるくらい大事にしてるし……変わったなぁ)


 女嫌いだったあの頃とは、雲泥の差だと思うくらいに。

 このままここに居ても仕方ないので、自分も彼女の方を様子見しながらレイスのとこに向かうも、アクアは余裕でゴーレムらをぶっ倒してた。


「手伝い、いらないねー」


 なら、さっさとレイスの方へ行くと、ちょっと苦戦中だったので、三連射で手伝う。


「何すんねん⁉︎」


 いきなり割り込んだのが気に食わないのか、クナイは投げてきたが本気じゃないので避けて後ろにきてたゴーレムに当てさせた。


「ちょっと話したかったからさー?」
「はぁ?」
「お前も気づいてるでしょー? ポーションパン、異常に効果高過ぎない?」
「あ、あー……そいやクラウスも」


 一緒にクラウスを見れば、剣で適度に薙ぎ払ってるつもりだろうが速度が速い。


「ポーションのパンだからって何かあるはずだよ。あんな安値の理由は、期限の問題にしたって凄過ぎ」
「ジェフは?」
「シェリー手伝ってる」
「ほんま付き合わんの、あの二人?」
「本人達以外には筒抜けなのにー」


 ケインもアクアと付き合うまっで障害がなかったわけではないが、恋はなかなかに複雑なのものだ。

 こればかりは、見守るしかないだろう。


『ほな、この辺で〜』


 それから考察し合いながらもゴーレムを倒していたら、いつの間にか1時間以上が経過してたらしい。

 シェイドが召喚同様に指一つで砕けたのも含めて、ゴーレム達をあたかもなく消し去ってしまった。


「ふわわ〜、つっかれたぁ」
「お疲れさん。結構数こなしてたな?」
「うん! あのサンドイッチのお陰で速く動けたから、壊すの頑張れた」


 側から見て、この二人もう付き合ってるよな?と思ったのはケインやレイスだけではないだろう。

 クラウスも苦笑いするだけだったが、今はそれより口笛を吹いてるシェイドの方に集まることになった。


『こんな短時間で、わいにそれぞれ10回もお代わりさせるとは……マスター、どんなポーション飲んだん?』
「飲むんじゃなくて、パンだよ」


 と言いながら、アクアは先にシェリーから預かってたうちの『厚焼き卵サンド』を契約精霊に差し出した。


『……えぇえ、こ、ここここれ!』


 ただ、ポーションパンを渡しただけにしては、異常な食いつき。

 まるで、宝物を扱うように包み込むようにそっと持ち上げ、色んな角度から包み紙に包まれたサンドイッチを見ていく。


『あ、ああああ、あの御方の御力ががが!」
『誰?』


 シェイド以外全員が疑問に思うも、本人ははっとしてからぷるぷると首を横に振り出した。


『……わいの口からは言えませんわ!』
「で? 食べる? 食べない?」
『いただきますぅ!』


 主人に取り返されると思ったのか、シェイドは褒美にもらえた卵サンドイッチにがぶりついた。


『な、なんやこのパンぅ〜、ふんわふわな白いパンもやけどぉ〜……間の少し甘い卵もふわふわでマヨネーズともよく合う。ちょい、ピリッとしてるけどうんまい!』


 感想を言いながらも、もしゃもしゃ美味しそうに食べる。
 一個じゃ足りないだろうからと、アクアは焼きそばパンも渡してあげ、残りは全員で一緒にシェアしながら食べることになったが。


(気になるな……シェイドのあの反応もだけど、このパンの秘密も)


 せっかくだし、レイスを誘って一緒にパン屋に行くかと、ケインは新作のピザパニーニを食べながら決意した。







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【カツサンドの由来】



 今回は、トンカツサンドの由来について

 昭和10年に東京上野のとんかつ店井泉の女将(当時)である石坂登喜が発案したとされ、正式には「かつサンド」と呼ぶものだったようです

 当時の井泉は花柳界の芸者衆がよく利用していたため、口紅がとれずに食べられるよう小さなパンを特注して作っており、また箸で切ることのできる、肉を丁寧に叩いた柔らかいカツを売り物にしていたんだとか

 なんと、芸者さんが食べ易いようにと考案されたのは、お洒落な食べ物ですね

 ちなみに、このカツサンドは『ヒレカツサンド』
 ロースカツについては、秋葉原に本店がある「肉の万世」の「万かつサンド」が知られているようです

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