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28話 そうだ温泉に行こう


「それでは、これを追尾させて頂きます」

 テナは右手のひじを曲げ掌を上にすると金属光沢の直径10cmほどの魏色の球体が出現した、それは手の上で浮き静止ている。

「それは何? シューティングゲームのオプションみたいな物か?」
「位置情報の送信機能と音声通信機能があります、触れていただいて呼んでいただくとリヴァララと通話が可能になります」

「それだけか?」
「はい、映像記録は行いませんが、ご希望なら録画しておきますが?」

 なるほどプライベートの行動は考慮してくれるのか、ありがたい。
 見られたくない行為をしても問題ないというわけだな。

「秘密にしたいものもあるので付けてほしくないな」
「わかりました、それでは追尾させます」

 テナはそう言うとその球体は俺の右斜め後方30cmほどまで飛んできて静止した、振り返ってそれを見ると俺の顔が綺麗に湾曲して反射している金属の球体だ、手を伸ばし球体に沿って触ってみると僅かな凹凸もない。

「ツルツルでスベスベだな」
『なにか、御用でしょうか?』

 銀の球体から声が聞こえた、どうなってるんだ? と考えながら球体の側面とか下側から観察するが穴が開いている訳でもない。

『球体の大きさを高速で変えることによって空気を振動させ音を出しております』
「か、解説どうも・・・」

 考えを読むやつがここにも一人・・・いや人じゃないか。
 では外に出て冒険をしよう、俺は外にテレポートする為に右手で麻衣のアゴをつかむ、体に触れていれば何処でもいいのだが今後の攻略のために好感度を上げておこう。

「ちょ、いきなり何? キスは駄目!」

 麻衣はかなり焦っているようだ、俺はその状態でこの建物上空に麻衣とテレポートした。俺と麻衣はアゴクイ状態のまま上空に出現する、当然地面は存在しない。
 まずは吊り橋効果で恋愛感情を植え付けて見るか、どうするか・・・

 落とすか・・・

「ふっふふ、バンジージャンプの時間だ」

 俺は麻衣のアゴから手を離し浮遊している力を切ると同時に重力による落下が始まる。

「ひぇぇぇぇぇ、また、おちてるーーーーー」

 麻衣は叫びながら落ちて行った、俺も麻衣と顔を見合わせながら落下する、5秒ほど落下して麻衣とともに浮かせて落下を止めた。
 ふと右後方を見ると銀色の球体が浮かんでいた、これはテレポートしても追尾するのか、振り切るのは無理かな。

「はぁ、はぁ、はぁ」と麻衣は肩で息をしている。
「よし、冒険に行くか」と俺は言い飛んだまま移動を開始する。
「えええええ、どこにぃぃーーーーーー」

 暫らく飛ぶと都市の端が見えその先は何もなかった、そのまま進み端を超えると何もない空間だ、下を見ると海が見える、そこで停止し振り返る。

「もうだめ・・・ちぬ、ちんじゃう…」

 麻衣を見ると若干鼻水が垂れている、吊り橋効果を期待したがドキドキ効果が大きすぎたかな。

 前方を見ると金属製の土台に建物が立っている、そしてそれは浮かんでいる。
 俺は麻衣と一緒にさらに上空に移動するとその都市は円形状になっていた、かなり大きく直径20㎞はありそうか、そこに地球で言うビルの様な建物と球状の建物が見える、球状の建物は全部同じ姿をしており規模から個人の住宅と推察させる。
 中央には大きく高い円筒状の建物があり、そこから放射状に道路が端まで通って街を作っている。

「ほへー、ホントに都市が浮いてるよ」

 都市をよく見ていると例の青髪の少年ロボットが所々に歩いている姿を見かける、なにしてるんだろうな?

「よし温泉に行こう! お湯につかりたいからな、リヴァララ、応答を頼む」

 俺は銀色の球体に右手を載せリヴァララに応答を求めた。

『呼び出しを確認しました、織田様、ご用件を伺います』
「この惑星に温泉はあるか? あれば場所の案内を頼む」
『一番近い温泉がここから240㎞先の陸地にあります。
 案内しますのでついてきてください』

 銀色の球体は移動を始めた、俺は麻衣を後方に浮かせながら銀の球体の後について行く、しかし遅いな・・・この速度で240kmだと1日かかるぞ。

「もっと速度を上げていいぞ、マッハ1まで可能だ」

 俺は銀色の球体に近づき触りながら言った、もっと速く移動できるが空を飛ぶ感覚が初めての麻衣もいるので今回はマッハ1で様子見しよう。

『了解しました』

 球体は速度を上げていく、俺は銀の球体から手を放しついていく。

「移動している感覚がないんだけど・・・」

 麻衣は俺の後方でスカートを足に巻き付け体操すわりをしている。

「俺のおかげだぞ? 空を飛べるなんて体験はなかなか出来ないはずなんだが」

 そういう言う俺は胡坐をかきながら飛んでいる、俺と麻衣の周りには音速の風の影響を防ぐバリアが張ってある、おかげで静止している状態と変わらない。

「ねえ、私も超能力が使えるかな? ク〇プトン星人は地球に来ると超能力が使えたから私も使えると思うだ」
「それ、映画の話な? 無理だから、超能力欲しいのか?」

 これは、落とせる展開がきたな、超能力を与えそれをネタに・・・ふふふ。

「出来るの?」
「ああ、ただし対価を求める。昔与えたことがあるが、暴れて大変だったからな」

 麻衣はスカートのポケットから何か取り出して握ったまま俺に差し出した。

「これで・・・」

 受け取って見ると、俺の手には5円玉が5枚乗っていた。

「なんだよ…25円って、俺は幼稚園児かよ!」
「それだけしか持ってないんだよぉ?」と麻衣は口をとがらせている。

「旅行に行って所持金25円ってアフォなの? 何しに飛行機乗ってたの?」
「アフォじゃないもん! 高校生は貧乏なんだよ! それに、旅館代とか飛行機代は瑠偉ちゃんが管理してるの!」と今度は頬を膨らませている。

 なるほど、しっかり者だな瑠偉は・・・

「よし、ではセフレ10年契約で俺を除き地球ナンバー1の力を与えてやろう、どうだ?」

 最初は条件を多めに言っておいて、後で下げると言う手段でいくか。
 麻衣は〈むっ〉っと口を閉じたまま発音すると顔を赤くしている。

 麻衣は、さらに<むむむ>と言いながらまだ考えているようだ、もう一押しかな? 
「一回だけじゃ駄目?」と麻衣は言ったが、それは安すぎだな・・と返す。
「初めてだよ?」と麻衣、それでも安いな・・・と返す。

「では、週一の3年でどうだ?」とここで条件を下げてみよう。
「もう一声」と値引き合戦に突入した。

「なら、3日に1回で2年だ」と今度は年数を減らしてみた。
「する回数が増えてるんだけど?」

 っち・・・鋭いな、一応は学年2位の学力と言う事は事実のようだな、しかしこれ以上は下げたくない。

「まぁ、考えてくれ。週一3年か3日1回で2年か、これ以上は譲れん。
 ただし力を悪用したら命で償ってもらうからな」
「ホントに超能力くれるの?」

 疑っているのか麻衣は俺を睨むように見ている。

「弱い力を先に与えて確認してもらうから安心してくれ」
「そっか・・なら身体強化と全属性魔法、それからアイテムボックスと鑑定にスキル創作魔法、あとは・・・」

 麻衣は少し上を見ながら言い始めた、まだ続くようだ・・・

「まて、それは無理だ。魔法とか存在しないからな! サイコキネシスのみだ、一応これは万能だからほぼ何でもできるぞ」
「サイコキネシス?」

「物質に力を与え動かす能力だ、原子レベルで干渉すれば錬金術もどきもできるし、自分自身を浮かせて飛ぶこともできる今の俺のようにな」
「う~ん、う~ん、セフレかぁ・・・若い子がいいな」

 と小さな声で麻衣は言うと、さらに考えると言い目を閉じじっとしている。

『織田様、到着しました。この下です』

 銀色の球体は止まると声を発した。

「よし降りるぞ」
「待って、ゆっくりね! ゆっくりだよ」

 麻衣は慌てて目を開け手の平を俺に向けて言った。

「わかってるよ」

 俺と麻衣はゆっくりと地上に降りていく。

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