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19話 キプロス星


 朝が明けた、およそ10メートル四方の部屋に一人の女性が窓際に立って外を眺めている、その部屋には寝具も家具もなく丸いテーブルと椅子が4脚あるのみ、まるで夜逃げの後のような部屋であった、その女性はとても長い時間外を眺めている。

「今日も全く変わらない景色、そして何もない一日が始まる、私はこの独り言はあと何千年繰り返せばいいのだろう」

 その女性は誰に話しかけるわけでもなく一人寂しく窓に向かって話しかけていた。
 その時部屋全体に機械的な警告音がビー、ビー、ビーと鳴り響いた。

『リヴァララより、お知らせします。
 警告! 警告! マスター・テナ=シエルに報告です』

 警告音に交じり機械的な音程の無い音声が部屋の中に流れた。

『繰り返します。
 リヴァララより、お知らせします。
 警告! 警告! マスター・テナ=シエルに報告です』

 窓際に立っていたその音声を聞くと同時に部屋の出入り口に向かって歩き始めた。
 その女性は歩きながら誰もいない部屋で何者かに向かって話しかけた。

「リヴァララ、制御室で聞きます。待てますか?」
『了解しましたマスター・テナ=シエル、お待ちしております』

 その女性は部屋から出て真っすぐに伸びる廊下を歩いていた、表情は全く変わらず無表情である、その女性は歩きながら独り言を始めた。

「久しぶりのイベントですね、何千年ぶりでしょう。数えたくもないですね…」

 独り言を言っている間も警告音は廊下にも鳴り響いている。

「危機的な警告かしら? それとも故障かしら?」

 そのまま女性は独り言を言いながら廊下の突き当りの部屋まで行くと人が5人ほど横並び出来る大きさの両開きの扉あった。
 女性が扉の前に立つと自動的に開き女性はその部屋の中に入っていった。

 部屋は約20メートル四方と広く窓はない、天井には明かりがついているが光量が足りず部屋全体は薄暗い。
 扉から入ってすぐに椅子11脚が横一直線に並んでいるだけで椅子以外は何もない部屋である、女性は真ん中の椅子に座り部屋の中央付近をぼんやり見ながら、何もない空間に話しかけた。

「リヴァララ、久しぶりね貴方と会話するのは、いつ以来かしら?」
『765年と45日3時間34分ぶりです。マスター・テナ=シエル』

 何処から聞こえてくるのかわからない音声が部屋全体に響き渡り女性の問いに即座に返答した。

「そうですか・・・まずは警告音を止めてください」

 女性はそう言うと同時に警告音は鳴りやみ部屋は静寂に包まれた。

『マスター・テナ=シエル、報告を始めます』
「お願いします」

『キプロス星上空470キロメートルに接近反応がありました。
 成分は鉄が98%、有機物反応が4つ、微弱ですがガイルアのエネルギー反応があります』
「有機物反応は生命体でしょうか?」

『有機物の保持温度、形から推測し人型の生命体である確率が90%以上です』
「生きているといいですね・・・それで鉄は乗り物ですか?」

『今から約7万年ほど前に栄えていたころの、空を飛ぶ乗り物と形状が80%一致しています』
「翼のある乗り物ですね、それで宇宙を航行できるとは思えませんが・・・
 リヴァララ、ガイルアのエネルギー反応と有機物反応は同一地点ですか?」

『距離が遠すぎて正確に確認できません、ナノマシンを飛ばし調査しますか?』
「ガイルアなら刺激を与えたくありません、少し様子を見ましょう。
 そうですね・・・・現在はどうなってますか?」

『現在はキプロス星上空400キロ地点を周回しています』
「ガイルアの反応はあの時と同じ個体ですか?」

『不明です、ガイルアの個別認識は不可能です』
「そうですね・・・あちらも様子見でしょう、こちらも少し様子を見ます。
 それでは命令があるまで待機でお願いします」

『了解しましたマスター・テナ=シエル、待機モードに入ります』

 女性と部屋に響く声は淡々と会話を行った、その女性は会話中も一切表情を変えなかった、話し終えるとその女性は椅子の背もたれに背中を押しあて上を見上げて目を閉じる。

「ガイルア・・・・・
 もしあの時の個体なら、これ以上私達から何を奪うんですか?
 もうこの星には生命は居ないのですよ・・・」


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