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第十七話

校門では、恭しく神頼みをしている生徒もたくさんいる。

「元の世界に戻ったと言っても、これでいいんだろうか。神頼みが叶うようなことはほとんどないし。願いが叶ってる時は、その人間が実力で果たしていることがほとんどだしな。」

「それでいいのよ。なんでも願いが叶ったら、人間は必ず堕落するわ。願いはめったに実現できないから、ありがたみが増すのよ。願いの安売りは現金よ。」

「それは厳禁だろ!その相反する文字変換は、本音が直球で紛れ込んでいるぞ。」

「神頼みって、そんなものなのよ。大して効果が期待できないということは一見要らないもののようにも見えるわ。でもそうじゃない。神頼みという救いのアイテムがある、それだけでいいのよ。本当に行き詰った時の駆け込み寺。それは絶対的に必要なもの。空気とは違うけど、見えないのに必要不可欠だということよ。それは誰かさんと同じだわ。」

「誰かさん?どこの誰だ?」

「な、何でもないわ。早く学校に行かないと遅刻するわよ。」



 登校路は今日もにぎやかであった。

神宮久城では第十一兆五千六百三十五億七千九百四十二万八千八百八十九回神セブン会議が開催されていた。場所は楡浬と弁財天が親子の対面をした、だだっ広い部屋である。

「三人寒女と布袋が人間界に下っているから、会議は三人だけだね。って、残りのふたりもどっかに行ってて、実は弁ちゃん、だけになってるし、しかし。」
 弁財天は、少し眉根を寄せて、真っ暗な窓の外を眺める。

「ビッグバンは今が第二回、いややり直したから、第三回か。次はどうするかな。支配者は神、人間、神となったから、次は魔冥途あたりかな。本来なら、人類皆兄弟的な仲良しがいいのかもしれないけど、スタートをそこに置いても、結局戦争で頂点を目指そうとすることになるんだよね。生き物って、そんなことの繰り返しだから。どのビッグバンも、よーいドンで始めて、進化の過程で支配層が決まってるから。まったく別の種族を最初から変えることのできない絶対王者にして、ほかの属性がいくら抵抗しても、王位が揺るがないとか、そんな設定が面白いかもね。138億年も支配されたら、どれだけ闇落ちしてしまうか、楽しみかも。わはははは、しかし。」




ここは神鳴門高校の生徒会室。教室ぐらいある広い部屋の窓側に大きな机が置いてあり、ふたりの女子が見える。

「神セブン会議にこのワタクシを入れないなんて、弁財天の専横は許せませんわ。こうなったら、もっとあの神見習いをイジメてやりますわ。」
銀色の長い髪は瑞々しく、ラメ入りのボディが輝いている。細長い吊り目と長い睫、加えて艶やかな唇が色気をたっぷりと湛えている。

「さすが神セブン・センター(いつも仮)の恵比寿お嬢様。」

「センターに(いつも仮)が付いているのは邪魔ですわ。それにその無粋な呼び方はお止めなさいと言ってるでしょう。『寿』という文字が誰かさんと被るのもすごくいやですし。そもそもワタクシは、華莉奈というのが本名なのですから。」

「センターは毎年の選抜総選挙で変わるから安定的なポジションではありません。それにしても今日もあったかそうです、恵比寿様。」

「だから、おやめなさいと言ってますのに。せっかくのお湯が冷めてしまいますわ。」

「いつものことですが、その姿、恰好は生徒会長のお立場にはビミョーにふさわしくなさげです。」
美少女はヨーロピアン型のキャスター付き浴槽に浸かっているのである。華莉奈のそばには、漆黒エプロンドレス、黒いヘッドドレスのメイドが立っている。メイドは無表情で、長めのスカートに軽く手をやりながら、眇めた視線を華莉奈に送っている。

「お嬢様。ニヤリと下卑た恵比寿顔がお似合いです。」

「穂扶良、メイドの分際で、主人に対して何という口の聞き方をするんですの。恵比寿顔なんて最大の侮辱ですわ。クビにしますわよ。まあ、下卑たっていう尊敬語を使ったことは認めますけど。」

「お嬢様。大正解です。お嬢様の国語力を評価して、今すぐお湯を抜いて、お嬢様の全裸姿を学校中に晒して差し上げます。エロ神として永遠に讃えられることは必定です。」

「お止めなさい、いや、助けてください、穂扶良!」

「お嬢様。無理です。すでに、堰は切られました。ヒヒヒ。」
声だけ猥雑で無表情なメイド穂扶良。お湯はとうとうと流れている。

「きゃあ~。ワタクシの素肌が~!」
美しい人魚の姿が現れた。しかし、お湯が完全に流れると、華莉奈のからだが縮んでいく。ついには、体長10センチとなり、穂扶良の肩に乗った。飛び跳ねる魚柄の和服を着たミ
ニチュア美少女。手には魚籠を持っている。

「またこんな姿にしてしまって。ホント、怒りまちゅわよ、穂扶良。」

「それでこそ、お嬢様です。恵比寿神本来の力はその姿でないと発揮できないんですから、感謝して下さいませ。」
「またその名前を!いつかお仕置きして差し上げまちゅから、覚悟なちゃい。」

 ミニチュアお嬢様を肩にオンしたまま、穂扶良は生徒会室のさらに奥へと消え去った。

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