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謎の少女5

 それからというもの、東西の見回りの最中や休憩時間なども常に目的の魔法をどう組み込もうかと考えながら任務に就いた。
 敵性生物討伐の間もそんな感じで過ごしたが、今回は三日で二十四体も討伐出来た。森の様子が回復してきたのか、複数体で行動しているのが増えたおかげだろう。
 そういえば変異種が居なくなった事で、東側の見回りも西側と同じ二部隊での見回りに戻っていた。しかし、全てが元に戻った訳ではないようで、平原に姿を見せ始めた敵性生物の中には、森の奥の方に生息しているはずの存在が増えた気がする。それは監督役の魔法使いの人達も感じたようで、討伐が終わった後に深刻そうな顔で話をしてる様子を目撃した。
 そんな北門での任務を一通り済ませた後の休日。ボクは駐屯地を出た後に、人目を気にしなくてもいいような場所に移動してから、転移装置を起動させる。
 転移すると、しっかりとクリスタロスさんの住んでいるダンジョンの奥に到着した。

「いらっしゃいませ。ジュライさん」

 クリスタロスさんに出迎えられて挨拶を交わすと、いつものようにクリスタロスさんの部屋に移動して、淹れてもらったお茶を飲みながら歓談する。
 そうして暫く時間を過ごした後に、訓練所を借りた。
 訓練所に移動した後は、空気の層を敷いた土の上に腰掛けると、早速組み込む為の準備を行い、作業に入る。
 思ったよりも早く理論が完成してきているので、とりあえず実際に組み込めるかの作業に入る。それで浮かんだ問題点を修正しつつ、更に最適化を行っていく。しかし、中々重要な部分が上手く組みあがらない。

「・・・ふむ」

 当然だが、自分で行う魔法と違って、組み込んだ魔法は組み込んだ範囲内でしか動作しない。その辺りを踏まえて構成していかなければいけないので、難しい部分は本当に難しいのだ。

「・・・このままでは、容量がかなり必要だな」

 一応組み上がったそれの、莫大な情報量に頭をかく。このままでは、全身鎧並みの膨大な情報量を持つ素体が必要な気がする。それでは嵩張りすぎて、役には立たないだろう。
 容量拡張に圧縮まで行ってこれなのだから改良の余地しかないが、とりあえず組み込む事には成功した。あとはここからどうやって減らしていくかだが・・・さて、どこから手をつけようかな。





「・・・これは予想外でした」
「そうだねー。これは流石に想定できないよ」

 人間界の人気の全くないとある場所で、二人の少女はどこか困惑したような声音で言葉を交わす。

「しかし、何故あれは消滅しないのでしょうか?」
「さぁ? もう()うに消えていてもおかしくはないはずなんだけれども・・・それどころか、妙な変化を遂げてるね」

 二人はそれぞれの手段で遠く離れた場所を観察しながら会話を続ける。

「そうですね。それにしても、何をする気でしょうか?」
「方角的に言えば、標的は魔族軍だろうと予測できるけれど・・・そうなると、砂漠に出ないといけなくなるね」
「足を止める気はないようですので、もうじき森を出るでしょう」
「ふむ。あれの考えが読めないね」
「ええ・・・それにしましても」

 そこで言葉を切った片方の少女は、機能していないはずの片側の目を手で覆い、僅かに考えるように首を傾けた。

「どうかしたの?」

 そんな少女に、もう片方の少女が不思議そうに問い掛ける。

「いえ、大したことではないのですが、少々視界が霞むといいますか、時折世界の一部が確認出来なくなるのです」
「・・・それは結構な問題では?」
「分かりません。過去にもこういった事態は何度かありはしましたが、原因は不明です」
「ふむ。何も問題が無いのであればそれに越したことはないけれど・・・それでも原因を調べといた方がいいんじゃない?」
「それは昔から行っております」
「結果は? ・・・って不明か」
「はい」
「そっか。私も原因に心当たりはないし。というより、私の感知する領域でもないが」
「同胞も誰も知らぬようでしたが、その時は皆似たような感じだったらしいです」
「精霊の通信網は?」
「それが・・・短時間ではありましたが、該当部分の通信網は大部分が機能していなかったようです。機能していた僅かな部分では、必要な情報の取得は行えず」
「勿論その後に調べたんだろう? 結果は?」
「異常はありませんでした」
「そっか・・・それは困ったね」
「ええ」

 少女達は遠くを観察しながらも、少し重たい空気に閉口する。

「・・・じゃあさ、主公様に御伺いを立ててみては?」
「御主人様に?」
「うん。だって気になっているんでしょう?」
「確かに気にはなっておりますが、この程度で御主人様を煩わせてしまうのはどうかと・・・」
「でも、他に知ってそうなのって・・・オベロンかドラゴンの王辺りだろうけれど、私達が知らない以上、期待は出来ないと思うよ。あの子もきっと知らないだろうし」
「・・・・・・」
「ならば、御伺いを立てるしかないと思うんだけれど? 主公様ならきっと答えを下さると思うよ?」
「御存じではありましょうが、答えてくださるかどうかはまた別問題では?」
「まあそうだね」
「・・・はぁ。あの件で興奮しているのは分かりますが、少し落ち着きなさい」
「むぅ。でも、他に答えを持ってそうな存在が居ない、というのは事実だよ?」
「・・・考えておきます。それよりも今は」
「そうだね」

 二人の少女は意識を視線の先に戻す。

「もうじき外に出る頃ですよ」
「出れるのかな?」
「それは直に分かる事です」
「そうだね。少し楽しみだよ」





 クリスタロスさんのところで目的の魔法を組み込む実験を行った日から数日が経過し、見回りや敵性生物討伐などを終えてから、次の休日には、またクリスタロスさんのところに来ていた。
 ここ数日で大きな変化はなく、同室者も未だに決まっていないので、クリスタロスさんに話す内容などほとんどなかった。なので、直ぐに訓練所を借りることにした。
 あれから多少の進展はあったものの、そこまで組み込む魔法の容量は減らせていない。考えても中々妙案が浮かばないのだ。なので、どうしたものかと思案しながら試行していくものの、だからといって、突然妙案を閃いたりはしない。

「さて、どうしたものか・・・」

 とうとう思いつく限りの試行をしてしまい、手を止める。本格的に困ってしまったな。

「こういう時は、別の事をすればいいらしい」

 そんな話を何処かで聞いたが、他に考える事もないので、頭を切り換えることにする。

「でも、何をすればいいんだ?」

 組み込み作業に使っていた鉄塊を分解するも、特に何も思い浮かばなかったので、少し遊ぼうと思い立ち、首飾りを創る事にした。
 折角の遊びなので、創る首飾りは普段は創らないようなド派手なモノにしてみよう。気分転換のお遊びのような物なんだし。
 金色に輝く煌びやかな太めの糸を創り、花を題材に、その黄金色の糸で編んでいく。幾つもの花が連なるように編みつつ、大きな円状に形成していく。
 その花々の中心には土台を取り付け、色とりどりの石を創っては、その土台に嵌め込んでいく。本当は宝石を創りたかったが、残念ながらボクは本物の宝石をほとんど見たことがない。それに、一般的に宝石は魔法では創れないといわれている。それを言ったら金もなので、実際は極めて難しいだけで不可能ではないと思うが。
 ともかく、宝石擬きである色付きの透明な石を製作する。水晶は見たことがあるので、それを参考に色を付けただけだ。
 そうして金の糸で花々を編み、その中心に組み込んだ土台に宝石擬きを嵌めて出来た煌びやかな首飾りは、光が当たると、それを反射してもの凄く存在感があった。しかし、色々とくっつけたせいで重くなってしまった。
 とりあえず、それに容量拡張と重量軽減を組み込み、耐久上昇も忘れずに組み込んでおく。

「これからどうしようかな?」

 手慰み程度の品なので、付ける魔法は実用的でなくてもいいだろう。そうだな・・・折角これだけ存在感が在るのだ、魅力を更に引き上げるような魔法を幾つか付けてみよう。
 そう思い立って組み込んだ魔法によって、首飾りは一層光り輝いたような気がする。うん、中々に美しい。駐屯地で付加品などを調べておいてよかったな。何が役に立つか分からないものだ。たとえ終われば分解するにしても、中々の存在感だろう。
 さて、では次は、あらゆる機能障害に対して耐性を得られる魔法を組み込む。これは割と容量を使うが、お遊びで創っている品だから問題ない。それに、完全に耐性を得られるわけではなく、組み込んだ魔法以上に強力なものであれば防げない。
 他にも簡易的な結界も装着者が纏えるようにしてみよう。流石に精神防御までは組み込まないが、装着者を可能な限り護って魅力的にしてやろう。その為にも、組み込みたいものが幾つかある。

「・・・・・・あれ?」

 それから悪乗りして組み込みまくっていたら、結構な容量を使ってしまった。しかし、いくら見直してみても、色々と組み込んだ割りにはまだ容量が残っていた。

「お遊びの品なのに意外と性能が高くなったのは、この際()いておくとして。容量拡張に圧縮まで使っているとはいえ、これだけ組み込めるのはなんでなんだろう?」

 確かにこの首飾りは重かった。重量軽減を組み込まなければ長時間付けてはいられないぐらいに重かったが、それにしてもここまで組み込めるものなのだろうか?

「・・・・・・うーん・・・もしかして、石を嵌め込んだから?」

 それに思い至ると、首飾りの情報を複製して、もう一つ同じ物を創ることにする。
 そうして全く同じ物を複製すると、一緒に複製されてしまった魔法を取り除き、その後に嵌め込んである石を全て取り除いて分解する。

「ふむ・・・ふむ?」

 確かにそれで容量は減った。つまり考えは正しかったことになるが、しかしそれだけでは説明にならないぐらいには容量が残っている。
 なので、次は台座を外して観察するが、それでは容量は大して減りはしなかった。

「糸? ・・・でもなんで?」

 残った物は金の糸のみ。しかし、そんなに容量を持っていたかな? そう思いながら、編んだ糸を丁寧に解いていく。そうして解いた糸を床に広げてみると、予想以上にたくさん使っていた。

「編んだから? でも、それなら・・・ふむ。横道も中々に興味深いものなのだな」

 新しい考えが浮かび、床に広げた邪魔な糸を全て分解する。
 それから途中だった首飾りを急いで仕上げると、一応満足する出来にはなったが、観賞する時間が惜しいので、首飾りを一度情報体に変換して鑑賞は後回しにすると、ボクは浮かんだ考えを実行に移す事にした。
 まずは極細の金の糸を何本も何本も寄り合わせて一本の糸にする。

「・・・うん。やっぱり」

 そうしてできた糸の容量を確認すると、同じ材質で同じ大きさの棒よりも格段に多い。これはこれである意味容量拡張に似ている気がするが、詳しい考察は後日でもいいや。今は僅かに見えてきた光明をどう形にするかだろう。
 とりあえず、現状の完成度の魔法を組み込む際に必要な容量を確保出来るまで、寄り合わせては編み上げていく。
 黙々と糸を創造しては寄り合わせて編んでいき、必要な空きも含めて十分な容量を確保できたのは、大体上衣ぐらいの大きさだろうか。とりあえず全身から上半身と少しぐらいまで減らせたのだから、結構な進展だろう。
 後はこの半分近くまで減らせた容量を、更に最低でも五十分の一ぐらいまで減らせればいいのだ、余裕だろう・・・もう完成間近だな! 乾いた笑いしか起きないけれど、きっと大丈夫なはずだ!
 そんな現実逃避を軽く行うも、直ぐに虚しくなって息をつく。

「さて、真面目に考えるとするか」

 意識を戻すと、まずは現在の時刻を確認する。結構いい時間だが、まだ日付は変わっていないので、もう少しこのまま続けていても問題ないだろう。宿舎には門限はないし。
 色々考えながらも、頭の片隅でそんな風に思っていると。

『今、少しいいかな?』

 珍しく兄さんが声を掛けてきた。

『ん? どうしたの?』

 驚きつつも、それに応える。

『少しの間、意識を交代したいのだが』
『いいけれど・・・どうしたの?』
『幾つか試したい事があってね』
『試したい事?』
『まあ色々とね。実際に行うのと、思考するのではやはり違うから』
『そうだね』
『・・・それとも知りたいかい? 知ったら知らなかった頃には戻れないけれど』
『ん、んー・・・いや、いいよ。それより、もう交代していいの?』
『ああ。こちらの準備は出来ている』

 兄さんの了承に精神を集中する。兄さんの用事は気になったが、知らない方がいい事もあるのだろう。それに、必要であれば教えてくれるだろうし。
 そうして数秒と経たずにボクの意識は闇の中に沈んでいく。
 しかし、その暗闇も直ぐに払われ、いつもの光に満ちた草原の世界に変わる。
 前回のジャニュ姉さんのところでも同じようにここに移動したが、やはりこの草原が精神世界でいいのだろう。でも、ここは兄さんの精神世界じゃなかったのかな?
 そんな疑問を抱くも、よく分からないので、考えたところで意味はないか。
 この世界から外の世界の様子は全く分からないので、兄さんが現在何をしているかは窺い知れない。
 しょうがないので、組み込む魔法の改良を行う事にする。
 この世界でも魔法は使えるが、実物ではないらしい。なので、ここで何かを創ったところで、外の世界には持っていけなかった。それでも情報は得られたので、無意味ではなかったが。
 そういう訳で、情報の蓄積の為に試行を繰り返す。暫くそれを行ったあと、進展が見られない為に、視点を変えて素体の改良を行う事にした。
 幾重にも寄り合わせて密度を高めることで、何故か同じ大きさでも容量を増やせることが解ったので、後はこれをどこまで高められるかで今後の方針も変わってくる。小型で大容量な素体が完成すれば、組み込む魔法の改良にも光明が見えてくるし、今後の魔法道具も面白いことになってくる事だろう。
 そんな興味深い事案に、自然と気分も高まってくる。
 まずは寄り合わせる糸を更に細くしていく。
 極限まで糸を細くしたら、それを寄り合わせていく。この寄り合わせる方法も工夫できないかな? そうは思うも、捻るように絡ませる以外に効率的な方法ってあるのだろうか? 少し考え、圧縮魔法で密度を高められないか試してみる。

「ふーむ」

 その試みは成功したものの、元から無理矢理密度を高めていたので、劇的な飛躍にはならなかった。他にどうすればいいか考えるも、圧縮して残っていた僅かな空間を埋めて密度を限界まで高めたので、他には中々思いつかない。なので、一度現段階の出来で必要な容量を確保するのに、どれぐらいの大きさになるのかを確かめてみる。

「・・・・・・」

 黙々と集中して創り上げていく。いつ何時兄さんから交代を言われるか分からないので、可能な限り早く編み上げていく。圧縮などの魔法を併用する事で工程を大幅に短縮することが出来たので、かなり短時間で編み上がっていく。

「・・・・・・こんなもの・・・か?」

 編み上げた物を鑑定して、情報の容量を見極めると、必要量の情報領域を確保出来ていることを確認する。

「結構前進できた・・・が」

 大体前回から三分の一ぐらいは減らせただろうか。感覚でいえば、長袖が半袖になったというか、厚着が薄着になったようなそんな感覚で、一応減りはしたが、元から結構減らせていたので、思った以上には減らせなかった。

「・・・一気に完成するとは思ってはいなかったが、それにしてもここまできついのか」

 折角糸を使用しているのだから、一応服にするという案があるにはある。しかしそれでは駄目なのだ。

「素体はこの辺りが限界か? 元来の素体の容量を考えればかなりの進歩だが、それでも足りない。魔法の圧縮も難しいな。もう一度はじめから洗い直して、削れるところは削らないとな。簡略化できる部分も探さないと」

 もしも現在のボクの状態が視覚化出来るのであれば、頭から煙でも出ているのだろう。そんなことを考えていると。

『交代しようか』

 兄さんから声が掛けられる。

『分かった』

 それに言葉で頷くと、フッと意識が途切れる。

「んぅ?」

 次に目を覚ますと、クリスタロスさんのところの訓練所であった。周囲を見渡しても特に変化はないので、兄さんがここで何をしていたのかは分からない。もしかしたら別の場所に転移して作業した可能性もあるからな。

「ん?」

 ふとそこで、自分の服から変わったにおいが微かにしたのを感じる。それは本当に微かで気のせいかもしれないが、どこか甘ったるい感じのにおいだった。しかし、それは幸せな甘さではなく気分が悪くなる甘さで、それでいてつい、顔を離して服を払ってしまう程の忌諱(きき)感に襲われるにおいであった。

「・・・なんだ?」

 おそらくそれは兄さんが何かをしたから付いたにおいなのだろう。それが何かは解らなかったが、何故だか急に気味が悪くなり、浄化を行使して服ごと身体を綺麗にする。
 それが済んで時間を確認すると、もう日付はとうに変わっていたので、クリスタロスさんにお礼を言ってから転移で戻り、駐屯地にある自室へと戻ったのだった。





 あれから一月ほどが経過した。
 東西の見回りにも慣れたが、森の中が大分落ち着いてきたので、その分平原にも結構な数の敵性生物が出てくるようになった。
 それに伴い、見回りの最中にも目にする機会が増えはしたが、それでも相変わらず平和なものであった。それに、そのおかげで討伐数が一気に増えてくれたのは喜ばしい事で、現在の速度であれば、早ければ次の討伐任務で規定数には達することが出来そうだ。
 授業が終わってからというもの、ジーニアス魔法学園には戻っていないし、休日はクリスタロスさんのところに行っているので、最近プラタとシトリーと会っていない。たまに会話はしているのだが。
 そういえば、兄さんと交代した日から少しして、新しい同室者がやってきた。名をアガットといい、背が高く筋肉質で全体的に厚みのある、体格のいい少年だった。
 そんな圧迫感のある体格に加え、鋭い目つきをしていたので、最初は驚いたものだったが、話してみると温和な性格の様で安心した。声質が濁っていた為に、言葉が少々聞き取り辛かったのは困ったが。
 どうやらアガットはユラン帝国出身らしく、ジーニアス魔法学園とは別の学校だった。帝国の南の方にある学園らしいが、初めてジーニアス魔法学園以外の帝国の学園生と出会った気がする。ボクが気がついていないだけなのかもしれないが。
 アガットも中々に高い魔力を持っているが、聞けばボクと同じで単独で来ているらしい。一応外で敵性生物と戦う事もあるらしいが、ジーニアス魔法学園のように、討伐義務のようなモノはないという。
 それからも色々な話をしたが、とりあえずアガットとは良好な関係を築けたと思う。
 そして、今日も休日の為にクリスタロスさんのところに来ていた。
 いつも通りに軽く雑談を交わした後に、訓練所を借りる。
 訓練所では座って魔法の改善に努める。素体の方は、現状の技術で目一杯容量を確保しているので、今は魔法の方をどうにかするしかない。

「とはいえ、こっちも行き詰ってるんだよな」

 魔法の圧縮に容量の拡張。この両方共に今まで幾度も試行錯誤したが、満足いく結果は出ていない。つまりは、現在八方塞がっている状態だ。

「また別の事でも試すか? ・・・うーん、その前に、もうちょっと魔法自体を精査してみるかな」

 今までも幾度と試行してきてはいるが、それでもまだ可能性があるのはこちら側だろう。
 魔法の理論を見直して、不要な情報を少しでも減らし、簡略化出来る部分は簡略化していく。普通に行使する分には何の問題もない事も、組み込むとなると難度が一気に跳ね上がるな。
 理想としては、何時如何なる時でも万全の状態で発動できる事ではあるが、それでは組み込む魔法の容量があまりにも多すぎるので、出来るだけ状況を限定する事にする。
 そうすることで組み込む魔法の容量が大幅に減らせるが、その分万能性は犠牲にしなければならない。そのうえでより簡略化して、余分な部分を削ぎ落し続けなければならない訳だ。
 一応発動状況を限定したので、容量を減らすことは出来た。細かな設定に苦労はしたが、そこはまあいい。ただ、元々組み込もうとしていた魔法が限定的条件下で起動する魔法だった為に、大幅な削減までには至れなかった。それでもそこそこ減らせたので良しとしよう。

「ここをこうして・・・でもな、この部分をどうにか改良できないとな・・・」

 最も容量を使っている魔法の重要な部分について頭を悩ませるが、解決策は見つかっていない。

「ふぁ・・・ふぅ」

 疲れたので一息つこうとすると、欠伸が漏れ出てしまった。
 思い切り伸びをして、座り込んでばかりで縮こまっていた身体を伸ばすと、ボーっとしながら、小さな魔法球を発現させたり分解したりを繰り返して、息抜きをする。

「・・・さて、再開しますか」

 暫くそうして休憩を終えると、ボクは再度魔法の改良に取り掛かった。





「まさか、そんな・・・!!」

 それは夢のような光景であった。ただし、吉夢ではなく悪夢の類いだが。

「お前は一体何者だぁぁぁ!!!」

 玩弄され、無残に殺されていく味方や同胞の姿に、一人の魔族の男性が絶叫しながら魔法を発現させる。その叫びは、その場に居た全ての者の叫びだった。

「ワたシ? ワたしはだれだとおもウ?」

 男性のその心からの絶叫に、それはどことなく嬉しそうに首を傾げつつ、放たれた魔法をその身で受け止め、あっさり吸収してしまう。

「ネェ、コたえてくれなイ?」

 その言葉と共に、それは一瞬で男性の目の前に現れると、男性の腹の中に自分の手を突き入れる。

「が、うっ」
「ナぁにィ?」

 それは歌うような弾む声で問い掛けながら、男性の言葉を聞こうと、耳と共に身体を近づけ、腕を更に奥へと押し込む。

「ば、化け物が!!」
「バけもノ?」
「そうだ!! それが貴様の名だよ!!!!」

 眼前のそれへと男性は血を吐きながらそう叫ぶと、逃がさないとばかりにそれへと抱きつき、己が身を犠牲にするのも厭わない派手な爆発を行う。
 それで派手に四散した男性の肉片が濡れた音を周囲にまき散らすなか、それは男性のまき散らした血を全身に浴びながらも、無傷のままで不思議そうに首を傾げた。

「バけもノ? ナにをいっているのかしラ? ソれはわたしのなまえじゃないわヨ?」

 そう首を傾げると、それは血に塗れたままでニコリと妖艶に笑った。

「ワたしのなまえはないとめあだもノ。ソしテ、アのいだいなるおんかたのちゅうじつなるしもべなのヨ。フふフ」

 ナイトメアと名乗った少女は、陶酔するように瞳を潤ませ、天を仰ぎ見る。

「アア! ワたしになまえとちからをさずけてくださっタ、スべてをしはいされていル、イだいなるめいさマ! イまあなたさまのもとへとへいたいをほうけんいたしますワ!」

 そう言うと、ナイトメアは残っている者達に目を向ける。そして、透き通った笑みを浮かべて宣告した。

「サ、セんれいのじかんをさいかいしますヨ。ミなさんにしゅくふくヲ!」





 行き詰るまで進むと前進は困難になるが、それを越えると一気に進むらしい。

「・・・そう聞いていたんだがな」

 出来得る限りの素体の改良を行い、可能な限りの容量の拡張を試み、考えられる限りの魔法の減量や簡略化を行ってみたが、現状では腕一本を指先から肩まで全て覆ってもまだ足りないぐらいの出来でしかない。せめて腕輪・・・いや籠手ぐらいの大きさまでにはしたいものだ。
 そう考えて一月ほど、北門に来てから約半年が経った。
 休日や学園に行っていた期間分は任務期間に含まれていないので、まだこれから一月半ほどはこの地に滞在していなければならない。まあ討伐数は規定数に達したし、北門の環境にはもう慣れたのでそれはいいが、目標の三年の間に魔法道具を完成させる。という目標が危うくなってきたことの方が問題だろう。
 ああそういえば、ペリド姫達の追っていた奴隷売買の件はやっと一段落したらしく、四人は現在東門に滞在中なのだとか。
 調査は他の者が引き続き行っている最中らしいが、中枢にもかなりの逮捕者が出ているとかで、色々大変らしい。それでも東門に行ったのは、そろそろ戦闘経験も必要だろうという判断なのかもしれない。東門はちょっと強い魔物が多い地域だからな。
 という訳で、ペリド姫達は現在四年生だ。相変わらず、調査の間は全てが任務に加算されているという扱いらしく、つまりは学園に行くことも休日もなかったという計算になるので、進級が早いのは当たり前だ。討伐数に関してはよく知らないが、進級したからには問題ないのだろう。
 ま、そんな元パーティーメンバーの話はいいとして、ここからどう改良していくかを考えていたある日の事。
 防壁上からの見回りを終えて帰ってくると、誰も居ない自室のベッドの上に一通の手紙が置かれていた。それはとても見覚えのある、差出人の書かれていない封書であった。
 とりあえず深く考えることは止めて、何も仕掛けられていない事を確認してから開封する。
 中には折りたたまれた手紙が一通だけ入っていた。それを開くと、びっしりと書かれている文字が目に飛び込み、辟易しつつも目を通していく。案の定、差出人はジャニュ姉さんであった。

「・・・ふむ」

 その長々と書かれていた手紙の内容を一言に要約すると、『家に来い』 という至極単純なものだった。なんでも、パトリックがまた兄さんに稽古をつけてほしいのだとか・・・そんな事をやっていたのか、兄さんからその辺りの事は何も聞いていないぞ。
 とりあえず手紙に目を通してしまったので、兄さんに伝えるだけ伝えておくかな。

『兄さん』
『・・・何?』
『ジャニュ姉さんから兄さん宛てに手紙が届いていたよ』
『そう』
『内容を読み上げようか?』
『うん。お願い』
『じゃあ、読むね』

 ボクは手紙の内容を間違わないように気を付けながら、ゆっくりと読み上げる。

『なるほど、ありがとう』
『どうするの?』
『行く気はないよ』
『そっか。それにしても、稽古なんてつけていたんだね』
『気まぐれさ』
『そっか。でもいいの? 余程会いたいらしいけれど』
『基礎は一通り教えたから問題ない』
『そっか。でも、これどこに返事すればいいんだろうか?』
『・・・場所が判っているのだから、そこに手紙を出せば?』
『ああ、そっか。でも、ボクが出して届くのかな?』

 平民の出した手紙が貴族に届くかどうかは微妙な所だろう。

『そもそも、僕がどうするかをどうやって伝える手筈になっていたの?』
『えっと・・・手紙には何も書かれていなかったはずだけれども・・・』

 手紙の内容を読み直すも、その辺りの事は何も書かれていない。
 他に何か入っていなかったかなと思い、封書の中を改めて確認すると、一枚の小さな紙片が入っていた。

「?」

 封書をひっくり返してその紙片を手に取ると、迎えが来る時刻が書かれていた。上の方に追伸と書かれているが、書き忘れたのか、はたまた書ききれなかったのかは不明だ。それにしても、相変わらず強引なものだ。
 とりあえずその事を兄さんに伝える。

『そう』
『どうするの?』
『断れば?』
『う、うーん、そうだね・・・』
『・・・はぁ。分かったよ、姉さんの家に着いたら表に出るよ』
『あ、ありがとう』

 少し意外ではあったが、それであれば断らずに済む。わざわざ迎えに来てくれた人に断りの言葉を告げるは面倒・・・じゃなくて、気が乗らないからな。人と話すのは緊張するし。

『他に何かある?』
『ううん。他には何もないよ』
『そう』

 それで兄さんとの会話は終わる。とりあえず、これで手紙の件は大丈夫だろう。進級までそんなに時間が無いから、ジャニュ姉さんからの呼び出しもこれで最後になるだろうからな・・・多分。一応向こうに着いたらその事を伝えておいた方がいいかもしれない。
 さてと、とりあえずお風呂に入って寛ぎながら魔法道具作成の続きでも考えるとしようかな。そう思い、個人用の浴場に移動する。相変わらず人は居ないので、のんびりできる。
 浴室に入り、身体を洗ってから浴槽に張った湯に浸かると、漫然と天井を眺めながら頭を使う。
 現状、限界まで容量をかなり増やしている以上、やはり組み込む魔法の改善が必要だと思うので、その辺りを中心に思考を開始する。
 まずは、簡略化や代替などの改善点が思いつかない以上、何処かの部分を削るしかない。しかし、削れるところは全て削ったので、ここは根幹部分にも手を加えるしかない。必要だと思っていても、案外そうじゃない事もあるだろうからな。

「ふむ」

 そういう事で一つずつ崩したり削ったりしては、脳内で試行していく。それを幾度も幾度も繰り返していくと、何かが見えてきそうな気がしてくる。しかし、その前にのぼせそうになってきたので、一旦お風呂から出ることにした。

しおり