出会い
私は、決して|同性愛者《レズ》でなければ、ロリコンでもない。
そのはずだった。
コイツ、なにを急に言っているのだろうと思われるかも知れないが、事実として述べたかった。
かと言って、好きな異性が居るのか? と問われたら首を横に振らざるを得ない。興味を引く相手が居なかったのだから。
強いてあげるのならば、可愛いものが大好きだ。こう言うと、友達やクラスメイトからは「意外!」と驚かれる。でも私は声を大にして言いたい、カワイイは正義なのだ!
そんな私の名前は高木 |玲奈《れいな》。我ながら格好良い名前だと思っているし、周りからは「玲奈ちゃんって名前通りで、少しクールでお姉さんって感じがするよね」と言われたりする。
周りの女子が、この男子は格好良いとか、子供だよねぇやらと騒いで居るのを静かに相槌を打っていたせいかもしれない。
正直、周りの男子には興味が無かったので仕方が無い。
中学校に上がるまであと少し、現在は冬休みに入って軽く暇な時間を持て余しながら中学に入学してからの新しくなる環境や人間関係、学校生活を想像して少し|憂鬱《ゆううつ》になっていた。
そんな時、隣にとある家族が引っ越してきた。
引越しの挨拶でやって来た夫婦の足元に小さな女の子が張り付いていた。そして、彼らを家に招き入れ、居間で軽く話す事に。
その小さな女の子の名前は|小鳥遊《たかなし》 |日向《ひなた》ちゃん。 私がしゃがまなければ目線を合わせられないぐらい小さく、可愛らしいつぶらな大きな目に、肩で切り揃えられたサラサラの黒髪。まん丸ほっぺは、柔らかそうで突けばプニッとしていそうだ。
「ひなたといいます。れいなおねえちゃん、よろしくおねがいします」
と小さいながらも、しっかりとした挨拶をする日向ちゃんはとても賢く見え、一挙手一投足が可愛らしく、何もかもが愛らしい。
初めは、知らない人と会話をしなくてはいけないので少しめんどくさく思っていた私だが、そんな事はどうでもよくなり、日向ちゃんの事が気になって仕方が無かった。
可愛いもの好きな私のハートは、既に鷲掴みにされてしまったのだ。心がキュンキュンするのを止められない。
この時はまだ気がついていなかったのだ。
人はこれを、一目惚れという。
それからは、暇な時間しかない私は日向ちゃんと遊ぶようになり、同世代の子と比べたら比較的大人しい日向ちゃんだが、最近では私が遊びに行くと「れいなおねえちゃん!」と言って駆け寄って来ては、小さな手で私の指を握り笑顔を向けてくれる様になった。
この黒髪の天使は、私をどれ程メロメロにすれば気が済むのだろうか。
冬休みが終わり、日向ちゃんとの|逢瀬の《遊ぶ》時間が減ることに溜息をつきながら重い足取りで通学の為に外へ出ると、お母さんに手を引かれて出てくる日向ちゃんの姿を発見。
私服姿ではなく、保育園指定の制服に身を包み黄色い帽子をちょこんと頭に被せた姿はあまりにも愛らしく、湧き上がる日向ちゃんへの赤い想いが鼻から漏れ出しそうだった。
よくぞ耐えたと、自分を褒めたい。
こちらに気がつき、|天使の笑顔《エンジェルスマイル》で手を振る日向ちゃんの尊さに|膝を折り掛けた《ダウン仕掛けた》が、どうにか根性で耐え切りこちらも笑顔で手を振り返した。
朝から思わぬ所で日向ちゃん成分を補給し、軽い足取りで学校に到着。
しかし私の頭の中には今朝の日向ちゃんの姿で埋め尽くされており、フッとした瞬間には直様あの姿がリピート再生されてしまう。
“はぁ……日向ちゃん可愛かったなぁ”
そんな事を繰り返してと3時間目の授業が終わっていた。
また脳裏に日向ちゃんの姿が浮かび上がりかけた、その時、友達が話しかけたきた。
「ねぇ玲奈ちゃん、大丈夫? さっきから遠い目をしては溜息なんかついちゃって……もしかして、恋煩い?」
「……え?」
何故か、友人の言葉で周りが騒がしくなったが、それどころではない。
恋煩い。
そう聞いて、何かが私の心にストンッとハマった気がした。
日々家族に対して、今日の日向ちゃんはどうだった、こうした姿が可愛かったなど、まるで世間話をするかの様に話す私に妹の様な存在が出来て嬉しいのだろうと微笑ましそうに聞き流していた両親の態度。
若干腑に落ちない気持ちを抱えながらも私自身も、そういう事なのだろうと自分に言い聞かせるように納得してた。
しかし今の言葉を聞いて、心の中に掛かっていたモヤみたいなモノが晴れるのを感じ、そして大いに戸惑った。
“私は日向ちゃんに恋している? 保育園に通って小さい子に、それも女の子……”
その事実に軽く動揺したけど、納得してしまう。
私は今まで、こんなに好きになった人は居ない。
そう……これが、私の初恋。
「そっそんな訳無いじゃん。まったく、|薮《やぶ》から棒に何言ってるんだか。ただ休み明けで学校がダルイだけだよ」
疑っている友人を何とか誤魔化すが自分の気持ちを自覚した瞬間、日向ちゃんへの思いが急激に加速した様な気がした。
それを証明するかのように、私の心臓はドキドキと高鳴っている。
もはや思い過ごしではない程、日向ちゃんへの愛が高まり、ダッシュで学校から帰宅。
時間的にも日向ちゃんは帰ってきていると思い、来年は中学生になるのだからと買って貰った携帯電話から、登録件数の少ない物寂しい電話帳を開き通話ボタンを押す。
そう、私は自分の心に正直に生きる女なのだ。
数秒のコール音の後、日向ちゃんのお母さんが電話に出た。
「あ、もしもし、玲奈ですけど」
『あら、玲奈ちゃんどうしたの?』
「日向ちゃんは帰ってきてますか? もし良かったら遊びたいなって思いまして」
『日向なら帰ってきてるわよ。ちょっとまってね』
と言うと、受話器越しに日向ちゃんを呼ぶ声と子供特有の高い声が聞こえてきた。
『もしもし、れいなおねえちゃんですか?』
電話ごしに嬉しそうな声が聞こえてくる。
その声は、鈴を転がすような音色で私の耳をくすぐる。眼福なら耳福だ。
「っは。えっと日向ちゃん、これから遊びに行っても良いかな?」
うっとりと聞いて居たが、すぐに我に返り要件を伝える。
日向ちゃんのエンジェルボイスに危うくトリップ仕掛けた。アブナイアブナイ。
『ほんと!? やったぁ! それじゃあ、ひなたのお家でまってますね』
と嬉しそうに返事をもらったので背負っぱなしだったランドセルを置いて、気持ち的には瞬間移動をするぐらいの速さで隣の家へと向かった。
唸れ、私の瞬足!
こうして、私は日向ちゃんとの逢瀬を順調に重ねていった。