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ラブレター

 小学校の卒業を控えて、周りの女子達は好きな男の子に告白をするしないで盛り上がっていた。
 その中には、男の若くて格好良い先生なども候補に上がっていたが、私には関係のない話だ。

 自分の恋心が、普通ではないのは十分理解している。
 むしろ異常だ。
 私も日向ちゃんに告白を?
 いやいや、告白してどうなる。相手はまだ小学生にも満たないから恋なんて分からないだろうし、何より分かったとしても気持ち悪いと思われるのがオチだろう。


 “あれ?私、詰んでるよね”


 周りがワイワイとやっている中で、今更な事実に1人絶望している私。
 というか、なんでそれに気がつかなかったのだろう……。恋は、人を盲目にすとは言うけど、このことか。
 今のところ、好かれているとは思う。でも、きっとそれは恋愛の好きではないだろう。


 “はぁ……どうしようか”


 心の中で溜息を吐いて、未だにガールズトークに花を咲かせるクラスメイトを横目にしながら考える。
 とりあえずは、今ある幸せを噛み締めておこうと。



 そんなことを思っていた矢先、帰りのショートホームルームが終わり下駄箱に着けば見知らぬ手紙が入っていた。
 横長の白い便せんに入ったソレ。
 汚れの付いてない真っ白なソレを手にして立ち尽くしていると、一緒に昇降口まで来た友達が不審に思い近づいて、私の手元を見下ろした。


 「ねぇ玲奈ちゃん、どうしたの……って、それラブレター!?」


 やはり彼女の目から見ても、ラブレターに見えるようだ。
 黄色い悲鳴を上げている友人に断りを入れて、人目のつかないように近くのトイレの個室へ入り、封筒から手紙を取り出した。


 【高木 玲奈さんへ
 突然のお手紙でおどろかれたと思いますが、僕の気持ちを伝えたくて贈らせていただきます。
 ずっと前から好きでした。良ければ僕と付き合ってください。
 明日の放課後、校舎裏の焼却炉前で待ってます。そこでお返事をください。

 鈴木 |勝谷《しょうや》より】


 やべぇよ、マジモンのラブレターだよ。


 「はぁぁぁぁぁ……」


 あまりの事に溜息しか出てこない。
 鈴木勝谷といえば、クラスメイトの女子達が優しくて運動も得意で格好良いと噂していた男子の1人だ。
 とりあえず、手紙を戻してポケットの中へしまい込み、昇降口で待っているであろう友人の元へ。


 「ねぇねぇ! やっぱりラブレターだった? 流石玲奈ちゃんだよね、こう大人の魅力みたいなのがあるからラブレターの1つや2つ貰っても不思議じゃないよね」

 「いやいや、そんなことないよ」


 と、はしゃぐ友人をいなしながらトボトボと帰宅。
 暗い気分の所為で体が重たく感じる。
 ようやく休める、そう思って自分の部屋に入り机の上にランドセルを置てベットに飛び込もうとした瞬間、家のインターホンが鳴った。
 今は買い物に出かけていると書置きを残して居ない母の代わりに、私が出ないくてはいけない。


 「まったく誰よ……」


 愚痴りながらも、玄関の方へ行き扉を開ける。
 心なしか、扉が何時もよりも重たい。
 

 「はいはい、どちらさまぁ~~~」

 ガチャッ

 「れいなおねえちゃん!」


 と、開けた瞬間小さい何かが足に抱きついてきた。
 いや、この声とか、匂いとか、感触とかで誰かは直ぐに分かったけど!


 “あぁ~~~抱きつかれているだけで、疲れきった心と体が癒されるぅぅぅ!”


 先程までの重たい気分は何処へやら。
 流石マイエンジェル、癒し効果バッチリだ。


 「どうしたの、日向ちゃん?」


 足に抱きついたままのキューティクルな|旋毛《つむじ》に話しかける。
 すると、ようやく日向ちゃんは顔をあげてくれた。


 「お家から、れいなおねえちゃんが帰ってくるのが見えので、遊びに来ちゃいました。ダメでした?」


 と少し不安そうに首をかしげる。
 そんな不安に揺れる表情も可愛らしい。


 「そんな事ないよ! 来てくれて嬉しい。ささ、上がって」


 意気揚々と日向ちゃんを連れてリビングへ行くが、遊ぶものが無い、さて困った。
 突然の訪問だったので、何も考えていない。
 とりあえず日向ちゃんを先にソファーに座らせて、冷蔵庫からオレンジジュースを取り出し2人分用意して持っていく。


 「オレンジジュースをどうぞ」

 「ありがとうございます♪」


 うんうん、礼儀正しくてホント良い子だよ。
 こうやって、ちょこんと座りながら両手でコップを持って、ちびちびと飲む姿は見ているだけでご飯3杯行けるね!
 私も学校帰りだったこともあり、喉が渇いていたのでオレンジジュースを口にする。
 やっぱり、果汁100%に限るね。カラダに染みる。


 「れいなおねえちゃん、これなんですか?」


 日向ちゃんから目を離してジュースを味わっていたら、いつの間にか小さい手がラブレターを握っていた。
 え、いつの間に!?


 「ごほっごほっごほっ」


 突然のことに、ジュースが気管に入ったゲッホゲッホ。
 よりにもよって、一番見られたくない人物に見つかってしまった。
 別に見られたからといって何かがある訳ではない、これは気持ちの問題なのだ。


 「だいじょうぶですか!?」


 そう言って、日向ちゃんは隣に座っている私に密着して、手を精一杯伸ばして背中を一生懸命に撫でてくれた。
 あぁこのままナデナデされ続けたい……じゃない!


 「あ、ありがとう日向ちゃん。 えっと、それはどうしたのかな?」

 「これですか? さっき、れいなおねえちゃんが座った時に、スカートのポケットから落ちました」


 くそう、このラブレターめ。
 どこまでも厄介な存在らしい。
 ここで嘘を付くのは簡単だ。しかし惚れた弱みなのか、日向ちゃんには嘘を付きたくないという思いが強く、どうしたものかと悩んでしまう。


 「ん~~~~?」


 と首を傾げて答えを待っている姿は可愛らしく、どんなお願い事でも全てを叶えてあげたくなってしまう程の破壊力!
 だから私は、降参して素直に本当のことを言う。


 「それはねぇ……ラブレターって言うんだけど、分かるかな?」

 「ひなた知ってます! スキな人にきもちをつたえるために書くお手紙なんですよね。……もしかして、れいなおねえちゃんが誰かに渡すために書いたお手紙なんですか?」


 少し不安そうにして聞いてくる日向ちゃん。
 どうしてだろう?


 「違うよ。これはね、私が今日貰った物なの。私このことが好きですって書いてあったんだよ」


 不安そうな顔を見た所為で、ついつい聞かれていもいない事まで答えてしまった。


 「好き? ひなたも、れいなおねえちゃんや、お母さんやお父さんがダイスキです!」

 「ん~~~とねぇ。そう言う好きじゃなくて……」


 なんと言えばいいのだろう、幼女に対してどう説明すればいいのやら。
 私自身も、そこまで経験がある訳ではないでハッキリとは言えないが、とりあえずは自分の経験を元に伝えてみよう。
 

 「こう、その人のことを思うと胸がドキドキして、ふとした時にその人の事を思い浮かべてしまったりして、ずっと一緒に居たいと思えて、一緒に居ると胸の中がポカポカと温かい気持ちになったりする様な、そんな感じの気持ちでね、それを恋っていうの」

 「ドキドキ……ポカポカ……」


 自分でも、どう伝えれば良いのか試行錯誤しながら伝えたが、うまく伝わっただろうか。
 私の話をきいて、自分の胸に手を当てて難しい顔をして考え込む日向ちゃん。
 そんな姿が愛らしくて、頭に手を乗せて優しく撫でてしまう。すると、難しく悩んでいた顔が一瞬で嬉しそうに目を細めて笑顔になる。


 「嫌じゃない?」

 「う~うん、れいなおねえちゃんにナデナデされるの気持ちがいいです。なんだか、胸がポカポカします」

 「そっか」


 そうして、沢山ナデナデして十分に堪能させて貰ってから手を離すと、日向ちゃんがこう切り出してきた。


 「れいなおねえちゃんは、そのお手紙に返事をするのですか?」

 「うん、するよ。しないと相手に失礼だからね」

 「もしかして……その人のことがすきなんですか?」


 と嬉しそうだった顔から、悲しそうな顔になってしまう日向ちゃんに慌てて答える。


 「違う違う違う! お断りするんだよ。全然好きでもなんでもないからね。私は日向ちゃんの方がずーーーと好きだよ」


 そう言って私は、日向ちゃんを膝の上に乗せて抱きしめる。私の思いが、少しでも伝わればいいなと思って。
 私の好きが伝わるとは思えないし、バレてしまったら気持ち悪がられるかもしれないが、今ぐらいはいいよね?

 嫌がられないことをいい事に、愛しの人の髪の良い香りや体温を感じながら抱きしめ続ける。
 そしていつしか、そのまま気持ちよくなってしまい、2人してお母さんが帰ってくるまでソファーで寝てしまうのであった。

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