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第十六話

家では一般の馬女子であればメイドになるが、男子大悟は何をすべきか当惑していた。
 リビングで、青いジャージ姿の大悟は、立ったままソファーにかけた白いワンピースの楡浬に目を向ける。

「オレはいったいどうしたらいい。」

「そんなこと、アタシも知らないわよ。あんたがその矮小な大脳を擦り切れてしまうぐらい駆使して、アタシに提案しなさいよ。アタシは考えなきゃいけないことがあるから、馬らしくしなさいよ。」

「家ではお兄ちゃんはあたしの馬だよ!」

「ちげーだろ。少なくとも人間扱いしてたじゃないか。」

「本音では人間扱いしてなかったよ。犬猫だよ。」

「馬より退化してるじゃないか。とにかくウチでは神様に従うのが人間界のキマリだろ。さあ命令してくれ。」
「じゃあ、アタシの嫁になりなさい。」

大悟家における空気の流れが停止して、電気も止まった。
数分後、停電復活作業が完了し、大悟が真面目な表情で楡浬を見た。

「意味がさっぱりわからないぞ。」

「なによ。人間界では奴隷のことを嫁って呼ぶんじゃないの?」

「それはないとも言えないが、むしろ二次元では嫁と呼んでいるオタク自体が奴隷と化しているケースが多いな。」

「うんうん。お兄ちゃんは妹オタクだから、モモの奴隷にしてやってもいいよ。」

「だれが妹オタクだ!」

「お兄ちゃんはモモの奴隷オタクなんだから、嫁という称号を授けちゅうよ。これからはお兄嫁ちゃん、略して、オヨメちゃんと呼ぶよ!」

「兄という尊属漢字が削除されてるぞ!」
こうして、大悟は一気にふたりの嫁になった。重婚は民法、刑法で禁止される重罪である。


「名前がないと不便だから、アタシのことは、神を付けない方が堅苦しくないから、楡浬様でいいわ。」

「はあ。自分の呼称に様を付けるのは、たいてい悪役で最後は正義の味方に倒されるんだけどなあ。」

「何か言ったかしら。よく聞こえなかったんだけど。」

「いえ。タダの暴言なので無視してくれ。」

「丁寧語を使えないし、人間は口のききかたを知らないから、進化する前からの遺伝情報インプットが必要ね。あんたのことは、馬嫁(ばか)でいいわね。乱暴な妹は蛮婦(ばんぷ)ね。ふたり合わせて馬嫁蛮婦よ。」

「最高にバカにされたような気がするよ。オヨメちゃん、これでいいの?」

「言い得て妙なのかなあ?不思議だが、頭に来ることがないんだよな。」

「オヨメちゃん、しっかりしてよ!」

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