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これからの課題

――――だ、だるい……。

 地面に伏せて倒れる僕はその言葉しか出ない。
 突然襲った脱力感。
 気怠い体に力が入らず、地面に草に鼻を燻られむずい。

 そんな倒れる僕に、カチャカチャと鎧の音を鳴らしてホロウさんが近寄り。

「やっぱり、颯太さんの今の体力では、上級魔法一発が限界ですか。これは想定の範囲内ですね」

 ホロウさんは僕が倒れた事に狼狽せず淡々と口にする。
 僕のこれの原因が分かっているようだ。

「ホ、ホロウさん……これは、いったい……?」

 口だけ動かせた僕が力のない声で訊ねると、ホロウさんが屈んで答える。

「魔法発動に必要なのは魔力だけにあらず。魔法発動にもそれ相応な体力も消費されます。これも魔法の難易度が上がるにつれて多くなりますが。今の颯太さんを見た所、上級魔法は1発。中級魔法も3、4発程度でしょう。魔法はただ魔力を持つだけでは意味がないのです」

 僕ってどんだけ体力がないのだろう……。
 いや、それだけ魔法を扱うのが難しいってポジティブに捉えた方がいいのか。

「つまり……僕に、魔法を使いたいんだったら体力作りをしろって言いたいのですか……?」

「まあ、それもありますね。上級魔法1発で倒れられても困りますから。後、確かに初めてで魔法を使用出来た颯太さんに脱帽しますが。やはり初めてだからか、発動できても、結果は正直雑の一言です」

 褒められたかと思ったら辛辣な評価を投げかけられ泣きたい。
 そんな僕を他所に。
 ホロウさんは僕が隆起させた岩壁の方へと手を翳し。

「『グランド・クリエイション』!」

 ホロウさんが僕と同じ魔法を発動させると、ゴゴゴッと振動が発生する。
 僕よりも野太く芯まで響くし響きを鳴らし。
 僕が隆起させた岩壁の真後ろに、倍以上高く岩壁をドガァァンと隆起させる。
 それを見て僕は、ポカンと唖然する。

「属性の適性がない魔法を扱う場合。制限がかかって威力は落ちてしまいます。ですが、土魔法だけがその制限が掛かり難く。全て魔法使用者に委ねられます。同じ魔法を使用しても、その人のイメージ力や魔力に練り方によって威力も目に見て分かります」

 確かに僕とホロウさんが同じ魔法を使用しても、僕達の実力の差は一目瞭然だ。

 ホロウさんは僕達が隆起させた岩壁をコンコンと叩き、岩壁を瓦解させる。
 ツッコむ元気もないから流すけど、普通なら『え、なに? すごっ!』って驚く場面だからね。
 しかも瓦解させた岩は土へと化して地面へと雪崩れる。

 そんな僕の驚くリアクションがなかったことに不服だったのか、少しガッカリした空気を滲ますホロウさんは。

「これは何度も言ってますが。先ほどはこの魔法は簡単な魔法だと言いましたが。それでもやはり上級魔法で。それ相応な難易度を誇ります。普通であれば発動させるだけでも難しいんですが、颯太さんは初心者なのにそれを発動出来た。十分誇れる結果だと思います。今後一緒に精進しましょう」

「精進って……どれぐらいすれば、普通に上級魔法を扱える様になりますか」

 僕の聞き返しに、ホロウさんは顎に手を当てる様なジェスチャーをして。

「そうですね……。毎朝早朝20キロとか、ですかね? 後、基礎体力を鍛える為に、アスリート選手以上のトレーニングを」

 ………………。

「…………くかぁ……」

「あぁ! なに寝たフリをして聞かなかったことにしているのですか!? 起きてください颯太さん! 私は颯太さんに立派な側近になってほしくて言ってるのですよ! あっ、顔も逸らして!? 起きてください!」

 ゆさゆさと寝る僕を起こそうとするホロウさん。
 すると少し遠くから眠たげな声を聞こえてくる。

「ふわぁ~。もう、朝からうるさいよ……。近所迷惑ってのを考えてほしいよ」

 目を擦りながら、欠伸する口を手で塞ぎ、僕達が響かす騒音に文句を言う女性。
 寝巻着こんだ寝起きの。僕の彼女で、僕達の上司でもある魔王、三森真奈ちゃんがそこにいた。

「魔王様、おはようございます。申し訳ございません。うるさくして起こしてしまったでしょうか……」

「おはようホロウ。ううん。私が起きたのは別にうるさいとかじゃないよ。体の魔力が吸い取られた感じで、なんかムズムズしてね。もしかしたら颯ちゃんが私の魔力を使ったのかなって思って来てみたんだ」

 ついでに僕達が今いる庭園は魔王城の一階で、真奈ちゃんの自室は地上300メートルはある五階にあるから。この程度の騒音が聞こえるはずがないのだが。
 真奈ちゃんが起きた理由は、僕が真奈ちゃんの魔力を使って魔法を発動させた時に感じる違和感によるものらしい。

「ごめん真奈ちゃん。真奈ちゃんの言う通り魔力をいたっ! え? なんで殴るんですかホロウさん!?」

「さっきまで寝たフリをしていた颯太さんが少し調子よすぎやしませんか?」

 スミマセン……。
 と、僕がホロウさんに怒られている中。
 真奈ちゃんが少しジトッとした目で僕達を見ており、コホンとホロウさんが咳払いを入れて。

「申し訳ございません、魔王様。颯太さんが魔法を使えるといきり立っていましたので、折角だからわたくしが魔法を教えていたのです。それで魔王様。驚く事に颯太さんは一発目で魔法を扱えました。しかも上級魔法をです」

「え、ホントに?」

 真奈ちゃんが驚いた表情で僕の方へと顔を向け、僕は恥ずかしく顔を逸らす。
 
「まさか颯ちゃんがね……。一朝一夕で出来るなんて思わなかったけど。どんな魔法を使えたの?」

「土魔法の『グランド・クリエイション』です」

「あぁー。あの簡単な魔法ね。けど、それでも十分凄いけどね。なら颯ちゃん。私にも見せてくれるかな?」

 真奈ちゃんに投げられるが、僕は無言で地面に顔を伏せた。
 ん、どうしたの? と真奈ちゃんが言うと、ホロウさんが。

「魔王様。申し上げにくいのですが。今の颯太さんに、もう一度上級魔法を撃つことはできません」

「え、なんで?」

 訝し気に首を傾げる真奈ちゃんがチラッと僕を見て。

「そう言えば、さっきから颯ちゃんは地面に寝ているけど、もしかして……」

 大体予想が出来たのか、苦笑いを浮かばす真奈ちゃんに、ホロウさんが鎧を頷かせ。

「今の颯太さんには、魔法を自由自在に扱える程の体力は持ち合わせていません。先ほど一回上級魔法を撃ってから、暫く動けないでしょう」

「そうか……。本当にまだ動けないの?」

「んんー。少し休んだから立つぐらいには、っと」

 よろよろした足取りで立ち上がり、服の付いた土を払う。
 まさか魔法一回使うだけでこれだけ体力が奪われるなんて思わなかった。
 パンパンと服を叩き土を払った僕は、改めて真奈ちゃんを見ると。

 ……………………。

「ねえ、颯ちゃん。私の恰好を見てなんで露骨に目を逸らすのかな? その理由を言ってほしんだけど」

「イタタタタッ! ごめ、ごめん! 言うから、言うからそんな肩を強く握らないで!」

 僕は現在の真奈ちゃんの寝巻姿を見て、思わず目を逸らしてしまった。
 それは彼女の可愛らしい寝巻を見たからではなく、なんか見てはいけない物を見てしまったかの様な動きだった。
 強く握られた肩を解放された僕は、肩を摩り口を開く。

「えっと、真奈ちゃんのそのパジャマ………………………すごく似合ってるよ?」

「まず言いたのがまた目を逸らしてるし。そしてなんか謎の間があったよね? なぜか最後は疑問符浮かべてるしで、そんなにおかしいかな!? ねえ、ねえそんな顔を逸らさないで答えてよ!」

 真奈ちゃんの今着ている寝巻は、パジャマだ。
 パジャマは子供特有の物でもなく、大人も着る全年齢対象の寝巻だ。
 パジャマを着る事自体可笑しい事ではない。
 僕が言いたのは、真奈ちゃんが着ている服のデザインをしてる。

 前に僕は魔界の服屋で真奈ちゃんと一緒に服を買いに行ったことがある。
 その時にも真奈ちゃんのセンスが少しズレている点を見つけていたけど。
 あらためて見ると少し犯罪っぽい気がする。


 ピンク一色の生地に、白色の水玉模様を浮かばせ、フリルをひらひらと揺らす服で。
 キッズ用とも思えるデザインの服に不釣り合いに強調する胸などで、さっきも言ったけど、なんか見てはいけない物を見た様な罪悪感に苛まれる。
 色気皆無で年頃の女性としてどうなのかなーと思ってしまう。

「ねえホロウ! 私の服って普通だよね? 全然おかしい所はないよね!?」

「……………………」

 無言で顔を逸らすホロウさん。
 それは否定と捉えるが妥当であるだろう。
 凄く申し訳なさそうに顔を逸らすホロウさんの心情が読み取れる。

「やっぱり今度の魔界規定改正会で本気で魔界の服装を呼びかけようかな……」

 と不吉な言葉をぶつぶつと零す真奈ちゃんを他所に。 
 
「そう言えば、今日は学校があるんだった。僕は三日も学校を休んでいたらしいけど……親とかに連絡来てないよね……」

 昨晩の内に真奈ちゃんが休むって学校に連絡を送っていたらしいけど。
 不穏に感じて親とかに連絡入れてない事を祈ろう。
 流石の親も、泊まり込みのバイト(正確に言えば違うけど)を認めたとはいえ、学校をサボる事は許さないだろう。
 それに、僕と一緒に真奈ちゃんも休んでいたらしいから。
 学校では色々と噂を流れているだろうな……。

 なんか学校行きたいくないなーと、一抹の不安を感じながら、僕は支度をするために自室に戻った。

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