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第四話

ひと騒ぎした福禄寿たちは馬女子に乗ったままで教室に入った。教室の最前列の真ん中と左右に馬は並んだが、机には椅子はなかった。馬女子たちは腰を落として跪いて、ゆっくりと福禄寿たちを椅子に座ったままの状態をキープして、机の後ろに降ろした。すると、馬女子たちは椅子を引いて机の外に出し、中腰となり空気椅子のポーズを取った。しかし、空気椅子は生物オン状態である。足はけいれんを起こしたかのようにブルブルと震えている。必死に福禄寿たちの重量に耐えているのである。

黒板に向かって、左から福禄寿、大黒天、寿老人の順番で並んだ。その時、いかにも重たそうな大黒天の馬女子椅子の靴が床を軋ませた。

「ご苦労様どすけど、ウチの小さなからだを重く見せた罪は軽くないどす!バシッ!」
大黒天の大きな手のひらが馬女子の頬を打った。いったん閉じていた傷口がパックリと開き、ペイントしたての消防車のボディー色になった。馬女子は苦悶の表情で失血を抑えていた。

「ダイコクちゃん。ちょっと厳し過ぎるよぉ。些細なことで馬を指導してたら、馬が生きることを忘れちゃうよぉ。」

「そうじゃ。馬をいたわることが大事じゃぞ。悲しげな顔を見るのは忍びがたいのじゃ。神も仏もないとか思われたら大変じゃ。」

「ウチが悪いんどす、悪いんどす!バシッ、バシッ。」
謝りながら、福禄寿の馬女子を打った大黒天。馬女子はその場にもんどり打って倒れた。

「あ~あ。また壊しちゃったぁ。これで何台目かなぁ。ダイコクちゃん。ひどいよぉ。馬は消耗品なんだからねぇ。弁償してよぉ。お代はこれだよぉ。ハグ剥ぐ。超キモチいい~。」

福禄寿は大黒天の超巨乳にむしゃぶりつき、さらにブレザーのボタンを外して、白いブラの上から小さな顔を沈めた。

「うひゃあ。おふくちゃん、セクハラマックスどす。乙女のおろしたて純潔シーツがシワになっていくどす。これじゃ、寿お婆ちゃんになってしまうどす!」

「こら、どさくさに紛れて失礼なことを言うでないわ。このババのシーツにはシワ、シミ、汚れ何一つついておらんわ。いつもきれいな介護用の紙・神おむつじゃからの・・・。って、全然違うわ!それにしても、どうして、福禄寿はこのババにはセクハラしてくれんのじゃ。悲しいぞ。」

「コトブキちゃんが、あと1歳若かったら、おふくのストライクゾーンに入ってきたんだけどねぇ。」

「歳の差は永遠に解決できんのじゃ。神の力をもってしても、時を遡ることは不可能なんじゃ。」

 騒いでいる三人の様子をじっと見ていた大悟。窓側の一番後ろの席で、頬杖をついて、ひたすら溜息を繰り返しており、過呼吸症候群の予備校生と化している。

「オレはこのシーンをずっと見ているけど、何かが引っかかるんだよな。でもそれが何かはわからない。」

『カッ、カッ、カッ。』
 妙齢の女子であることを証明するハイヒールの音。女教師がチャイム音と共に大悟たちのいる一年生の教室に入ってきた。ホームルームの時間である。

『ガラガラガラ』という生徒の緊張感をひどく高めるドアの開閉音はしない。保存用のコミックを引き出しの中に収納するオタクのように、静かにドアを開いて入室するピンクのタイトスーツを着ているグラマラスな女教師。膝上40センチの激しく短いミニスカートからこれ見よがしに絶対領域をアピールしている。ピンクの長い髪と同色のメガネがセクシーフェロモンをふんだんに振り撒いている。多感な青少年には刺激が強過ぎて、保健室送りが続出するところであるが、この教室に男子はひとりしか存在しないことが不幸中の幸いである。女教師はニコニコしながらも目は憤怒の炎で燃えていた。

「起立、礼。」
学校ではごく当たり前の掛け声は生徒からではなく、女教師が自分で発した言葉である。もちろん、福禄寿たちやそれ以外の金色ブレザー生徒に向かってである。馬椅子女子たちも女教師に合わせて、難しい姿勢から会釈をしていた。

教壇から見える風景では、生徒たちはきちんと並んでいる。椅子女子たちは後ろの席に座っている者の邪魔にならぬよう、頭を垂れている。この姿勢では黒板の字は視界の外になるが、それが日常なのか、視線を動かす馬椅子女子はいない。それよりも滴り落ちる汗が座主にこぼれぬように集中しているように見える。無論、空気椅子としての下半身の踏ん張り前提である。

 教卓に着いて、出席簿タブレット画面を覗く女教師。
「それでは出席を取ります。1番から5番までの出席番号の生徒は来てるので、省略。仮に来てなくても省略。7番から30番も省略。では大本命6番の宇佐鬼君。来てますね?」
 ミニスカ教師は教壇に立つと、目からビームのような視線を最後尾席の大悟に送ったうえで、大きく足を開いた。

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