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日記帳

「……はぁ……。ホント、魔界に来てから話題に事欠かさないよ……。これからやっていけるのかな……」

 仕事云々の前に、魔族との付き合い方に不安を感じる僕は、料理が載ったお盆を手に、魔王城の廊下を歩いていた。
 僕の昼食はホロウさんが暴れた事で地面に散乱してしまって昼飯抜きとなり。
 魔王である真奈ちゃんは特別だからと、クラークさんが至急新しい食事を用意して、僕に持って行くように手渡してくれた。が、その時のクラークさんの目が怒りの籠った冷ややかな目をしていた……。
 今回の僕は悪くないのに……。
 まぁ……ホロウさんが暴れる原因となる虚言を吐いた|元凶《キョウ》は、ホロウさんに折檻されてたからいい気味だ。

 階段を上り、長い廊下を歩いた僕は目的地の扉の前で立ち止まる。
 真奈ちゃんの部屋は、自室兼仕事場でもあるらしく、今、真奈ちゃんは自部屋にいるらしい。
 
 一呼吸入れた僕は、少し緊張しながらコンコンと扉をノックする。

「真奈ちゃん。お昼ご飯食べてないでしょ、持って来たけど食べる?」

 扉越しに声をかけるが返答がなかった。

「……あれ? いないのかな? ……それとも疲れて昼寝をしているとか……?」

 まさか、ね……。
 あの真面目な真奈ちゃんが仕事をほっぽり出して昼寝にしゃれ込むって事は……しないよね?

 学校と魔界での真奈ちゃんの性格には相違する部分が見られる。
 学校では真面目な真奈ちゃんでも、魔界ではどうなのか僕には分からない。

 恐る恐ると扉を開けて中を確認すると、

「……いない」

 僕が魔界に辿り着いた初めての部屋である真奈ちゃんの自室には、誰もいなかった。
 外出中なのかな? と失礼ながらそのまま部屋へと入り中を見渡す。
 だけどやはり、部屋には誰もいない。
 
 学校の教室二つ分ほどの広さで、入り口から左に向って、数々の書籍が片付けられてる本棚が壁に沿ってL字まで並べられ、次に壷や皿などの骨董品が飾られるショーケースが置かれ、バルコニーの窓を挟んで、次に真奈ちゃんの仕事机が置かれ、次に貴族などが寝る屋根付きベット、次に服などが収納されているクローゼットが設置された部屋。
 ぬいぐるみの一つもなく、女の子っぽい要素が見られない高貴な部屋だ。

「よくよく考えれば、女子の部屋に入るのって、真奈ちゃんの部屋が初めてだな……」

 女っ気がなくとも女子の部屋には変わりない。
 この歳まで女性と遊んだ経験のない童貞な僕。
 そんな情けない事を口にしながら、赤い絨毯で覆う床を歩き仕事机に近づく。

「うーん……真奈ちゃんは外出中らしいし、いつ帰って来るかも分からないから、|食事《これ》どうするかな……。持って帰ったとして真奈ちゃんがお腹を空かしてたら忍びないし……。書置きで書いて、食事は置いておくか」

 そう言って僕は整理整頓された仕事机に料理の載ったお盆を置く。
 真奈ちゃんは仕事はキッチリ終わらしているのか、机の上に仕事が溜まっている様子が見受けられない。
 
「えっと、何かメモになる様な物はないかなっと……」
 
 僕はブックスタンドから適当にメモ用紙になる紙を探さして、収納されている内の一冊のA4サイズのノートを手に取る。
 適当なページを破ってメモ代わりにしようと、躊躇いもなく、この時の僕は彼女のノートの中身を見る事に、本当にデリカシーがないと後々に悔いる。が、ノートを開いて、直ぐに閉じた。

「えっと……これって、もしかして日記?」

 中身は少ししか見えなかったが、日記らしき文面が確認出来た。
 
「……これって見ちゃいけないやつだよね……? 人の日記って……」

 内容までは把握できなかったとしても、日記を開いた罪悪感で手を震えさせ、僕は日記帳をブックスタンドに片付け……ようとしたのだが、寸でのところで止まる。

「……少しぐらい、いいかな?」

 真奈ちゃんの書き記した日記に少し興味が芽生えた僕は、もう一度日記を開こうと、

「いやいや! やっぱり駄目だよね! 人の日記を見るなんて最低な奴がする行為だよ!」

 まったくと自嘲しながらノートを……

「けど……やっぱり気になるッ!」

 自分でも思う程に煮え切らない態度の僕。
 見る、見ないで頭の中で葛藤しながら、髪を掻き乱して、

「人の日記を見る行為は最低だ……けど、真奈ちゃんがいつも何を思ってノートに書き記したのか気になる……もしかしたら僕の事を書いてるかもしれない……。影で真奈ちゃんが僕の事をどう思っているのか、知れるなら知りたい……けど」

 一人問答する僕は、息を上げながら最終的には見る事に決め、

「ごめん真奈ちゃん! 人はやっぱり己の内に秘める好奇心には勝てない様だ! 後で謝るから、日記の内容見させてもらうよ! 南無三!」

 葛藤した末に日記帳を勢いよく開いた僕。
 日記の内容に目を通して、内容が頭の中で流れこんだ時、僕は大きく目を見開き、言葉を失う。
 少しの間だけだったが息をするのも忘れ、酸素不足に陥った。頬を伝う冷や汗。揺れる瞳。

 僕は―――――パンドラの箱を開けたかの様に、見た事を……後悔した。

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