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第3話  言語スキル

 この世界に転生して1週間が経った。

 言葉を話すことで経験値が得られる俺は、一人の時も極力声を出していこうと思ったのだが、ここへ来てある問題点が浮上した。

 母さんがとんでもなく心配性だったのだ。

 初日に調子乗って独り言を続けていたら村の診療所に連れて行かれて「悪魔に憑りつかれているかもしれない!」と青ざめた顔で医者の胸倉をつかんでいた。

 これ以上心労を増やすわけにもいかないので、極力母さんには聞こえない音量で囁くように声を出す。そんなわけで、レベルの上昇速度は日に日に減少していった。

 ちなみに現状のステータスはこんな感じ。



【フォルト・ガードナー】  種族・人間  レベル6

 HP 18    +7
 MP 14    +6

 攻撃   10  +4
 防御   8   +3  
 敏捷   8   +3
 運    12  +5

 

 1週間で上昇したレベルは3か。
 次にスキルについて。


 スキル①【交渉術レベル3】
      レベル解放 ……【嘘看破補正C】

 スキル②【言語調整レベル6】
      レベル解放 ……【スライム族◎】
      レベル解放 ……【リザードマン◎】

 スキル③【対話能力レベル6】
      レベル解放 ……【同年齢同性会話補正C】
      レベル解放 ……【同年齢異性会話補正C】
 
 スキル④【言霊吸収レベル1】


 レベルが上がったことで、いくつか新しく解放された追加効果が発生している。中でも便利なのが【嘘看破補正C】だ。
 これについてはすでに実証済み。
 2日前、仕事終わりに酔っ払って帰って来た父さんが、母さんに「どこのお店に行ったの?」と聞かれて咄嗟に「と、トッドの店だよ」と答えていたが、こっそり発動させていた俺の【嘘看破補正】が働き、頭の中に「ビー、ビー」とアラーム音が鳴り響いた。

 後日、母さんがいない時に父さんが隣の家のスタークさんって人と「こないだ嫁に女の子のいる店に行ったことがバレるところだった」とコソコソ話していた。
どうやら、実際はこのスタークさんって人と王都にある飲み屋(俺のいた世界でいうキャバクラみたいな感じの店らしい)に行っていたらしい。ちなみにこのスタークさんも新婚で子どもが生まれたばかりらしい。何やってんだ。

 あと、母さんは知っていてあえて咎めなかっただけだからな。お隣のスタークさんもたぶん奥さんにバレてるぞ。円満な家庭生活を築くためにも、二人の父親には火遊びもほどほどにしてもらいたい。

 家庭事情はさておいて、この【嘘看破補正】はなんとも便利なスキルだと感心したが、実は結構使い勝手が悪かったりする。というのも、「この情報が嘘かどうか知りたい」という事態になっても、その話題について向こうから切り出してくれなければ真意を判定することができないのだ。


 さらに気になるのが【言霊吸収】のレベルがまったく上がらないこと。
 言葉=経験値を可能とした夢のスキル。このスキルのレベル解放で得られる追加効果が非常に楽しみだ。

 そんなこんなで、俺はこの世界での赤ん坊ライフを楽しみつつ、レベリングに励む毎日を送っている。
最初は楽だと思ったレベリングだけど、意味もなく声を出すっていうのもそれはそれで難しいんだよな。友だちでもいれば違うんだろうけど――と、思っていたら、

「ライアン! コニー! 遊びに来たぜ!」

 父さんをキャバクラに誘ったお隣のスタークおじさんが唐突に来訪。
 ちなみにライアンは父さんの名前でコニーは母さんの名前だ。

「随分と急だな、スターク」
「実は今日、レベッカがいなくて、うちの子の世話を任されたんだが……どうにも不慣れで参っちまってな」
「あら、レベッカさんどこか悪いの?」
「いやいや、そんな深刻な話じゃないんだ。ちょっと最近頭痛がするっていうんで薬をもらいに言ったんだ」

 父さんたちと世間話をしつつ、スタークさんは俺のベビーベッドに抱えていた我が子をゆっくりと下ろす。

「ほらアイリ、お隣さんのフォルトだぞ~。仲良くしろよ~」

 スタークさんの娘――アイリ。
 ライトブルーの髪に翡翠色のパッチリとした瞳。まだ赤ちゃんだけど、きっと成長したら凄い美人になるなっていうスペックを秘めた子だ。

 この前チラッと奥さんを見たけど、母さんに負けない凄い美人だったもんな。親父さんの方はイケメンというよりうちの父さんと同じ強面系なので母親に似て本当によかったな、と他人事ながら思う。

「…………」

 アイリは落ち着きなく周囲を見回している。慣れない空間にいきなり一人きりで放り出されるなんて大人でもきついのに、まだ赤ちゃんのアイリには厳しい環境だろう。

「あ、あうぅ……」

 あ、やべ。
 翡翠色の瞳に涙がじんわりと溜まっていく。
 このままじゃ大声で泣き出すぞ。
 俺はなんとか落ち着かせようとアイリに話しかける。

「あうあう? (大丈夫?)」
「うあぁ……」

 とりあえず話しかけてみる。
 アイリの双眸は揺らぐことなく俺を見据える。うぅ……スキルがあるとはいえ、まだ人と目を見て話すのはどうにも慣れない――て、赤ちゃん相手に何言ってんだ、俺は。

「あうぅあぁあぁ。あいあぁうぅ(ここは僕の家だよ。何も怖くないよ)」
「ああ……(ママ……)」

 どうやらママが恋しいらしい。

「あううあ(心配ないよ)」

 俺にママの代わりはできないけど、できる限りのことでアイリを慰めてあげようと思った。その結果、俺は優しくアイリの頭を撫でることに。
 中身は16歳でも、外見は赤ん坊なんだから意味ないと思うけど、今の俺にはなんとかしてこの子に安心感を得てほしいと必死だった。……きっとかつての俺だったら思っていても行動にすることはなかっただろう。これも対人関係スキルのレベルが上がったからなのか?

「あわ~……」

 頭を撫でられたアイリは目を細めてご機嫌に。よかった。なんとか窮地は脱したようだ。

「おい見てみろよ。フォルトがアイリをあやしているぞ」
「まあ、なんて素晴らしい光景かしら……」
「はっはっはっ! こりゃアイリの嫁ぎ先は決定したも同然だな!」

 大人たちは好き勝手に言ってやがる。しかし、
 
「あい! あい!」

 俺が頭を撫でてからというもの、アイリはやたらと俺にベタベタと引っ付くようになってしまった。え? まさか君も乗り気なの? 生後数ヶ月で早くもモテ期が来たのか!? ――なんてバカなこと考えている場合じゃないな。俺はさっきと違うベクトルでアイリに落ち着くよう話しかけていたら、


《スキル【言霊吸収】のレベルが1上がりました》
《スキル【言霊吸収】のフラグ解放が実施されました。取得できる経験値が2倍になります》


「あぶばっ!?(マジでっ!?))」

 なぜかこれまで一度として上がらなかった【言霊吸収】のレベルが上がり、追加効果も同時に得られた。

 気になったのは解放された条件にある【フラグ】という文字。
 つまり、【言霊吸収】のレベル上げには経験値以外にも必要な要素があるってことか。だからこれまでレベルが上がらなかったのか。ややこしいけど、それに見合った報酬はあるようだ。取得経験値2倍っていうのはありがたいな。喋る量がこれまでの半分で済むし。
 
 今後の参考にするため、今回の解放フラグの詳細をステータスからチェックしてみると、


 
【解放フラグ】――異性から好意を寄せられる。


「…………」

 異性からの好意か……これって、家族愛じゃなくて恋愛の方だよな、きっと。そしてその好意を向けて来そうな人物に心当たりは一人しかいない。

「あー♪」

 今も俺の腕にしがみつき、頭をグリグリと押しつけてくるアイリだ。
 いやいや、頭撫でただけだぞ? チョロ過ぎるだろ!

「今から孫の名前を考えておくか?」
「気が早いわよ♪」

 そういう割には満更でもなさそうな顔の母さん。というか、気が早いにも程がある。
 
「あいあー♪」

 アイリはまったく離れる気配がないし……まあ、機嫌が直ったってことでよしとするか。
 スキルやレベルについて新情報を得ることに成功したが、俺の将来が周囲の人々によって固められつつあることに一抹の不安を抱くのだった。

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