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2人は祈りし、悠久の伴侶

ハーレムってなんだろう。
そう思った。 別に変態野郎なわけではなく、ましてや中学生のような性欲の猿みたいなやつでもない。
俺は無欲な訳では無いし、むしろ怠惰だの色欲だのに駆られるタイプだ。
別に賢者タイムなのではない。
勇者にクリムとミカエが取られてしまったくらいで、おちこんではいられないよね。







「やーんもう……」

日本男児らしくない声を上げてしまった。
それは、トウゲンの国に勇者が訪れた時の事だ。








「チョーかっこよくない?」

俺のチョイスでツインテールにしたミカエの茶髪が踊るように揺れる。

「ですよね……」

美しい銀髪を何もせずに垂れ流しているクリムの色素のない白い目が生気を取り戻したように輝く。
またこれか。

「やぁやぁ諸君。活躍は聞いているよ」

「どうも」

素っ気なく返事をする。

「何かあったのかい?」

「そりゃもう、色々ありすぎて毒素でも投げつけたいくらいに」

かなりの本音だ。
嫉妬って嫌なもんだ。

「そうかい」

勇者は聞いてきたくせにどうでも良さそうに返事をする。
すると。

「どうしたんだいそこの勇者のお供のお供のお嬢さん2人とも。僕をマジマジとみて」

「あ、いえ! なんでもないです」

「そうかい……そういえば今日、僕の家でパーティやるけど、来る?僕のお供のお供って聞くし」

「「行きます!!」」








こうしてウキウキしながら2人はどこかへ行ってしまった。

「君も来る?」

「いえ」

少し殺意のこもった声で言った。












これ以来、彼女達が俺の仲間として戻ってくることはなくなった。

そう、永遠に。











カンゲンが大統領選挙をやっている頃。

異世界生活24日目。

ついに帰ってきました、前いた街。

「ここね……」

「ここに勇者様が……」

クリムとミカエは勇者に完全洗脳されてしまっているらしく、勇者の言うことなら何でも聞くっぽい。



クリムとミカエを勇者の屋敷まで送り、次に向かったのは、郵便局であった。


「あ、結羅さん。おかえりなさい」

「……お慈悲」

「はい?」

「お慈悲を下さい」

ついついそんなよく分からないことを失言してしまう。
この10日間、とてつもない日々を過ごしていた。

目の前で人が死んで。死んで。

絶望して。







そして。

クリムとミカエが、勇者の仲間となってしまったから。


俺の仲間という時点で勇者の仲間となっていることは確かなのだが、そうじゃない。
側室、と言った方がいいのだろうか。それになってしまった。

アベルは大統領選挙に出馬すると言っていたが、今は勇者が圧倒的な票を集めている。

「そうですね……手も、少し鉄の匂いがしますし」

もう夜でミントは仕事を終えているのだが、ミントは俺の手を掴んで、嗅いだ。
何のマニアックプレイでしょうか。そう思った。するとミントは呆れたように笑った。

「強欲さを捨てて、仲間をあちらの国に置いて行ったみたいですね」

「まぁ……」

そういう事だ。

「人も、殺したみたいですね」

そういう事だ。

「私と同じです。」











え。

ミントが、人を殺めた?

「私は戦災孤児です。生きるためなら何でもしてきましたから」

「そうか……」

ミントは近くのソファに座る。
俺はそのソファの反対側のソファに座った。


「その仲間達はどうして、仲間をぬけたんですか?」

「一応まだ抜けてはないんだけど……」

ほぼ抜けたも同然か。

俺が帰ると言った時、あの2人は残ると明言していた。
異世界生活はハーレムだと相場は決まっているのに。

「まぁ、勇者に」

「なるほど」

ミントはそれきり黙ってしまった。


しばしの沈黙の後、ミントは聞いた。

「……辛いですか?」

「……まぁ、それなりには」

「正直に言って、いいんですよ。私はあなたの失言や愚痴はノートに書いて時々見返す位しかしていません」

「なんだよお前は」





「まぁ、辛いよね」

俺は数秒の沈黙の後、言った。

「せっかく、ひとりじゃないと思ったのに。自分の心にポッカリと空いたパーツの一つを埋めてくれる人が見つかったと思ったのに」

「パーツ、ですか……」

俺がミントの方を向くと、ミントは髪の毛で顔を隠していた。

いつものツインテールを解いて。

俺がミントの方を見ていると。

「うびゃ」

「どぉぉぉぉぉ!?」

顔が髪で隠れたまま勢いよくこちらを向いた。ビビって転倒する。

「何をまじまじと。」

「だって顔隠してたし」

俺とミントはまた定位置に戻る。

ミントは髪を結び直した。今度はサイドテールである。

2回も、3回も髪を結び直す。すると。

「私が、あなたの心にポッカリと空いたパーツの一つを埋めることはできますか」








あぁ。
どうして俺はミントに好意を抱いていたのか。その理由がわかった。

ミントは、アイツに似ているんだ。
雪風春海ゆきかぜはるなに。




「それは……できない」

「そう、ですか……」

ミントは俯く。

「ミントは、違う、って意味」

「え?」

ミントは顔を上げる。

「何が違うんですか?」

「察して」

「嫌ですよ」

察せないのか。

「察して」

「嫌です」

「お願い」

「自分の口から言ってください」

「うぅ……」

こんなことは言ったことがないのだ。
基本春海が言っていたし。

「好き……かな」

「かなって何ですか。ていうか、こっち向いて言ってくださいよ」

「もういいだろ……」

俯く。
春海は毎回こんな思いをしていたのかな。

「私も、同じだよ」

初めてタメ口で。

俺の瞳を見つめて言った。

ミントはその後俯き、

「私もこういうの初めてなんで、少し恥ずかしいんですから……」

と言った。

「俺もだけどね……」

「まさか童貞ですか」

「……はい」

春海は行為に及ぶことは20歳まで御法度、と言っていたのでそのような機会は無かった。

「……付き合っても、良いですか」

ミントは俺に背を向けて言う。

「……うん」

「じゃあ、そっちに行ってもいいですか」

「……うん」

ミントはこちらへ足早に近づく。
俺が席を開けると、


「いいです」

と言って、俺の膝に座った。

「ちょっ」

「にひひ」

ミントははにかんで、俺の身体を背もたれにした。

「じゃあ、私の身に何かあったら、助けてくださいよ」

「当たり前だよなぁ」

するとミントは安堵したように、俺の膝で寝てしまったのであった────

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