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強欲は離せし、奴隷との糸

「追いかけるよ!」

ミカエはその子を追いかけ始める。俺達も追いかけるも、ミカエのスピードは尋常じゃなく、先に言ってしまった。

が。

「ここだよ! 捕まえた!」

「君達も王国軍か……ここまでか」

とりあえず人の気がしない家の中に入って王国軍らしいものを振り切ってから事情聴取といった。

「待って下さい。私達はあなたの敵ではありません」

クリムが背中に掛けてある3丁の火縄銃と弓矢をアベルの方へ送る。
それにつられ俺達も武器になりうるものをアベルの元へ渡した。俺は手袋なのだが、バレないのでそのままにしておく。と。

「結羅さん。手袋も」

クリムめ。











「……という訳で」

「なるほど……それで、その小包は?」

ミカエがバッグからその小包をアベルの元へ渡す。
ただそれだけの動作なのに。一つ一つの動作に命がかかっているほど空気が重かった。

「これは……父さんのだ」

「あなたの父さんらしき商館の管理人さんに渡されました」

俺が補足を入れる。

小包の中には鉄、木材がぎっしり入っていた。
小包の上にはなにやら手紙が置いてあった。それをアベルが読むと、

「僕と協力できそうだね。どうしてこんな資材を入れたのかは謎だけど」



















「そう。僕は革命軍最後の1人。<アベル・デススカイ>だ」


革命とは。

国を変えたりするために民衆が立ち上がったりして王を殺したりクーデターをおこしたりするやつだ。

「この国でも酷い専制政治のせいで革命が起こったんだけど、生憎僕以外は全員死滅さ」

アベルがおとぼけのような、まるで何も気にしていないかのような口調でそう言った。
そんな正確なのか、それとも。

「君たちも、この国で革命じみたことを起こしてやりたいことがあるんだね?」

「うん。私達は勇者様の依頼でこの国を平和にするよう命令が出ている」

ミカエが胸を張った。まだあったことも無いくせに。あのクソ勇者にあったらどんな顔をするのかが少し見物だ。

「勇者……あの<レイテ>の?」

「えっ……と、そこどこですか?」

「商館まで直通の馬車が出ているところ」

「そこそこ」

俺が町の名前を知らないのが少し恥ずかしい。
アベルは立ち上がって、その空き家の家探しを始めた。 しばらくすると、アベルは年間カレンダーを持ってきた。

「今日は5月1日。ここから3カ月後の8月7日に建国記念日でお祭り騒ぎとなる」

「……その時どうするんですか?」

アベルはペンで8月7日にペンでバツ印をつけ、そのペンで俺たちを指したのだった。

「王、及びその側近であり事実上政治を動かしている<アイルレイン>の殺害だ」















「「「殺害……」」」

俺達は口々に呟いた。
俺達はもう商館で殺人は犯している。
けど、やはりその響きを聞くと後ろめたいものを感じる。
人は殺したけど、これ以上殺したくない、というのが少なくともの俺の考えだが。

けど。

この国を変えるまで俺は帰れないんだ。
ミントに会えなくなる時間が増えるんだ。
あの朝、シャルルの名前をつけた時のあの笑顔が見れなくなってしまう。

やるしかない。
やる以外、道はないのだ。

「──やろう」

「交渉成立だ」

アベルと握手を交わした。
ミントの笑顔をもう1度見たい、そんな小さな願いを叶えるために──




「2人は……もう自由になっていいよ。この戦いは危険だ」

アベルが家を出た後、俺は2人にそう言い放った。

「えっ……?」

こんな危ない戦いにこいつらを巻き込みたくない。
元は奴隷だったんだ。自由を望んでいるはず。俺に縛られているのも嫌だろう。
仲間だ。俺の物だ。俺の物は俺の自由だ。

「……何言ってるんだよ」

ミカエが呆れたような顔で俺の方を見る。クリムは泣き目になっている。

「私は<買われた>んだ。いつまでもついていくのが奴隷の基本だ」

「じゃあその奴隷の地位を俺が剥奪する。お前達は平民。自由だ」

「じゃあ、平民なら自由な選択ができるんだよね?」

ミカエの目が潤っている。

「まぁ、そういうことだ」

「じゃあ、ついていかせてよぉ……」

ミカエはついに泣き出してしまった。

「ちょ……どうして泣くのさ……」

「寂しいこと言うからだろ!?」

泣きじゃくったままミカエが怒鳴った。

「どうしてそんな事言うんですか……私達はあなたに買われて……奴隷らしい生活を送らなければならないのに……こんなに恵まれているんです……そんなあなたに応えなければいけません……」

クリムが口を開いた。

「応えなくていい! お前達は1人のドワーフとして、エルフとして、普通に生活してくれればいいんだよ! 過去の記憶なんて忘れて、血なまぐさい記憶も忘れて、普通に生活してくれればいいんだよ!」

「なんでなんだ! どうせ私は奴隷なんだよ! いいんだよ私達なんて!」

「良くないから言ってるんだろ!」

なんでこいつらには話が通じないんだよ。思わず怒鳴ってしまった。

「お前達が大切だから……小さい頃に奴隷としてひどいことされたのに、乱暴されたのに平然としていられるお前達を見ると守りたくなって……だから、死んで欲しくないから」

「守りたいのなら、私達を直に守ってよぉ……遠まわしな守り方じゃなくて、私の近くで守って……」

そう言ってミカエは泣き崩れてしまった。

それが。
望みなのか。
縛られているのではなくて、望みなのか。


「私は、意地でもついていきます。あなたが賛成しなくても」

クリムは真っ直ぐな目をこちらに向けた。
そんな目をされたら断れない。

しかし、泣き崩れてしまったミカエをどうしようか。クリムは泣き止んでいるのだが。

かなり躊躇ったが。というか人生初の試みではないのだがとても躊躇ったのだが。

ミカエを抱きしめてみた。


「っ!」

ミカエの体が少しビクッとなるのが見えた。

「ごめん……そんなにだとは知らなくて。付いてきてくれる?」

「うん」

ミカエは俺の服で涙を拭き、俺の胸の、いや腹の中にうずくまって呟いた。

「もう……あんなこと言わないでよ」

「うん。ありがとう。お前達は……俺が守る」

だって、俺を学力とか能力とか、そういった基準で判断したのではない。
俺を人間として好感を持ってくれた、ただ2人の存在なのだから──
その頃、<コーラル>にて。

「今頃どうしてるんですかね」

ミントがそう独り言を言うと、同僚の<ラムネ>はそれを聞き逃さなかった。

「なになに、恋煩い? いいねぇ~」

「わっ、ち、違いますよ!」

ミントは焦りなのか、驚いたのか分からないが慌ててそう言った。

「それにあの人はきっと仲間を見つけてるはずです。そうやって仲間とワイワイやってるのを私は見ているだけでいいんです。付き合いたいとか、そういったのじゃないです」

「やっぱり恋煩いだ~」

「あっ、違いますってば!」

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