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16話 じゃあ皆で入れば恥ずかしくない。

「ねえ、おにいちゃん? なんか、その子もう落ち着いてない?」

 桜の指摘に友は、目を丸くする。
 確かに、友にしがみつく少女は落ち着いているように見えた。

「むしろ、甘えているような」

 桜の声が僅かに尖る。
 少女は友の腹部にしがみついている状態から、友の腹部に頬ずりするかのようだった。
 確かに、怯えた様子は微塵もない。

「うーん?」

 友は首を僅かに傾げ、ルフィーを見る。
 しばし考え込んだルフィーは、桜からシャワーヘッドを奪う。
 そして友に向けて腕を伸ばした。

「ん」

「……おう」

 シャワーヘッドを握った友は、少女に視線を戻す。
 少女はきょとんと友を見ていた。

 怯えの色はやはり見られない。
 友は一度上を向いて、思案した後、ルフィーを見る。
 ルフィーも額に手を当て、悩んだ様子を見せつつもシャワーの根元に移動していた。

「ユウ。よくわかんないけど、試してみましょうか」

「そうだな」

 ルフィーがレバーハンドルを握るのを見て、友は少女に語りかける。

「今からお湯をかけるけど、大丈夫?」

 少女は、こくりと頷いた。
 友はルフィーに視線で合図をする。
 ルフィーがレバーを捻ると、ヘッドからお湯が出た。

「背中に、かけるよー」

 友は自分の服が濡れるのも構わず、少女の背中にお湯をかける。
 そして少女の反応を見守る。
 少女は、一瞬反応した。
 それは怯えによる物ではなく、くすぐったかったのように身を僅かによじらせる物だった。

「……平気そうだな」

「そうね……。サクラ、あんた冷水でもかけたの?」

「そんなことないよ! ちゃんとぬるま湯だったし! そのお湯と同じ温度だもん」

 ルフィーの疑問に、桜が否定をしているが、少なくとも少女は平然としている。
 今の様子に説明がつかない。
 桜の言葉が真実だとしても、理解が遠のくだけだった。

「まあ、いいか。とりあえず、何でもないようだし……」

 問題がないならば、浴室内にこれ以上居たくはない、友は切に思っていた。
 全裸の桜が居る空間は、精神衛生上非常に宜しくない。
 視界に入らないようにし続けたが、限界だった。

「じゃあ、俺は居間に戻ってるから」

 友は疲れたように言うと、未だにしがみつく少女の腕を身体から解こうとした。
 だが、少女の手は友の服を離そうとしない。
 友を見上げる少女の顔が、困った表情へと変わっていた。

「ど、どうしたの?」

 友は訊ねてみたが、少女は眉をひそめるだけだった。
 返答代わりに、友の服を掴む手の力が強くなる。
 宥めようと少女の頭を撫でても、友がこの場から離れることを良しとしていないことが伝わった。

(どないせいと言うのだ)

 自然と頬が引き攣る。
 友は困惑を隠すことを放棄して、狼狽しながらルフィーに助けを求める。
 ルフィーは腕を組んで難しそうな顔をしていた。
 そして、風の王は口を開く。

「ユウ、あんたその子を洗いなさい」

「はあっ!?」

 友は大声を上げ、驚きと否定を同時に伝えた。
 しかし裁定を下したルフィーは肩を竦める。

「だって。その様子だとあんたが離れたら、想像つくでしょ?」

 桜がお湯をかけたときは、大きな悲鳴が上がった。
 友の場合は、何も起きなかった。
 そして友がこの場から離れることを嫌がっている。
 仮に友が制止を振り切り、風呂場を後にすれば、再び水に怯え始めるのではないかだろうか。

「だ、だからと言ってだな……」

「そ、そうだよ! こんな可愛い子を洗うとかダメだよ!」

「……うん?」

「きっと肌に優しくとかいって、素手で洗うはずだよ! ダメだよ!?」

「……あの、桜? しないよ? 俺を普段なんだと思ってんの?」

「あ、あんなの桜以外にしちゃ、ダメだよ!!」

「落ち着けや!? あとルフィー!? てめえも引いてんじゃねえ!? 信じんなや!?」

 口を押えて、ゲスを見るような視線を始めたルフィーに、友は声を荒げた。
 桜がエキサイトしているが、見ないようにする。

 そもそも桜の発言内容が気になったが、何を心配しているのかは友もわかっていた。
 友は思春期真っ盛りの中学生だ。
 女の子と風呂に入るのは、如何せんハードルが高い。
 大きく年が離れていれば、まだ可能だろう。

 しかし少女は、ほんの僅かに年下くらいだった。
 努めて気にしないようにしていたが、改めて眺めて思う。
 少女の体型は想像していたよりも発育が良い。

(すでにレベル2とは……!?)

 異国の血がなせる業か、性徴が日本人のそれとは違うようだ。
 ましてや、かなりの美少女であり。
 直視しがたい。それが友の結論だった。

「さすがに、いくら俺でもしんどい!」

「かと言って、どうすんの? 汚れたままで過ごさせるの?」

「ぐ……」

「あんたが居れば、その子は何ともない。なら、もうそれしかないじゃない」

「い、いや。でも」

 ひたすら浴室からの脱出を諦めない友だった。
 友の様子にルフィーが苛立ち混じりの吐息を漏らす。

「わかったわよ。じゃあ折衷案」

 ルフィーが右手を挙げる。
 友は何だろうと視線を向けた。

 ルフィーは指を鳴らす。
 浴室内に大きく響いた。
 同時に、ルフィーの服が消失する。

「皆で、お風呂に入りましょう」

「待てやあああ!」

 腰に手を当て、胸を張り宣言したルフィーに、友は叫びで応える。

「なぜ、そうなる?」

「その子はユウが居ないと風呂に入れない。ユウは恥ずかしい。なら皆で入れば、ね?」

「どう繋がるんだよ……」

 友はがっくりと首を項垂れるが、周りの雰囲気が変化したと気付く。
 少女は安堵の表情を浮かべていた。

 逃亡は許されないと把握する。
 友はちらりと桜に視線を向ける。
 少女の身体を、友が洗うことについて何も変わっていないはずだ。

 しかし桜は嬉しそうな顔を友に向けて、笑っている。
 共に風呂に入ることを喜んでいるのだろうか。

(勘弁してくれよ……)

 再度、肩を落とした友は、この場から逃げ切ることができないと悟った。
 友は溜息を吐くと、諦めてシャツを脱ぎ始めた。

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