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女性

「ここか。」

俺は写真の女の家の前で立ち止まった。

アパートの階段を上がった2階の端の部屋だった。

今は仕事で家を空けているらしい。

郵便受けには、これでもかと言うほど手紙やらチラシが詰め込まれていた。

俺はアパートを後にし、彼女が働くカフェに向かうことにした。

店に入り窓側の席に座る。

彼女がオーダーを取りに来た。

「いらっしゃいませ。ご注文は」

「アイスコーヒーのグランデを一つ。」

「承知しました。」

彼女は少し微笑み奥へと戻っていく。

エプロンの胸元にアルファベットで「TAKANO」と刺繍され

ていた。

これで一先ず名前と住所は手に入った。

さてどうやって彼女に取り入るか。

考えていると、先ほど頼んだアイスコーヒーが出てきた。

持ってきたのは彼女だったので、俺は少し話しかけた。

「あのタカノさんでよろしいですか。」

彼女は少し驚いた表情で俺を見た。

「はい、そうですがなんでしょうか。」

「いえ少しあなたにお話がございまして。私こういうもので

 す。」

そう言い俺は名刺を渡した。

「田嶋和弘さん。会社員の方ですか。」

もちろん嘘だ。

本名は垣堂だ。

と言ってもこの名前自体偽名なのだが。

「えぇまあ、あなたにお話と言うのは個人的なことでして。」

「なんでしょう。」

「私はあなたの秘密を知っています。」

彼女はポカンと口を開け固まった。

そりゃそうだ。初対面の相手からこんなことを言われたら驚くこ

とこのうえない。

「いきなりでしたね、すみません。」

彼女はかなり警戒していたが、俺の話に興味を持っているのは確

かだった。

俺はあえて遠慮気味に申し訳なさそうに続けた。

「まだタカノさんはお仕事があるしょうし、もしよろしければこ

 こに来て頂けないでしょうか。詳しいお話はそこで。」

彼女は少し考え悩んだ末に「わかりました。」と返事をした。

午後7時30分、俺は彼女と約束した場所である喫茶店でコー

ヒーを飲んでいた。

彼女は「少し遅れてくる」と言っていたが、俺への警戒心の表れ

だろう。

だが彼女は必ずここに来る。

午後7時55分、彼女が店内に入ってきた。

俺は席から立ち彼女の方へ、右手を上げて合図した。

彼女は小走りで向かってきた。

「すみません。思いのほか仕事が押してしまって。」

「いえいえ、こちらから来てほしいとお願いしているのでお気に

 なさらず。」

俺は彼女の分の飲み物とコーヒーの追加を注文した。

「それでは早速本題に入りましょう。私はあなたの秘密を知って 
 います。」

彼女の顔が強張る。

「あなたはある組織から資料を盗み出し、それを消去しようとし

 ているとか。」

「それを・・誰から・・・。」

「あなたは今ものすごく危険な状況におかれています。そこで私

 があなたをお守りましょう。」

「どいうことですか。私を守るっていったい・・」

彼女の動揺と戸惑いが伝わってくる。

「私を疑い、不安になるのは承知の上です。ですがあなたを今お 
 守りできるのは私だけです。」

「なぜ私を守ってくれるんですか。安全である証拠は。あなたを 
 信用できる根拠は。」

彼女の口から次々と俺に対する疑念があふれ出す。

「もちろん根拠も証拠も理由もあります。」

彼女は口を閉じた。

「まず理由ですが、あなたが資料を盗んだ組織が私の敵であるこ

と。

次に証拠ですが、私の身元を知る人は3人だけであること。

最後に根拠ですが、私はこの道のプロです。警察はもちろん国の

目も掻い潜れるということです。」

「あなたはいったい・・」

「私は何でも屋です。頼まれたことを即座に処理し、困っている

 人を助ける。それだけです。」

俺は虚実を織り交ぜつつ彼女の心に踏み込んだ。

これで彼女は絶対「YES」と答える。

なぜって。

俺が詐欺師だからさ。

続く

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