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ボッチ、勘違いされる


「───では、本当に剣を探してくれるというのか!?」

「はい。といっても自分は伝説の剣に触れてみたい気持ちが強いので......」

 あの後、王はリーエルの説教を五分くらい正座で受けた後、再度駿達に「あんなことしてはなんだが......この世界のためにも探してはくれぬだろうか?」と懇願したところ、皆良い顔はしなかったが、駿は快諾したため、一人では行かせられないと全員参加となった。

「この際どんな理由でも構わぬっ......ぐすっ......改めて感謝を......」

「あ、あぁ! 泣かないでください......大丈夫ですから! 本当に!」

 すっかり王の慰め役になっていることに、駿はすこし切ない気持ちになった。

はぁ......老人じゃなくて......美少女を慰めたいんだよなぁ

 と、王の背中を擦りながら溜め息をついた。

「「「(はぁ......近藤(君)も大変だよな)」」」

 その光景を見ている皆も溜め息をつき、同情した目で駿をみつめたが伽凛は違った。

「もうっ......(ブツ)」

 誰にも聞こえないような微かな声でそう発すると同時に───

なんで王さまばかり近藤君に背中を擦られてるのっ......! 毎日のように接している私でもまだされたことないのにっ!

 ───と、駿に慰めてもらっている王に嫉妬し、心のなかで文句を言っていた。

「とにかくもう謝罪は良いですから、こちらとしてはこの世界についてと探し物である伝説の剣について詳しく説明してくれませんと、旅も満足に出来ません」

 駿がそういった瞬間、下げていた顔をガバッと上げた。

「わ、分かった!」

 姿勢を正して玉座に戻り

「ほん......」

と、咳払いした王は、説明を始め

「「まずこの世界では───」」

「───って、リーエル!!」

 王はわざと声を重ねてきたリーエルに叫喚をあげるがリーエルは澄ました顔でそれを無視して、説明を続行する。 

「───二つの勢力に分かれています。一つは共存派で主に『魔王軍』を倒そうと同盟を組んでいる国、十カ国がそうです。共存派はその言葉通り、皆で共に栄えていこうという意思を持つ国々の勢力の事を指します。そして支配派。この勢力は主に『魔王軍』がそうです。支配派は、この世界を一つの国としてまとめるという思想で、簡単にいえばこの世界には、王が一人居ればいいということです。今現在、共存派とその支配派が戦争状態で、最前線はウンディーネの住まう北の国、『スイルヴェーン王国』となっています。現在は交戦中とのことで、先程連絡を受けました」

 リーエルからずさんな態度をとられ、その場でまた泣き崩れている王に皆から同情の目と苦笑を受けるが、リーエルはそれでも聞いていると信じて、話を続けた。

「戦況は五分五分のようですが、先程シュンさんが質問された伝説の剣が敵に一つでも渡ると、戦況は軽々と覆されます。今はまだ一本しか居所を掴めてませんが、残り六本もそのうち見つかってしまいます。そして質問の返答としては『伝説の七剣』の七種類の名前しか分かっていませんが、『円卓の光騎士剣・エクスカリバー』、『聖霊の雄剣・グラディウス』、『烈火の炎剣・アグノメイサー』、『永凍の氷剣・レイノシス』、『生命樹の碧剣・ユグリシス』、『煉獄の闇騎士剣・カイザー』、そして最後に『覇王の龍剣・エルキュロス』という、この七つの剣が『伝説の七剣』の七つの種類名です。シュンさん達には、この七つの剣を集めてきてほしいのです」

 説明を聞いていた者達(特に男子たち)は、その凄そうな剣の名前を聞いて心を踊らせていた。

 これからそれらを見つけに行くことに、大いに期待を膨らませる。

なるほど......説明を聞くかぎりでは俺がやっているRPGのジャンルと同じだな......でも旅の目的は魔王を倒すことではなく、『伝説の七剣』を見つけることが目的。まぁどっち道、『魔王軍』もそれを狙っているわけだし、必然的に衝突はするんだろうけど......よし、大体のことは理解できた。

「リーエル王女殿下、長い説明ありがとうございました」

 駿は頭の中で整理を一通りしたあと、説明してくれたリーエルに頭を下げて、お礼を言った。

「いえ! あなた方に私ができるのはこれ程のことしかないので......あと───」

「あと?」

 リーエルは何故か駿の耳元に口を持っていき、こう呟いた

「え......」

「───そんな堅苦しい呼び方はお止めてください......私的には......呼び捨てで呼んでくれても構いませんのよ......?」

 と、妖潤な声が、駿の耳の中に響き渡り、頭を震わせた。

「っあ......!?」

 その声に顔を真っ赤にしてたじろくそんな駿に、リーエルは「くすっ......」と笑いながら、耳からゆっくりと口を離した。

「「「......!?」」」

 その光景を見ていた皆が驚愕した。

「おいまさか近藤ってリーエル王女と......」「峯崎さんという人がありながら......?」「近藤君って確かに顔は童顔で良いけど......たらしだったの?」「近藤......おまえやるじゃねぇか!」

ヤバイ......勘違いされてる......

 駿はヒソヒソ話をしているクラスメイト達を見てさらに挙動不審になる。

「駿......俺はお前の気持ちが分かる心配すんな!」

 と、優真はにやつきながら肘でこつこつと駿を押している。

「いや全然分かってないからね!?」

そそ、そうだ! 気配りができる峯崎さんなら......!

 駿は伽凛の方を助けを求めようと向いたが

「............................................................」

「へ?」

 しかし、そこには静かにおぞましい怒気を冷気のように放つ伽凛が立っていた。

......!?

 駿は何故伽凛が怒ってるのかが理解できず、ただ理由がなくていきなり怒気を放つ伽凛にむしろ畏怖をした。

 どうしてこうなった......いや、これは完全にリーエル姫が発端だけど......仲良くなったつもりはないんだけどな......だって追われてるとき───




────数十分前


「はぁ......! はぁ......! くそ! 何故に俺が追われなくちゃならないんだよ!?」

 と、駿は愚痴を吐きながら騎士たちに追われ、城内を逃げ回っていると

「お、そこ開いてるな..................しめたっ!」

 少しだけ開いている扉を発見し、中に人がいることも考えたが、スタミナ切れを起こしている駿にとってはなりふり構ってはいられなかった。

 扉を最小限に開き、部屋に体を滑り込ませ、また扉を閉める。

「......!」

 なるべく音は出したくないのか、口で呼吸を整えたいが、口に手を当てて、鼻息で呼吸を整える。
時間はかかるが、安全策をとる。

ふぅ......ここで少し休もう

 駿は扉に耳を当てて、廊下の音をなるべく拾うように、全神経を注ぐ。

捕まったら死ぬ......

 その死への恐怖が駿の今もっとも体を動かしている原動力となっている。

誰にも見つかるな......誰にも見つかるな......

 駿はそう願いながら、息を潜めた。

しかし

「───誰?」

誰も居ないと思っていたこの部屋に、自分とは明らかにちがう声が後ろから聞こえた。
 
「え......」

 その声が響いた瞬間、駿はあの騎士たちが装備していた長剣がインプットされる。

 そして、その長剣に自分の血がたらりと垂れる予知をしたあと、駿は思わず縮こまり、同時に心から何かが溢れ出す。

「止めてくださいっ......殺さないでくださいっ......止めてください......」

 駿は自然と涙が溢れ出してくることに気づいたが、この際生きれれば構わないと必死に願った。例え恥かいたとしても、生きれれば構わないと必死に懇願した。

「ぁ......」

 そんな駿を見た誰かが、驚いたような声を発した。

「止めてください、止めてください......殺さないでっ......お願ぃ、します......」

 いつまでたっても自分にかけてこないことが逆に怖かった。

 だから駿は怖くて、反応してほしくて、必死に嘆いた。

「殺さな、ぃでっ......ください......殺さな───えっ」

 顔を上げるのが怖く、腕で膝を抱えるような姿勢で、誰かも分からなかったが、その人が最初に見せた反応は

 ぎゅっ

誰かが......俺を抱擁して、頭を優しく撫でてくれてる......?

「────大丈夫、大丈夫......大丈夫です」

 その透き通るような優しい声に、駿は今まで恐怖しかなかった心が、ほぐされていく。

「大丈夫ですから......誰も貴方みたいな素敵な人を殺すわけないです......」

 そしてほぐされていった心が、温かいものとなって、身体中に循環するのが実感できた。

「大丈夫です......大丈夫ですから......顔を上げて、私に顔を見せてください......」

「......」

 駿は言われるがままに、顔を上げて、声主の顔を見つめた。

あ......

 その人は、微笑んだ。

「ね? 簡単だったでしょう......?」

「......ぁ」

「貴方の名前はなんでしょうか......?」

 駿は瞠目しながら無意識に名乗った。

「............近藤、駿......です......」 

 そして、駿はまた無意識で「あなたの......名前は」と、その人の名前を聞いた。

「私はここ『グランベル王国』第一王女の───」

 その人はこう名乗った。







「───リーエル・ヴァン・グランベル......リーエルとお呼びください」







 ────そのあと、確か俺は何故あんなに追い詰められていたのか聞かれて、淡々と答えた後、「いきましょう」って言われてその部屋の暖炉の隠し通路からまたあそこに戻ったんだっけ......

 駿はリーエルの部屋じゃなかったらどうなっていただろうという疑問を考えるのが怖くてすぐ取り消した。

にしても結構な醜態晒したなぁ......しかも一国の第一王女で超可憐な女の子にとか......マジで恥ずかしいいいいいぃっ!!

 駿は顔を赤くなるのを隠すように、両手で顔を覆う。

......これまでを辿ってきても俺と王女殿下の距離がここまで縮まる理由が見当たらかったぞ......ていうかほとんど俺の「殺さないで」っていう命乞いしか無かったぞ......? こんな情けない男の友達なんかになりたくないでしょ......でもさ......だとしてもさ......さっきのあのエロい声は何だったんだよぉおお! 思わず勘違いしそうになったじゃねえか......王女はこれからミステリアスレディーと言おう。なんかかっこいいし

 一旦深呼吸する。

「でもまずは......」

この勘違いの連鎖をどうにか止めなくては......


 そう、皆は混乱している。何故会って間もない筈の一国の王女と、駿が顔をあんなにも近づけていたということに。

 現に男子からは嫉妬と、怒り、困惑の思っている人、合わせて半数で、「お前やるな」という何故か納得している人が半数で、女子からは困惑と怒り、女たらしと思っている人合わせて半数、そして「あの近藤くんがねぇ......」と、にやついて何故か納得している人が半数な状況だ。

 玉座の周りの大臣達や、武官も驚愕した顔で駿に注目している。

 優真も「お前やるな」軍団に入っており、伽凛に至っては周りからみたらもはや意味不明の怒りを放っているのか、畏怖の対象になっている。

 恐らく、皆は勘違いしている。

だから、駿は勘違いを正すために、口を開いた。

「皆───」

「───皆さん......何か勘違いをなされているようですが、私はただシュンさんをからかっただけで、決してシュンさんは私とそういう関係は結んではおりませんよ?」

「「「......え?」」」

 と、数秒間の静寂に包まれる。

相変わらず、自分を責めて泣き崩れている王一人を置いて、全員が呆然とした。

............

......


「「「なん~だ!?」」」

 そして数秒間の静寂は終わり、皆が安堵や、つまんないような口調でざわざわと一斉に駄弁りあった。

「やっぱり近藤じゃ無理だったか~」「まぁ近藤だし」「近藤君って......やっぱり近藤君だよね~?」「うん! 近藤君は近藤君だよ!」「近藤ってかっこいいところあるけど、恋に関しては安心できるよな? ある意味」「それな! ある意味では安心できる」

 そんな似たような話が展開される中、駿はまだ呆然としていた。

「..................一応、なんとかなった......のか?」

「シュンさん」

「あ、王女殿下」

「だから堅苦しいです! その呼び方!」

 そんな駿に頬を膨らませる。

「あ、じゃじゃあ何とお呼びすれば......」

「リーエルと」

「え、えと......リーエルさん」

「リーエルと!」

「り、リーエルさん!」

「ですからリーエルと!」

「リーエルさん!」

「呼び捨てでいいのですぅ!」

「いえ、流石にそこまでは勘弁を......」

「......分かりました......」

 リーエルは不満ながらも、ぎこちなく頷いた。

「ありがとうございます......」

 駿は丁寧に礼を表し、姿勢を戻すのを見計らい、リーエルは切り出す。

「シュンさん」

「はい、リーエルさん」

「さっきの私が発言したことで......そういう関係を結んではいませんと言いましたが、その真意は......今のところ、という風に解釈してくださいね」

えっ......

「えぇ!?」

「では♪」

 と、リーエルは驚く駿を置いてけぼりにし、早々に自分の部屋に帰っていってしまった。

「お......おお!?」

 驚きすぎて奇声を出してしまったが、周りはまだ駿の話題に持ちきりだったために、幸い誰にも聞こえなかった。

今のところ......今のところって..................うそやろ?

 余りのことが連鎖反応のように続く今日に、もう耐えきれなくなった駿は半場放心していた。

「───近藤君」

が、その見覚えがありすぎる声に駿は一瞬で放心状態から帰還を果たし、直ぐ様声のする方向へ振り向いた。

「は、はい! なんでしょう! 峯崎さん!」

 駿は伽凛自ら話しかけてきてくれたことに、内心大喜びした。

「あの王女様と......その......どういう関係なのかなーって聞きたいんだけど......」

 伽凛は顔を何故か赤らめて、もじもじしながら聞いてきたので駿はそんな伽凛を「あ......ヤバイ。可愛い......」と、思いながら本心で返答する。

「あ、あの王女様とは全然関係を築いた訳じゃないんだけど......あっちからむしろ話しかけてくるって感じで、俺は特に何もっていったら嘘になるけど、王女様とは友達関係......? なのかな」

「じゃ、じゃあ本当に......ほんとうにっ! 何もないんだね!?」

「う、うん。友達?」

そう聞いた瞬間、伽凛は安心したように大きく息を吐いた。

「峯崎さん?」

「あ、あぁ! いや、その..................またね!」


「え......?」


 また、伽凛はリーエルと同じように、早々に今度は呆然とする駿を置いてけぼりにして、友達の方へ行ってしまった。
 

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