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野菜いため

紫色に輝く茄子の表面に、ピーラーで縦に飾りの白を描く。このあと茄子様は輪切りにしてボールに張った水につけてアクぬきだ。
 緑色はピーマン。適当に小さくなりすぎない程度にざっくりと。
 お肉は極薄切りの豚ロース。バラでも良いのだけれど今日は少し気分がヘルシー寄りなのだ。
 パックから出したあと、料理酒をうりゃっとかけてほぐしておく程度で下準備は完了。これだけでも肉の臭みは随分と減るし、ついでに最低限の塩が入る。
 次は味付け。私の場合、鍋を火にかけてから調味料をあれこれしていると、だいたい火の通しすぎになるし味も濃くなってしまう。だから、あらかじめ使う調味料を全部混ぜて味を作っておく方がいい。
 今日の味付けのメインはポン酢。小鉢に適当に出したそれに昆布だしのパウダーを少々。甘みはみりんでちょっと足し、お酢ですっぱさも少しだけ追加。我ながらテキトーすぎると思う。
 水につけていた茄子を取り出して水気を取る。これをやっておかないと、フライパンの上で油が跳ねて大変なことになる。
 これで下ごしらえは完了。ここから先はノンストップだ。

 うちで一番大きなフライパンを火にかけて、ちょっと多めの油を引く。
 最初に炒めるのは茄子だ。しっかりと温度の上がったフライパンにごろごろと茄子を放り込むと、じゅわっと表面に火が入り、芳ばしい香りがあがってくる。
 飾りピーラーでしましまな茄子の皮の紫色が明るく変わり、油をまとって輝く。
しなっとし始めて、あともうちょっとかなと思ったら茄子をフライパンから取り出して、最後に盛り付ける大皿に一旦退避する。
 次はピーマン。こっちはちょっとだけ火が通るくらいで十分。炒めすぎると緑色もくすんで、色のアクセントのために入れた意味もなくなってしまう。だから他の具材と一緒に炒めてしまうと上手くいかないのだ。
 そのピーマンも茄子と一緒にフライパンからは一度退場頂いて、最後はメインのお肉。
とはいえ、しっかりほぐした薄切りのロース肉はあっという間に火が通る。ふわっとリボンのように波模様を描いて全体の赤色がだいたい消えたらもう十分。あっという間だ。
 そして最後に全部の具材をフライパンに戻し、あらかじめ混ぜておいた調味料を流し入れる。
 大きなフライパンの持ち手を両手でしっかりとつかんで、うりゃっと中身をひっくり返す。ここでも炒めすぎは禁物。調味料が全体に絡んだらもう完成なのだ。

 大皿に適当に盛った今日の「野菜炒め」もなかなかの出来だ。
 茄子はアメジストのようにキラキラと輝き、ピーマンはさながらガーネットといったところだろうか。
 薄切りのロース肉はそれらの宝石を飾るリボンのよう、などというのはさすがに苦しいけれど、ふわりと柔らかそうで、とても美味しそうだ。
 幼少の頃、晩御飯が野菜炒めと言われても心ときめかなかったのは、その作り方が間違っていたからに違いない。
 だって今、私は自分で作った野菜炒めを今すぐにでも食べたくてしょうがないのだから。

 だから早く帰ってこい。
 私は缶ビールを二本、急いで近くのコンビニに買いに行かせたあいつの帰りを、今か今かと待っているのだ。

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