第5話 弟子のエリシアちゃん
《ティアの街 冒険者ギルド》
ティア草原から戻ったシェリルは、一端勇者パーティーの元へと戻ってきていた。
「はぁ~? 故郷の王都に帰るから勇者パーティーを止めるだと? シェリル!!」
「ええ、そうよ。アゼル、だから新しい付与師は、この街で探して……さようなら」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! シェリル。魔王城にもうすぐ着くのに、有能な付与師のアンタがパーティーから抜けたら誰が、このパーティーの支援魔法を行うのよ」
「そうだぜ。シェリル、いきなりパーティーを抜けるって言っても急すぎるぜ!」
「だからそれは私よりも優秀な人を雇いなさい。リースが貯めていた多額のお金があるでしょう。それを使って新しい後方支援者と付与師を雇いなさい……それじゃあ、今までありがとう。さようなら」
ギィッ……バタンッ!
「お、おい! 待てよ! シェリル! 待てこらっ!」
「そ、そうよ! そんな勝手な事許さないわよ!」
「宿に監禁して頭を冷やさせてやる! シェリルさんよう!」
ガチャッ!
「……居ないだと?」
「嘘? こんな一瞬で居なくなるの?」
「あの女……ふざけてんのか? くそがあぁ!!」
《冒険者ギルド 屋根の上》
「最後まで不快な人達……リースが居なくなった時点で魔王討伐なんて不可能になったでしょうに。さようなら」
こうして、付与師シェリルも勇者パーティーから居なくなったのだった。
◇
《ティアラの湿地》
「今からエリシアに魔法の基本を伝授します」
「おぉ! お師匠早速教えてくれるの?」
「ええ、またホーンラビットの大群を連れて来られたりしたらかないませんからね」
「……あれは巣に悪戯したら出てきただけ」
「そうですか。なら、エリシアには人族の社会的な常識やマナーも叩き込まないといけませんね」
「……お師匠。笑顔だけど凄く顔怖い」
ティアの森でユリネさんから逃げる事に成功した僕達は、とある湿地帯で食事を取っていました。
ユリネさん分も作っていたので多めに作ったシチューでしたが、腹ペコエリシアが完食してくれました。
「良いですか。エリシア、この世界の魔法は火、水、風、土、雷、光、闇の7種類あり。これを基本属性と言います。」
「ほうほう」
「だいたいの人は産まれた時点で、得意な属性がありそれを伸ばしていきます。普通の人はだいたい1つか2つの属性しか使えませんが、僕の場合は全属性を無詠唱で全部使えますね」
「ほうほ……う?……お師匠は全部属性無詠唱?」
「そして、エリシアに魔法を教える前に、エリシアがどんな魔法適性が調べたいと思うのでこの水晶に手をかざして見て下さい」
「お師匠は無詠唱で全部使える……それなら私は魔力無しでも魔法が使える天才エルフ! ふんっ!」
エリシアがぶつぶつと何か言っていましたが、今はスルーしましょう。
そして、エリシアが手をかざした魔法適性球の反応は……
「赤色なので、エリシアの魔法適性は火属性ですね。つまり一種類です」
「………一種類? お師匠みたいな全種類じゃない?」
「全種類ですか? 全種類適性ですと……こんな風に光りますよ」
さっきまで赤色だった魔法適性球が、黄金色に光りました。綺麗ですね。
「……私の赤色と全然違う? お、お師匠~! エリシアもお師匠と同じ黄金色が良い~!」
「そうですか。なら修行あるのみですね。まずは自分の魔法適性にあった属性を育てて、魔力の扱いに慣れて下さい」
「扱いに慣れる?」
「はい。そうすれば、他の魔法属性も徐々に扱えていくと思いますよ。僕は最初から全属性を扱いましたけどね」
「む! また自慢……お師匠。さっそく、火魔法の練習したい。基本教えて」
おぉ、エリシアのやる気が凄いですね。これは教えがいがありますね。
思えば、追放された勇者パーティーに加入してから、5年間は誰かに教えるなんて事は1度もありませんでしたね。
初めての体験です……僕も頑張って教えなくてはいけませんね。
「良いですか。エリシア、これが火魔法の基本技ファイアーボールです」
僕は気合いを入れてファイアーボールを発動しました。
「………お師匠のファイアーボール。火柱が上がってる。お師匠の弟子の私なら、お師匠以上の火柱が上げられる! ファイアーボール」
エリシアも僕の見よう見まねでファイアーボールを発動させしましたね。1度で発動できるなんて凄い!
ボッ……シュッ!
「一瞬で鎮火しましたね。まるで蝋燭の火みたいでした。凄い小さい火ですが、ファイアーボール成功です。良く頑張りましたね。エリシ……アプ?!」
「お師匠。それは嫌み? そんな火柱上げてお師匠はズルいズルい……自慢もムカつく~!」
涙目になりながら、僕の膝をチョップしてますよ。この弟子エルフさん。少し痛いですね。
「ちょ、ちょっと。エリシア……なにをすんですか? いきなりお師匠である僕に歯向かうなんて破門にしますよ。エリシア~」
こうして、エリシアは蝋燭の火ぐらいある火力のファイアーボールを発動できる様になりました。


