孕ませ村
具体的な村の名前を書き込んでいないから罪にならないと思っていたらしい。だが、何県の北部や最近バス路線が廃止になったなど、その村を特定できる情報を書き込んでいて、しかも、そのデマの内容が悪質で、その村には昔から若い女を村の所有物として扱う因習があり、その女性が孕めば、その子は母親から取り上げて村の子として育てていたというものであり、そんな因習があったから、若い女性がみんな逃げて、過疎化が進んで爺しか住んでいない村と、過疎化したのは自業自得で、その村で若い移住者を求めているのも、昔みたいに若い女性を村の所有物にしたいからだとネットに書き込まれていた。
過疎化していたのは事実であり、また村の人口減少に歯止めをかけようと、都会の暮らしに疲れているだろう若い人たちをターゲットに村への移住者を募集していたのは事実だが、若い女性を村の所有物にしていたという因習など過去になく、名物と言えば、村で採れるスイカぐらしかない穏やかな何もない田舎だった。だから、村としての知名度のなさから好き勝手に想像し、昔は若い女性が旅で立ち寄ると村人たちが村で監禁し、無理矢理孕ませるひどい村だったとか、どこかのエロ漫画のそれっぽいカットを切り抜きして、その村で実際に行われていたことを元にした漫画まであるという書き込みまであり、その村のイメージを明らかに悪くさせ、移住者募集を妨害する書き込みがエスカレートして、ネットニュースになり、それを取り上げる動画もたくさん製作された。
そこでついにそのようなデマを積極的に投稿していたアカウントの情報開示が行われ、村に雇われたネットに強い弁護士の前に轢き吊り出されたのは、いかにもギャルっぽい頭の悪そうな未成年の少女だった。弁護士は、相手が謝罪し、慰謝料の減額を申し出て来るかと思っていたが、そのギャルは、自分は悪いことはしていない、本当のことを書き込んだだけと、非を認めず、反抗的だった。仕方なく保護者に連絡して、保護者が平謝りして、慰謝料を払うという話に進んだが、両親がいくら頭を下げても、本人が反省の様子を見せないので、ご両親は、お詫びのため、ご迷惑をかけた村のお手伝いをさせるため、娘をその村に一時的に移住させたいと提案した。スマフォを手放し田舎で暮らせば、少しは娘の性格も良くなるんじゃないかと、それが村に迷惑をかけたお詫びにもなるんじゃないかと。
弁護士は依頼主の村の担当者と相談し、ちょうど移住者募集のため、改築した古民家が空いているからと、そのギャルを村で一年ほど受け入れることにした。
だが、数か月後、村の依頼を受けていた弁護士が、慌てて、そのギャルの両親に連絡した。村からの依頼料が払われず、担当者と連絡が取れなくなり、慌てて調べてみると、その村はネットにデマが広まった直後に廃村が決まり、すでに村の役場も閉鎖されて、元村長を探し出して聞いてみても、村でそんな依頼はしていないという。廃村が決まりかけていた時期のデマだったので、発信者の情報開示なんてやるだけ金の無駄だと。で、弁護士とやり取りした担当者の名前も元村長は知らない、そんな職員は役場にいなかったと。
ギャルは、村に送られるとき、親にスマフォを解約されていたので、両親もギャルとは連絡が取れず、一年が過ぎても娘は帰って来なった。
しばらくして、ネットに事の顛末を書き込む匿名の投稿があったが、村は廃村のままで、ギャルもどうなったかわかずじまいだった。
もしかしたら、本物の孕ませ村に送られてしまい、今頃は誰の子か分からない子を腹に抱えているかもと、その顛末のまとめを読んで無責任なコメントが書き込まれるだけで、ギャルの行方は本当に誰にも分らなかった。


