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21話

 建早がバスルームでシャワーを浴びている。その音が、葦原のアパートの一室に響いていた。
 あの後、葦原は建早を自分のアパートに連れ込んだ。結局吐きはしなかったが、酔いを醒ますために水を飲ませたりうちわであおいだりして、介抱したのだ。

「シャワー浴びたい……」

 少し経って、建早がそう言いだしたので、今、バスルームを貸している最中だった。

「先輩!ここにタオル置いときますねー」
「……ああ……」

 建早が、バスルームの中から生返事をする。葦原は、ちょっと笑って、彼のスーツをハンガーにかけて持つと、リビングに引っ込んだ。
 スーツをカーテンレールにかける。戸が開く音がして、建早がバスルームから上がった。脱衣所で服を着替えている気配がする。
 葦原の出したシャツとズボンを着た建早がリビングにやって来る。良かった。と葦原は思った。めちゃくちゃ汗を掻いていたから、着替えを出しておいたのだ。

「酔い、醒めました?」
「さっぱりはした」
「良かった」

 建早が窓辺に立って、自分のスーツを弄った。ライターと煙草が出てくる。銘柄には、Peaceと書かれていた。

「煙草いいか」
「あ、はい」

 葦原がローテーブルの下から灰皿を取り出す。建早がちょっと訝し気な顔をした。

「あは……親父が煙草吸うもんで……」
「そうか……」

 腑に落ちない顔で、建早がベランダに向かう。葦原も後を追った。
 窓を開けて、建早がベランダに出る。葦原も続いてベランダへ出た。
 四月の終わりの、のどかな夜だった。眼下に駐車場がみえる。そこには桜の木が植わっていて、遅咲きの桜の花が、ほとんど葉っぱになりながら花弁を散らしていた。

 ちらちらと花弁が降って来る。乾いた風が、かすかに吹いていた。

 ライターを持って、建早が煙草に火をつける。彼はそれを口に咥えて一度吸い、指に挟んで持つと、煙を吐き出した。

「煙草吸うんですね」
「時々な。……お前も吸うか?」
「え!?いいんですか!?いただきまーす」

 葦原が建早の手から煙草を受け取る。建早がライターをつけようとしてホイールを指で回した。

「ん……火つかないな」

 何度ホイールを回しても、ライターは火をつけない。見ると、中身のガスが無くなっていた。

「チ……ッ……ほれ、ん」

 建早が自分の煙草を咥えて差し出す。葦原も、煙草を咥えて顔を近づけた。
 ぴったりと煙草と煙草の先を擦り付けて、息を吸う。
 煙草に火が移って、葦原が顔を退けた。舌に煙草の香りとかすかな痺れが広がる。
 葦原は、煙草を咥えたまま頭を掻いた。そして、ゆっくりと建早に尋ねた。

「先輩。監視者って、何ですか?」
「……」

建早は、しばらく黙っていたが、やがてゆっくりと語り出した。

「昔々……」

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