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運命の輪

 アーサー王がランスロット討伐のためフランスで戦っている間、キャメロットでは不満が募っていた。その対象は、王が1年も不在にしていることや、いくら肉親が殺されたとはいえ血眼になって戦場へ向かうガウェイン、などである。

 モードレッドはそこに目をつけた。

 まずはアーサー王が戦死したという手紙をでっち上げる。これにより王国は次の王を選ばなくてはならなくなったわけだが、モードレッドは自ら立候補した。
 アーサー王の支配に不満を抱くアイルランド人やピクト人に対して、彼は演説を行う。

「アーサー王による戦乱の時代は、今終わりを告げたのだ。このモードレッドが王となる暁、我らを待つのは平和なり!」

 彼らの支持を得て、モードレッドは遂に玉座に就く。

 だがここでまた予想外の出来事が発生。
 妻にしようとしたグィネヴィアから拒絶され、彼女が塔に引きこもったのだ。
 モードレッドは、彼女が自身と偽物を見分けられなかったランスロットを見限ってくれることを期待していたのだが、彼女はランスロットの城にいた間に真実を聞いていた。全てはモードレッドの悪意に満ちた企みだったのだと。

 だがどちらにせよ、『あのアーサー王が崩御した』という報せは瞬く間に国中に広まり、アーサー王がそれを知るのは時間の問題となった。


 さて、その間フランスでは、ランスロットとガウェインによる一騎討ちの決闘が行われていた。
 ガウェインが優勢、ランスロットが防戦一方に徹している。というのも、彼はガウェインの異能を知っているからだ。その異能とは、『太陽が昇る間その力は3倍になり、沈み始めるとその力は元に戻る』というもの。

 ランスロットはなんとか正午まで耐え抜き、午後になってガウェインの力が弱まった隙を突く。互角に戦った末、ランスロットがガウェインに一撃を入れて戦闘不能にする。

「……っ! ランスロット、貴様……!」

「ガウェイン卿、俺はもう円卓の騎士が分裂するのは耐えられない。王に和平を申し込む!」

「たとえ王が許して……も、お前を信じていた我が……弟たちは戻ってこない!」

 ランスロットはガウェインがどれだけ弟たちを愛しているか知っているし、実際にそのうち2人を殺してしまったことを後悔したと先述した。だが、あと1人アグラヴェインについて、真実は異なっている。

「信じてもらえないだろうが、俺はアグラヴェインを殺していない。モードレッドに殺されたのだ」

戯言(たわごと)をぬかすな! ……っ、モードレッドは、お前によって肩に傷を――」

「あの日、王妃はアーサー王と共にいた。そうするよう進言したのは他でもないモードレッド。なのに……!」

 その弁明を聞いてもガウェインは意見を曲げなかったが、彼の心の片隅には引っかかった。

 ランスロットは自身の城へ引き返し、ガウェインは治療することになった。傍にはアーサー王がついている。

「ランスロットと戦うのも、そろそろやめたほうが良いのかもしれない。1年経ってしまったからね」

「陛下、ランスロットが申したことは、事実なのですか?」

「……モードレッドが、グィネヴィアを私に随伴させるよう彼女に言ってきたのは、本当だ」

 ガウェインの中で、「自分が間違っているのでは」という意識が強まっていくなか、アーサー王のもとに報せが入った。

「モードレッドが、私に反旗を翻して王座に就いた。そう申したのか、ベディヴィア!」

「はっ。あなた様がランスロット卿に討たれたとして、既に戴冠をしたということでございます」

「国へ戻るぞ」

 まだ傷が癒えきらないガウェインは無理をしてアーサー王についていく。


 アーサー王軍は急いでブリテン島へ戻り、ドーヴァーに上陸。そこには既に、モードレッドの兵が待ち伏せをしていた。彼らはアーサー王の紋章を見て動揺していた。

「アーサー王は生きていたのか?」

「モードレッド様が間違いを?」

 だが、モードレッドのよく鍛え上げられた兵士たちは、その動揺を鎮めて戦闘に集中することができる。容赦なくアーサー王軍に飛びかかった。
 一方で、アーサー王のもとには数名の円卓の騎士がついている。雑兵(ぞうひょう)ごとき、突破するなど造作もない。

 特に、手負いにも関わらずガウェインに手出しできる者はほとんどいなかった。ガウェインは円卓の騎士の中でも特に勇猛果敢である。『円卓の騎士の中で最強は誰か』という問いがあれば、ガウェインかランスロットに二分されるだろう。

 だが傷により妨げられたその動きは、援軍としてやってきたモードレッドその人によって封じられる。

「……!? モードレッド! 貴様なぜ王を――」

「ランスロット討伐などに向かわなければ、私もこんな真似はしなかっただろう。まあ、大切な弟を殺された貴殿が黙っているはずがないことは予想していたが」

 モードレッドはガウェインに傷を負わせる。皮肉にもそこは、ランスロットが傷を与えてまだ治りきっていない場所だった。ガウェインはいよいよ倒れる。

「我モードレッド。オークニーのロット王の子、貴殿の弟なり」

「……なんだと?」

「全ての弟がランスロットに殺されたわけではない。アグラヴェインを殺したのは、私だ。そしてこの私が与えた傷により、貴様も死ぬ」

 そう言ってモードレッドは、戦場を離れた。アーサー王ら仲間たちが入れ違いに駆けつける。

「ガウェイン! そんな……」

「アーサー王……、我が……愚かな復讐心のせいで……。申し訳ございません」

 アーサー王はガウェインの手を取ったが、何も言えなかった。ベディヴィアや他の騎士たちに囲まれ、ガウェインは最後の言葉を遺す。

「私はここで死ぬ。この事態を招いたのは、……私のせいだ。ラン……スロット卿に、伝えて……ほしい。我が非難についての謝罪、そして……アーサー王を救うため、戻ってきてほしい……と。王よ、それまで……どうか……」

 彼はここで事切れた。
 アーサー王の願いもあって、ガウェインの部下が3人ほどフランスへ引き返し、ランスロットに事の次第を告げる。戦友ガウェインの死を悼む間もなく、ランスロットは臣下たちと共に準備を始めた。

 離反したにも関わらず主君を助けるという行為に一貫性がなくとも、それを嘲笑されようと、自分を騎士として認めてくれたアーサー王を「命にかえてもお守りする」と忠誠を誓った騎士として、見捨てることはできない。彼らはアーサー王のもとへ向けて急いだ。


 さて、彼のもとへガウェインの部下を向かわせて、キャメロットへ向けて軍を進めるが、激しい戦いは続いていく。だがアーサー王は、ランスロットが援軍に来るであろう人物ということをよく分かっていた。

 彼が全ての準備を整えて駆けつけられるのは、せいぜい1ヶ月後だろう。その間戦って持ち堪えるという手段は危険。ガウェインが言いかけた選ぶべき道は、休戦協定だった。

 モードレッド軍とその会議をすることになったが、アーサー王もモードレッドも、同じ内容を部下たちに命じていた。

「会議の最中、1人でも剣を抜いたら交渉決裂と見なせ」

 不穏な空気の中、なんとか交渉はまとまる直前まで行く。

 だが両者とも、運命の輪から振り落とされてしまう。

 1匹の蛇がどこからか侵入し、1人の騎士が退治するため、思わず剣を抜いたのだ。蛇の存在を知らなかった他の騎士たちは、事前に受けた命令に従い再び戦闘を始める。

 もはや輝かしい栄光は、どちらのものでもなくなった。

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