乱入
グィネヴィアの処刑当日。
かつて王の隣に並んでいた麗しの王妃は、今や罪人。木の柱に括り付けられている。そしてその周りは薪で囲まれている。
さらにその周りには、警護のために円卓の騎士が数名立っている。
全員ランスロットの攻撃に備えて全身を鎧で包んでいたが、ガヘリス・ガレス兄弟は武器1つ持っていなかった。かつてランスロットに救われた過去を持つ2人は、彼を傷つけたくなかったのである。
薪に炎が点火されたその瞬間、甲冑をまとった騎士を乗せた白馬が、見物人と円卓の騎士の間に乱入してきた。赤と白のベンディ紋章を掲げるその人物こそ、ランスロットである。
「ランスロットだ! 来たぞ!」
「かかれ!」
彼は剣を振り下ろし、1人で護衛たちを斬り捨てていく。丸腰のガヘリス・ガレス兄弟もろとも、歴戦の戦士たちを赤く染めていく。
ランスロットはグィネヴィアに近づき、縛る縄を切って彼女を馬に乗せ、そのまま逃亡した。これが、第2の悲劇だ。
さて、この一連の惨劇で弟を3人も失ったガウェインは、いよいよランスロットへの復讐心を募らせる。
「アーサー王よ! ランスロットを討伐いたしましょう! あやつ、居城『喜びの砦』に王妃を連れて行ったに違いございません!」
「ガウェイン卿、お前の弟たちについては申し訳ないと思っている。私が――」
「あなた様に落ち度はございません! 我が弟たちは、ランスロットを信じていた。なのに……!」
彼の太陽の如き情熱は、今や憎悪の炎と一体化している。
それを止めるだけの強さは、もうアーサー王にはなかった。
アーサー王はランスロットと戦う意を示した。だがランスロットへの人望は、2度の悲劇さえものともしない。円卓の騎士はいよいよ分裂し、生き残りの半数はランスロットを支持した。
モードレッドにとってはこれも想定外である。
アーサー王軍が『喜びの砦』を攻撃し、ランスロット軍がそれに耐えている間、ランスロットは自分が処刑場で殺した者が円卓の騎士の一部であったこと、そこに自分を慕う者がいたことを知り、後悔の念を抱いていた。
ランスロットは和平を申し立て、その証としてグィネヴィアを返還、1年間の休戦を取り付ける。
彼は自身の支持者と共に故郷フランスへ渡り、彼らに自分と同じ広さの領地を分け与えた。
1年後、アーサー王軍はフランスへ進軍した。その間、王国をモードレッドに任せてしまう。
アーサー王軍とランスロット軍は1年間戦い続けた。
ランスロットは何度も「これ以上円卓の騎士が分裂することは良くない」と和平しようとしたが、ガウェインが譲らなかったのだ。
弟の死は何だったのか、と。
肉親を愛しているがゆえの頑固さなのだが、この1年の間にブリテン島で起こっていたことを、彼らはまだ知らない。


