第十三話『フィッシュではなくスリーセブン(後半)』2/7
ラシェル「高木君」
ディーラー「は、はい! ルールは通常のテキサス・ホールデムです」
ディーラー「カードの役は従来のポーカーと同じく、次のようになります」
9.ストレートフラッシュ(ロイヤルフラッシュ)
8.フォーカード
7.フルハウス
6.フラッシュ
5.ストレート
4.スリーカード
3.ツーペア
2.ワンペア
1.ノーペア(ブタ)
ディーラー「ストレートは2で始まりAで終わり。45678やTJQKAは成立ですがJQKA2は不成立です」
ディーラー「同じ役の場合、Aが一番強く2が一番弱いです。例えばワンペアの場合2よりも3のワンペア。3よりも8のワンペアと……」
正明「うぜえ。そういう基本ルールは知ってるんだよ。ハウスルールはねえならさっさとやるぞ」
ラシェル「ハウス、ルール。ね」
ここで言う『ハウスルール』とはローカルルールを指す。
特別な独自ルールがあるというのならば、その時点で従来のテキサス・ホールデムとは別物だと判断するであろう。
ラシェル「ごめんね。これだけ数がいるから期待したでしょ」
ラシェル「勝負するのは、ボクとキミの二人だけ。それがハウスルールかな」
正明「っは」
んなの知ってるわ。
ラシェル「後はそっちで決めていいよ」
正明「あ?」
ラシェル「BB/SB。バイイン。リバイ。リング/トーナメント。あはは、二人でトーナメントはないか」
ラシェル「ま、キミが決めていいよ」
正明「……」
この提案は、正直予想外だった。
高レートをふっかけて、降りれないようにひたすら煽ってくると読んでいただけに思考が足りない。
強制ベッドのBB/SB。憂ちゃんの店で100/50のアレな。
バイインが最低持ち込み金額。
……あ?
バイインも、オレに委ねるのか。
正明「……」
待て待て、一度整理しろ。
復活できるかの有無がリバイ。
途中退席可能なリングかオールオアナッシングのトーナメント。
ハウスルールなんて存在しないようにも思えたが、確かに振られてみると細かいルールが多い。
正明「BB/SBは500円/250円。バイインは10,000円。リバイは有り。リング」
ラシェル「持ち込み金額の上限は?」
正明「……?」
こいつの想定の1割以下の金額を言ったにも関わらず、
それでも不服そうな素振りが見えない。
ラシェル「日本語聞こえるかな? 持ち込み金額の上限」
正明「……無しだ。あるだけ全部置け」
不気味なほどに、素直に頷く。
ラシェル「そこの団地の子の友達がディーラーでいいのかな? ボクは面倒だからお断りするけど、それ以外なら誰でもいいよ」
ラシェル「ただ、ディーラーは2名欲しい」
正明「……」
ディーラーが2名……なんだ? どういう意図だ。
正明「それはオレが直接配ってもいいのか?」
ラシェル「もちろん」
正明「……」
駆け引きじゃねーな。
自信があるんだ。
さっきのオレと同様、低俗なサマを見破る自信が。
当たり前だが仕込み抜きでトリックを準備しているわけじゃない。勝負はサマ抜きのヒラ(正々堂々)だ。
正明「オッケー。んじゃあさっきイカサマした高木君に配ってもらおうか」
ディーラー「え、いや……」
ラシェル「うん。もう一人は、ねえ。キミがやってよ」
ラシェル「さあ――始めようか」
正明「……」
結果的に2名ともラシェルの指定したディーラーになし崩し的になったが……イカサマを見破る自信はある。それに高木君ならたった今それを実行したところだ。
ディーラー「……」
一万円をテーブルに乗せる正明を確認し、同額の金額を置くラシェル。
……ほーん。
向こうは10渋沢ほどで、こちらは常にオールインゲームかと思ったが……合わせてきたか。
もう10渋沢は浮いているテーブル。正直渋沢1枚なんてどうでもいい。
オレですらそう思っているってことは、それはもちろんラシェルも同じ。
ディーラー「開始します」
茶番。
じゃあなんで両者、茶番をするのか。
――情報だろう。
こいつが、オレが、どの程度打てるのかっていう――。
今、正明の望むテキサス・ホールデムのデビュー戦が始まった。
配られたカード。2,7
このゲームは2枚配られる。それらの強弱に関しては、Aに近いカードを2枚持っている方が有利になる。
よって、AAやKK,AK,QQなどが望ましいが……そう簡単に手元に来ない。なのでAK、AJ、A8などでもかなり強いカードになる。
逆に最悪のカードは2とか6とか7で。
正明「オールイン」
その2と7。
最弱カードでボードが捲られる前の最大のブラフ。
ラシェル「……」
ラシェル・オンドリィが獲物を観察するように、同様に竹原正明も観察する。
オレのカードを見えているか?
オレが弱いカードでオールインしている事がバレているか?
仮に弱いとしても、勝率が高いとしてどのカードまでくるか?
渋沢程度の金なら恐怖はない。そんなオレにどうアクションを起こすか。
在るいはカードがわかっててわからないフリをして降りるか。
見るべきポイントは多数ある。
そもそもこのディーラーがちゃんとカードを配っているかも疑問だ。
その一つ目の回答は――。
ラシェル「ダウン」
ラシェルが中央にカードを捨てると、せっせとカードを切り直す高木君。その横で、もう既に次のゲームのカードを配り直す別のディーラー。
なるほど。
小細工抜きであくまで、テキサス・ホールデム。
でもって――。
次のカードがすぐに配られる。
高木君は未だにせっせとトランプを混ぜている最中。
それで回転数上げれば絞れる、と。
だからディーラーが2名ね。なるほど合点が行く――。
ッハ。
バカめ――!
このオレ相手にバカ正直にギャンブルするつもりかよ!
正明「オールイン!」
ラシェル「ダウン」
覚悟しろ――干からびて死ぬまで絞ってやるよ!