第八話『ほんの少しだけの理解』1/3
◆【部屋】
家の明かりを消すと遮光カーテンで外界の光を完全に閉ざす。
宇宙に太陽が生まれる。
その惑星はただの灯されたタバコ。
普段においが嫌いなので換気扇の下でしか吸わないがこの儀式の時だけは別だ。
儀式。
ッハ。くだらねえ。
暗闇の中――と言え、自宅。もっと言えば自分の部屋だ。
出しっぱなしのこたつにも入らず、ベッドの上でもない。
寒さを迎え入れるように壁際に座るいつものポジション。
何かを待つように、何かを観るに闇の虚空……座標的には天井か、電気がある箇所をぼんやりと見つめているのだろう。
それだけだ。
ただ下から見上げる行為。
始めて吸ったタバコはあの時で。それに倣って(ならって)必ずタバコを吸う儀式。
オレは竹原正明だ。
正明「ッハ、ヒヒヒ……」
いかんせん、自己紹介はまずいな。
最近スケスケがこのネタばっかりコスるせいで、思い出し笑いが漏れてしまう。
そうやって自分ウケするのは虚勢。もしくはこうやって笑えるのは時の流れか。
どちらにせよ最後にはきっと――
――いや、忘れないかもな。
まあそれもどうでもいい。
最期は、誰でもある。
初めは罰だと思っていた。
トラウマを思い出す自傷行為……って考えた場合、トラウマは"どっち"を指しているのかわからない。
今も、わからない。
正明「……」
無音の世界。
時計の音。チリチリ侵食する唯一の太陽は時より増幅する。
思い出したかのように行う儀式。
意図はなんだろうな。
自傷行為。懺悔。供養。決意。
――知るか。
とにかく――自由だ。
この儀式が行える事。
意味があるか必要があるかはさておき、それを何故するかもさておいて、だ。
選択肢があるのは自由だ。
動機はなんであれ、少なくともオレがこれを選択したからこの儀式はあるんだろう。
オレは、竹原正明だ。
刻む。
全てを投げ出したくて逃げ出したくなる時も――ッハ、そりゃねーか。
これしかないんじゃない。
選択して、今、オレはここに居る。
自分の意志。自分の感性だ。
ムカつくんだよなあ――どいつもこいつも。
口を開けば舐めた事ばっかり言ってくるクソガキ、クソ女。
クズのゴミ共が偉そうに説教してくる社会のカス共。
当たらないパチンコ……。
締め出される雀荘!
最高のギャグで笑わないセンスの無い凡人共!!
あと鏡望代!!!
ムカつく。
ムカつくムカつくムカつく……!
全てがムカつく……ッ!
正明「ヒッ! ヒヒヒ……!」
そう、ムカつくんだよッ!
今燃えているのはタバコの火と、胸の中にある憎悪の炎。
ムカつくんだよな――どいつもこいつも。この世界が。社会が。ゴミ共が!
幸せだ。
満たされない。
何一つ手に入らない。何も思い通りにいかない。
これ以上ない幸せ。
許さない。
絶対に、許さない。
オレは、オレを煽るヤツを絶対に許さない。
正明「――っと」
目が慣れた。
不思議なもので、まるで闇の世界から自分の部屋にワープしたような錯覚を覚えた。
今日は早いらしい。
ま、ってなると次を考えるか。
厨二病ごっこはおしまい。お次は現実的な思考のお時間ってわけで。
今オレが目の前の事を考えるとすれば――。
正明「……ッハ」
選択肢はない。
賭場だ。
これを作る事。
一つはテキサスホールデムの勉強。これは引き続き継続するとして、結局裏カジノに入れなければって課題を片付ける必要がある。
麻雀での反省点として……もうちょい欲を言えば、オレがカモだと思ってくれる環境を作ると尚良し。
ラシェル・オンドリィ。
名前が独り歩きしているクソ外人が居るようだが、それはそこで活用させてもらう。
裏ポーカー見せに入ったことがないオレにも名前が届くってことは相当儲かってんだろ。
周りの雑魚を絞って、絞って、絞って……最後に、ラシェルさんを絞ればいい、っと。
結局は賭場。まずは賭場。
手段こそいくつかあるものの――説教ルートを避けたいとなると選択肢はかなり限られる。
正明「チッ」
無駄金は極力控えたいが……しょうがねえ。
近藤さん使うか。
一度で終わらせたい。二度手間するぐらいなら……。
よし。
さ、ってなると戦略を組み立てますか。