第七話『リフルシャッフルの使い方』3/3
正明「……待て、結局さっきのバレッツはどうやって仕込んだんだ?」
憂「ポーカーに関係ない用語だから覚えなくていいけど、基本的にはボトムコントロールかな」
憂「こうやってAを真ん中に入れるでしょ。でも指離したらもうわからないよね」
憂「だからこのAを入れる前に、手前のカード数枚と、今仕込んだAを同じ位置に落とすの。で、それらを一気に抜くと山札の一番下に来るよね」
正明「おお……」
憂「その後は関係ないカードだけが上にあって、それを切って混ぜてるフリしてるだけだよ」
なるほど、なるほど――ためになる。
憂「今のは使ってないけどね」
……あ?
そう言って、今度はトランプを半分ぐらい右手で持ち上げてみせる。
そこから何を見せてくれるかと目を合わせたが、何もせず、
憂「22枚」
そういってスライドさせる。
憂「5枚。で、残りが52-22-5で、25枚になるよ」
それぞれのカードをスライドさせ……それらの枚数をピタリと正確に当てる。
正明「……ッ」
憂「んー、別にこれぐらい特別な事じゃないよ。できないディーラーさんもいるけど、マジシャンなら初歩の初歩だよ」
憂「実は裏でこういう事やるお店って案外ないと思うよ。バレたらお客さんいなくなっちゃうしね」
憂「でね。相手がイカサマ師だったら別の場所でやろうとか、閉店後に貸し切りでやろうって話しになるんだよ。そうしたらこういうのがバンバン使われちゃう」
憂「だから裏カジノでポーカープレイヤーが相手なら、今の正明君の実力でも問題ないと思うよ」
憂「ポーカープレイヤーなんて、ポーカーしかできないからね」
……ここまで心へし折って、ズケズケとよくも持ち上げるもんだ。
正明「待て待て。じゃあなんでAを識別できたんだ?」
憂「さっきフロップカードに出たよ?」
あ――。
なるほど――いや、つーかバカかオレは!
正明「もしかして、今までもオレにやったことある?」
憂「実はね」
憂「残念だけど一回もないんだなこれが」
あー、はいはい。確かにそれはそれで残念だわな。
憂「せっかくだから、凄いの見せてあげるね。どんなに悪いカードでも必ずロイヤルフラッシュで負けちゃうの」
余興のマジック講座としても興味はあるが、金がかかるとなれば別だ。むしろ全てのパターンを把握しておきたいでもある。
お互いにカードを配ると、律儀にオールインと発声したのでそれに乗る。
フロップカードをめくると、そこは2,6,9とロイヤルフラッシュどころかフラッシュさえも否定する別々の絵柄。
憂ちゃんのハンドはJと3で……なんだこりゃあ。
テーブルから顔を上げると、
△【イベントCG003・指でピストルを真似る北村憂】
憂「ね。ロイヤルストレートでしょ」
ああ――なるほどな。
今日一番しっくり来た。確かにこの細い指が黒光する玩具なら、ほぼ全てのヤツがこれはどう見てもロイヤルフラッシュと口を揃える。
っは。でもな。そこだけはちげーんだわ。
正明「オレはさ。その局面なら、ブタって言えんだよ」
憂「あれ、正明君って死にたがりの人?」
正明「ちげーよ」
正明「どうせオレみたいな小者を人前で撃てねえだろ、っつーブラフベッドだよ」
憂「いいねえ――ポーカープレイヤーさんだね」