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第八話『ほんの少しだけの理解』2/3

◆【WKラウンジ】
黒服「こちらです」

案内された扉を開くと、中は華やかなパーティー会場。
CMで見た披露宴のような丸テーブルに、タキシードとドレスの男女が国籍問わず多く談笑していた。

斬「うわぁ……」
学園生が決して足を踏み入れぬ貴族の世界。ドラマのワンシーンで使われる目の前の空間に斬は圧倒された。
斬「……」
斬「ど、どうかな……ボク、ここに居ていいのかな……」
正明「あ?」

露骨に今の正明をイラつかせるその言葉。
その理由は格好にある。
斬が即席で購入した格安の赤ドレスとハイヒールは、遠目で見る分には問題ない。

服は生地よりもプロポーション、と元も子もない事を言えば、四光院斬の容姿は美しいと誰もが口をそろえて言うだろう。
斬「……」
正明「……」
問題は、

正明「ぶっ殺すぞてめえ」
唯一、ダウンジャケットを装着している正明だった。
事の発端は数日前。

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「あたしのホテルで食事が出るのよ。斬を連れて来なさい」
日本語が不自由な外国人のクソガキ。
あたしのホテルってなんだよと。

まあ言語っていうのは難しいランゲージよ。
きっと英語で言うところの……

I……I 出る、meet(食事)……

あ?
私のホテルだろ?
I have hoteru denner(ディナー)……

正明「……」
待て。

あたし……。
I=私。
正明「…………?」
うん。
私は英語でIだろ。

あたし、って英語で……。

正明「…………」
竹原正明は考える事をやめた。

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で!
これ!
斬「……」
正明「……」
聞いていない。

正装なんて一言も聞いていない。
あたしのホテルで食事が出る。

はあ。
で、この仕打ち。

正明(言っとくけどこれ高級品なんですよ?)
しかし、黒のダウンジャケットはまるで自分がゴミ袋にしか思えない酷い仕打ちだった。

斬「……」
斬「隣、歩かないでほしい」
正明「おう。二度とオレに口利くなよ」
斬「マサ、冗談だよ」
斬「ボクはマサの隣に居る」
正明「……」
イライラする……!

思えば、人をイラつかせるクソ共は直接的な手法ばかりで、このように回りくどい煽りはあまり経験はなかった。
とりあえず木葉ぶっ飛ばすか。

正明「で、木葉どこ居んの?」
黒服「お嬢様から寝坊の報告を承っております。二度寝をした後にこちらに向かうと」
マジであいつ、動物だろ。待たせて悪いとか、道徳とか、なんか、なんかねーのかよ。

チッ……。
黒服「こちらをどうぞ」
斬「これは?」
ピンク色のゴムをそれぞれに渡される。
黒服「風雪様が特別に仲の良い人物に渡されるVIPの印です」
正明「ほーん」

よくわからないが、付けてみた。
多分、余計に見た目が悪くなったと思う。
正明「タバコ」
斬「あ、うん……」

なんとなく、ジャンと距離を取った。

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