第七話『リフルシャッフルの使い方』2/3
正明「なあ。オレが裏カジノでポーカーしたいつったら、そこで勝つにはどれぐらい期間が必要だ?」
憂「うん? もう十分勝てると思うよ」
適当だなこいつ。まだ一ヶ月も経ってねーぞ。
憂「あー、でも裏行くつもりなら教えたいことあるかな」
そう言って、トランプの山札の一番上のカードをめくる。
憂「ハートの5だね」
言われた通りのハートの5。次のカードを捲る時、山札から直接捲らない。
ディーラーから見てフロップの左に伏せたまま置くのがルール。
何故かと言われると、トランプにマークをつけた時、次のカードがわかってしまうので、その予防策として伏せたまま1枚置くのをバーンカードと呼ぶ。
憂「はい、じゃあハートの5をここに置きますねー。はてさて、次のカード。ターンカード。オープン」
そう言って北村憂が出したカードは……。
正明「は……」
ハートの5。
バーンカードに置いたハートの5をひっくり返すと……ダイヤの4。ハートの5を二枚仕込んだわけではなく、全く別のカードにすり替わっていた。
憂「もう一回やるね」
ハートの5が見えるように山札の一番上に戻す。
今、間違いなくハートの5が上にある状態。
憂「ターンカード。オープン」
山札の一番上のハートの5をそのまま出すだけだ。なんてことのないはずなのに……
正明「……っ!」
そこにあるのは、ダイヤのK。
憂「見えた?」
見えた……ってことは、
憂「うん。色々あるんだけどね。基本的なイカサマは覚えておかないと。逆にやられちゃうよー」
あー、なんかすげえしっくり来た。こいつ本当に最前線に居たんだな。
憂「ちなみに今のはすっごい単純。トランプの一番上じゃなくて、二番目からカード開いただけだよ」
憂「ほーら」
一瞬。本当に、瞬く間に二枚目のカードを右手で捕捉すると、なんのタイムロスもなく平然とカードが捲られた。
正明「……」
やべえ、見えねえ。
憂「じゃあ次、カード混ぜるねー」
そう言って全てのカードを伏せて、わしゃわしゃと混ぜる。
トランプを半々にして、親指でカードの端を交互させるカジノ定番のリフルシャッフル。
その後ここから切りますというカットカード。カードの裏面が見えないために使うカードを切り、そこから下のカードを上に持ち上げる。
憂「SBが正明君だから、正明君から配るね」
カードが1枚。憂ちゃんにも1枚。そしてオレに2枚目。憂ちゃんに2枚目。
なんてことのない、いつもの配り方。
憂「私バレッツだからオールイン」
正明「あ?」
カードを見ていない北村憂が、バレッツを宣言した。
考える前にすぐにカードをひっくり返すと――。
憂「ほらね」
本当にAが2枚。通称、最強のハンドであるこの組み合わせは「エーシーズ」「ロケット」とも呼ぶが「バレッツ」と北村憂は呼ぶ。
正明「……ヒヒヒ」
面白えな。麻雀なら似たような事バンバンやってるのに、トランプってなると全くわからない。
憂「解説するとね。今のは場に出たAが2枚あったよね。それを混ぜるフリして意図的に場所を把握していたの」
憂「2枚くっつけて、リフルシャッフルしたから、間に1枚カードが入るよね。後はその間にカットカード切って上に持ってくればセット完了」
正明「なあ。Aは山札の真ん中に位置するだろ。正確にカットカードを切るための目印は?」
んー、と首を捻ると、山札をひっくり返しトランプをスライドさせる。端の数字が全て見えるように表で見せる。
憂「左から、289K7だね。なるべくこれらの数字覚えておいてね」
そう告げると、トランプをルービックキューブで遊ぶようにくるくる回した後、カードを上下にシャッフルし、最後にテーブルに伏せた状態でのシャッフル。
憂「はーい」
そして同じようにスライドさせる。
正明「……」
全部の数字を覚えていたわけじゃない。それでもわかるのは、さっき見た数字と全く同じカードが並んでいた。
憂「フォールスカットって言うんだよ。今のはすっごく単純でね。三枚ずつ指でロックして入れ替えてるだけだよ」
これはちょっと見えた。ちょっとは見えたが、その程度だ。イカサマしただろ、と叫ぶ程はわからなかった。
正明「……待て、結局さっきのバレッツはどうやって仕込んだんだ?」