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第2章34話:フランカ視点


<フランカ視点>

フランカ・ビシュケースは父に呼び出され、小さな屋敷の執務室に来ていた。

「フランカよ。実はお前あてに、護衛の依頼がきている」

父がそう言った。

「私あてに……ですか?」

フランカは怪訝そうな顔をする。

ビシュケース家は軍の家系だ。

フランカの父は大隊長として大勢の兵を指揮する立場にある。

特に、彼はその功績によって子爵位を授かっているほどだった。

つまり軍人貴族なのだ。

だから彼の娘であるフランカは、子爵令嬢に当たる。

しかし、フランカは、階級としては単なる兵卒に過ぎなかった。

そんな彼女に、いったい誰が護衛依頼を出したのか?

「ミアストーン公爵家からだ」

「公爵家……」

なぜ公爵家が子爵家に依頼を……?

と思ったが、フランカは英才教育で学んできた知識から、だいたいの経緯を察する。

ミアストーン家は軍の名家だ。

そしてビシュケース家も軍の家系。

つまり同じ軍門というつながりで話が回ってきたということだろう。

「なんでも公爵令嬢であるルチル・ミアストーン様が、冒険に出られるという。その護衛をお前に頼みたいそうだ。しかも、依頼を受けるなら、お前が大学に入ったあとも面倒も見てくれるという」

この国では115歳で大学に入る資格を得られる。

フランカも大学に入学する予定だ。

だから鋭意、勉学に励んでいた。

公爵家は、そんなフランカの大学生活の面倒を見てくれる。

……つまり。

「それって、私が公爵令嬢の取り巻きになれということですか?」

「簡単に言うと、そういうことだな」

フランカの父は肯定した。

子爵は、貴族階級の中でも下から二番目だ。

いわば下級貴族。

社交界にすら呼んでもらえないことも多い。

だから上級貴族の取り巻きになって、いろいろな庇護や恩恵を受けるのが生存戦略なのだ。

しかしフランカは乗り気ではなかった。

彼女は子爵令嬢である。

が、自身が令嬢などという華麗な存在だと思っていない。

どちらかといえば彼女の心は兵士。

そのメンタリティも庶民側に属していると自覚していた。

「わ、私は……太鼓持ちとか、苦手です。上手くできるかどうか、自信がありません」

「お前の気持ちはよくわかる。だが、これはチャンスだ」

父はそう前置きしてから、続けた。

「本来、公爵令嬢の取り巻きは伯爵以上が選ばれることが多い。お前が選ばれたのは、本当に幸運なことだ。おそらく適性職が【魔戦士】だからだろう」

魔戦士は、その名の通り、魔法も戦闘もできる士。

戦闘系の適性職としては当たり職だ。

なるほど公爵が取り巻きとして欲しがるわけだと思う。

父は続ける。

「さらに護衛対象のルチル様は、第一王子の婚約者であり、将来の王妃候補でもあられる。ルチル様本人の才覚もずば抜けている。そのような方の知己を得られるなんて、一生に二度もない好機だ」

「お、お父様は他人事だからそんなことが言えるんです」

公爵令嬢であるというだけで雲の上の存在。

話しかけることすら許されない、本物のお姫様。

そんな相手から、もし不興を買ったら?

粗相をしてしまったら?

クビが飛びかねない。

比喩でもなんでもなく、物理的に。

だからフランカには、今回の件はチャンスと思えるものではない。

めまいのするような話でしかなかった。

「確かに他人事だ。しかし私も、普段は貴族の皆様にペコペコ頭を下げているのだぞ!」

自慢でもなんでもないことを、誇らしげに言うフランカ父。

そんな父に、フランカは呆れた目を向けた。

父は咳払いをしてから言った。

「いずれにせよ、公爵家からの申し出を断るわけにはいかん。覚悟を決めるのだ、娘よ」

「……」

納得がいかなかった。

が、首を縦に振るしかなかった。

父の言う通り、下級貴族でしかない子爵家には、断る権利などないのだから。

早くも胃が痛くなる思いをしつつ、フランカは護衛のやり方を復習し始めるのだった。



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