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第1章26話:アトリエ


そこは貴族の寝室のような部屋だった。

私は率直な感想を述べた。

「素敵ですね」

「そうでしょう?」

「使用人と一緒に暮らしてるんですね」

「ええ、そうよ」

答えつつ、シエラ様は、テーブルにあった鍵を手に取った。

「これをあなたに譲るわ」

「鍵……ですか」

「そう。あなたに錬金術用のアトリエを譲ってあげようと思ってね」

「ええ!?」

「これは、そのアトリエを開ける鍵ね。あなたに渡しておくわ」

そう言ってシエラ様が鍵を手渡してきた。

「い、いいんですか。アトリエなんていただいても」

「もちろん。あたしはあなたをサポートするために契約したんだから……さあ、実際にアトリエを見に行きましょうか」

「はい!」

私は喜悦(きえつ)の声で答えた。

ふたたび廊下へ。

シエラ様の案内にしたがって、神殿を歩いていく。

5階まで上がって、突き当たりの部屋にたどり着く。

「ここがアトリエよ」

「あけていいですか?」

「どうぞ」

私は鍵を使って扉を開けた。

すると、ファンタジカルな研究室が目の前に広がった。

広さは左右30メートルほど。

壁には書棚(しょだな)が多数。

器材棚(きざいだな)も多数、置かれている。

正面の壁には窓がたくさんあり、そこから森と海が眺められる。

なかなか壮観(そうかん)(なが)めだ。

部屋の真ん中には大きなテーブルが3つ置かれていた。

「棚の本は、あなたにとって新しい情報に溢れていると思うわ。聖剣の作り方などが書かれた本もあるわよ」

「……マジですか」

「まあ、あなたの国の言語ではないことも多いし、解読に時間がかかるかもしれないでしょうけどね」

試しに書棚の本を一冊、手に取ってみると、錬金術の書籍だった。

古い文献(ぶんけん)があったり、装丁(そうてい)が新しくても読めない言語の本もあった。

まあ……問題ない。

異世界の人間族は数千年を生きるのだ。

時間は無限にある。

じっくりと研究させてもらおうではないか。

「器材は、これまで存在した様々な種類を用意しているわ。錬金術師にとって、容器や道具は重要だものね」

言われて器材棚(きざいだな)を眺めると、見たこともない容器もたくさんある。

私の錬金術の幅が広がることは間違いないと、予想できた。

「こんな素敵なアトリエをいただけて感謝いたしますわ」

私は礼を述べた。

お世辞ではなく、本心からの言葉だ。

屋敷のアトリエも悪くないけど、結構狭いからね。

新しくアトリエを購入しようかと思っていたところだった。

その矢先に、こんな素晴らしいアトリエを用意してもらえたのは渡りに舟だ。

積極的に使っていきたいと思う。

「礼なら不要よ。言ったように、見返りをいただくからね」

「もちろん。最高の返礼を持って、感謝の意を示させていただきますわ」

鑑定魔法、収納魔法に続き、アトリエまで貰えるなんて。

ここまでしてもらったのだから、返礼品は、絶対に満足してもらえるものを用意しないとね。

今よりもグレードの高いシャンプーやトリートメントを開発して贈呈(ぞうてい)しようかしら。




この日から私は、島のアトリエをよく利用するようになった。

島には部屋の転移魔法で移動する。

転移魔法陣を利用できるのは私とシエラ様の二人だけに設定されているそうなので、万一、転移陣が他人に見つかっても問題ないのだそう。


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