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第1章25話:島

目の前には、海。

どこまでも広がる海原(うなばら)

「本当に転移した……」

感動が胸にこみ上げる。

私は、じっと眼前の景色を(なが)めた。

潮騒(しおさい)

寄せては返す波。

優しい潮風(しおかぜ)

詩情(しじょう)すら()き起こる風景だ。

そういえば、海なんて久しぶりに見た。

異世界に来てからは、初めてなんじゃないだろうか?

しばし、そこで立ち尽くす。

背後からシエラ様に声をかけられた。

「無事に転移できたようね」

「はい」

「ここは島よ。誰も寄り付くことのない絶海の孤島」

なるほど。

孤島……ね。

「……さ、ついてきなさい。我が家に案内してあげる」

シエラ様が島の原生林(げんせいりん)に向かって歩き出した。

私はその後を追いかける。





島に広がるのは穏やかな森だった。

やわらかな陽射しが木々の隙間(すきま)から射し込んで、地面にまだら模様の光を落としている。

野鳥(やちょう)の声がする。

獣の気配がある。

魔物の気配はない。

優しい緑がどこまでも広がる、静かな森。

森林浴がしたくなる気分だ。

「ここよ」

やがて森を抜けると、そこには湖が広がっていた。

湖のそばに神殿がある。

4階建て……いや5階はあるだろうか。かなり高さのある神殿だった。

あれが……シエラ様の住まいか。

「さあ、中に入りましょう」

シエラ様が玄関に入っていく。

最初に礼拝堂がある。

礼拝堂の右奥(みぎおく)の扉を開けると、中庭(なかにわ)に出た。

芝生(しばふ)()きつめられた四角(しかく)い中庭だ。

中庭を抜けて、扉をくぐると、廊下がある。

途中、正面から人が歩いてくる。

耳の長い種族……エルフだ。

シエラ様の使用人だろうか?

そのエルフは、シエラ様の姿を認めると、廊下のわきに退(しりぞ)いて、深く辞儀(じぎ)をした。

うん……やはり使用人なんだろう。

精霊の世界にも使用人という制度があることに、私は意外に思った。

その廊下の途中にある扉を開けた。

「ここがあたしの部屋よ」


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