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第1章7話:オムライス


厨房(ちゅうぼう)を借りて料理をする。

家の料理係(りょうりがかり)は困惑していた。

公爵令嬢は、通常、料理をしないからだ。

そんな料理人たちをよそに、私は作りたいものをこしらえる。

「……できた」

オムライスである。

作ったのは前世以来だが、我ながらよく出来たと思う。




―――食堂。

夕方。

父上と二人で食卓に着く。

私は口を開いた。

「父上。実は、本日の夕食はわたくしが作りましたの」

「……何?」

父上は一瞬、困惑したような顔をした。

私は説明する。

「実はわたくし、商売をしてみたいと思いまして」

「ほう……」

「なので商材として調味料を考案しました。それを父上に味見していただきたいのですわ。そしてその出来次第で、商会(しょうかい)を開く許可を頂きたいのです」

公爵家の肩書きを背負って商売を行うとなったら、失敗は許されない。

ゆえに、商売の前に父上に許可をもらう必要があると思ったのだ。

父上が納得したように言った。

「なるほど。言いたいことはわかった。では、その料理を持ってくるがいい」

私は使用人たちに視線で合図を送った。

食堂の外からオムライスが運ばれてくる。

父上と私のもとに、オムライスが置かれた。

「ふむ、見たこともない料理だ」

「名前はオムライスですわ。上にかかっているのが、販売したいと考えている調味料です」

「なるほど。とりあえず食べてみよう」

父上がスプーンを手に取った。

オムライスを崩して、スプーンにすくう。

そして、口に運んだ。

「……!」

父上が驚いたような顔をした。

「美味い……」

「お気に召されたでしょうか?」

「ああ。これはすごいぞ。旨味(うまみ)甘味(あまみ)などが複雑なバランスで調和している! 社交界で紹介したいほどだ」

反応がよくて、私はテーブルの下でガッツポーズをした。

「その上にかかっている赤い液体は、トマトケチャップと名付けました。それを商品として売り出したいと考えていますわ」

「ふむ。確かにこれは売れるだろうな」

父上はトマトケチャップだけをスプーンにすくって、ひとくち、食べる。

味わってから、私のほうを向いた。

「いいだろう。商会を開くことを認めよう」

「……! ありがとうございますわ!」

「ただし、条件がある。【完全委託方式(かんぜんいたくほうしき)】でやりなさい」

―――完全委託方式。

それは商売の実務を他人に完全に任せるという方式。

簡単にいうと丸投げだ。

重要な決裁なども全て。

「お前は公爵令嬢だ。本業は商人ではない。ゆえに商売ばかりに時間を取られるわけにはいかない」

ゆえに完全委託方式を採用しろ、と父上は言う。

まあ、私も商売にかかりきりになるのは望ましいとは思わない。

父上の言う通りにしよう。

問題は、誰に商売を丸投げするかだが……

「わかりましたわ。それでは、副メイド長のアリアに任せたいと思います」

ゲームにおいて、アリアはルチルにどんなときでも味方した忠義のメイドである。

完全委託方式で仕事を任せるなら、彼女ほどの適任はいないだろう。

「そうか。では、話をしておくといい」

「はい」

こうして準備は整った。

翌日、私はさっそく商会を設立するために動き始めた。

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