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父と娘 2

「はい、リピートアフターミー。わかる、大変だったね、辛かったね」

「わかる、大変だったね、辛かったね」

 ルーが言った後にムツヤとユモトは続けて言う。

「よし、それじゃモモちゃんが来たらオッケーね?」

「わかりました!!」

 そして、タイミングよく部屋のドアが開いた。そこに立っていたのはモモだ。

「あ、あの、ご心配お掛けしました……」

 申し訳無さそうに一礼してモモが部屋へと入る。気まずい沈黙が流れた。

「モモちゃん紅茶でも飲む?」

「あ、はい、頂きます」

「じゃ、じゃあ僕が淹れますね!!」

「ユモトちゃんしくよろー!」

 こんな時はおちゃらけたルーが救いになる。モモは椅子に座り、ふぅっとため息を吐いた。

「モモさん、どうぞ」

「すまないな、ユモト」

 目を細めてモモは紅茶に口をつける。

「私は、父は間違ったことをしていると思います」

「わかる」

 ムツヤが言うと部屋の空気が凍った。思わずアシノはムツヤの頭を引っ叩く。

「え、えーっと、モモちゃんのお父さんがいた事は本当にビックリしたわ!!」

 ルーが必死にごまかそうとしていた、ムツヤは何故自分が引っ叩かれたのか分からないでいる。

「私は…… 私は父を止めたい。亜人と人間が憎しみ合うなんて間違っています!!」

「分かります、モモさん」

 ユモトは教わったからではなく、本心からそう言った。

「そうだ、赤い玉を使ってお父さんとお話してみますか?」

 ムツヤの提案にモモはハッとする。

「ムツヤ殿!! お願いします!!」

 ムツヤから赤い玉を受け取ってモモは壁に投げつけた。しかし、その玉は落ちてコロコロと床を転がるだけだった。

「何か使うには他に条件があるのかも知れないな」

 アシノが言うとモモは残念そうに下を向いた。

「考えていても仕方がないわ、お夕飯を食べましょう!!」

 ルーの提案通り、みんな腹が減っていたし、疲れも溜まっていた。

 街に混乱が起きたというのに、ホテルのビュッフェは、いつもの様に用意されている。

 モモは料理に口をつけるが、何となく味がしない。しょっぱいかどうかしか分からなかった。

 夜になり、疲労困憊の皆はぐっすりと眠っていたが、モモは眠れずに居る。

「ハァイ、モモちゃーん?」

「ルー殿…… 寝なくて大丈夫なのですか?」

「私、夜行性だからねー」

 モモの横になるベッドに腰掛けると、モモも体を起こす。

「モモちゃん、こっちおいでー」

 ルーに言われるがままモモが近づくと、おもむろにモモの頭を胸に抱きしめた。

「る、ルー殿!?」

「私にはモモちゃんの気持ちを分かってあげられないけど、今はこうしていよ?」

 誰かに抱きしめられるなんていつ以来だろう。モモは人肌のぬくもりを感じていた。

 しばらくして、ルーがモモを離した。

「どう、眠れそう?」

「はい、ありがとうございます」

 次の日、皆が起きて朝食を摂り、待機していると、部屋のドアをノックされた。

「失礼します。国の使いの方がお見えになっております」

 来たかとアシノは思い、一行は兵の後を着いてゾロゾロと城へ向かう。

 王の間に通されると、サツキ達が既に待っていた。その隣には見慣れないパーティが居る。

 そして、大臣のイグチと近衛兵長カミト、その他議員が王の後ろへ並んでいた。

「勇者アシノよ、先日はご苦労だったな」

「はっ、皆様の協力があってこそで御座います」

 アシノは膝を付いて王に返事をする。

「して、勇者イタヤよ。そなたは何をしていた」

 ムツヤが初めて見るパーティを王は睨んでいた。

「いやー、すいません王。近くの街で魔物の群れの襲撃がありまして……」

 バツが悪そうに勇者と言われた男は謝る。

「まぁよい。そなた達に命令を下す」

「はっ!」

 勇者達は返事をした。

「勇者サツキはこの王都の護衛にあたれ。勇者アシノと勇者イタヤは魔人の捜索及び討伐を命じる」

「はっ!」

 アシノ達が言うと、次はイグチが質問をする。

「勇者の皆様。何かご質問は御座いますか?」

 そう言われるとアシノが表を上げた。

「はい、勇者トチノハの件はいかがなさいますか?」

 アシノの質問にイグチは答える。

「勇者トチノハの件も解決をせねばなりませんが、まずは国を滅ぼそうとする魔人を先決すべきだと、昨日の議会で決まりました」

「かしこまりました」

「他に質問が無ければ、さっそく皆様には任務にあたって頂きます」

「はっ!」

 そう言って勇者とそのパーティは王の間を後にした。

「なんで、なんで私がアシノ先輩と旅をできないんですか」

 外壁まで見送りに来たサツキが言う。勇者達が集まっているので見物人も多かった。

「まぁそう言うなサツキさん」

 ハッハッハと笑いながら勇者イタヤは言う。

「そうだ、お前には王都を守ってもらわないといけない」

 アシノが言うが、サツキはむくれている。

「そろそろ出発するぞ!」

「はい」

 アシノが言うとモモは馬車を走らせた。ムツヤ達とイタヤのパーティを乗せる馬車の二台が並んで出発する。

 まずは攻撃の効かないモンスターを倒す武器を手に入れるため、イタヤが試練の塔へ向かう事になっていた。

 道中休憩を入れた時に改めて自己紹介が始まる。

「勇者アシノパーティの皆さん、改めてよろしく! 俺はイタヤって言います」

 オールバッグに灰色の髪をした勇者イタヤはそう自己紹介をした。

「よろしくおねがいします!」

 ムツヤが元気よく返事をした。

「おー、元気がいいね、ハッハッハ」

 よく笑うおっさんだなとモモは思う。

「こっちは俺の妹のサワだ、人が言うには天才魔法少女だ」

「お兄ちゃん! 恥ずかしいからそういう事を言わないで! それともう少女って歳じゃないし!」

 20代半ばぐらいの、イタヤと同じ髪色でショートカットの女が怒って言った。

「そして、こっちはウリハ。幼馴染の腐れ縁だ。魔剣士をやっている。凶暴だからエサを与えないでくれ」

「お前は一言多いんだよ!」

 茶髪の長い髪をした男勝りな女がイタヤの腹を肘で突く。

「ぐふっ!!」

 腹を突かれたイタヤは変な声を上げた。

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