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第14話 出発 Departure to the Citadel

翌日 
銃型の魔具<ガイスト>への対抗手段として防弾のベストとズボンを揃えた後
城塞都市へと出発した。
城塞都市をはじめ連邦の北部から中部までは操られた連邦軍がの勢力圏になっているらしく、気を抜くことは出来なさそうだ。
「エル ある程度したらこいつを空に飛ばしてくれ。」
「えぇ。」
「それは偵察用の魔具<ガイスト>ですか。」
「まぁそんなとこだな。敵を見つけるなら空からの方がいいし。
いつもは私が上にぶん投げるんだが、エルに飛ばしてもらった方が高いだろ。」
目の文様が刻まれた球体の魔具<ガイスト>だ。
「すごい力ですね。」
普通に500グラムぐらいはあるはずだが。
「サトーはあたしの前、エルの後ろで左右を警戒してくれ。」
「了解です。」
「1回目 行くわ。」
エルが球体の魔具<ガイスト>を風の魔術で飛び上がらせる。
「ひゅぅ 流石エルリーフの魔術は凄いねぇ。
魔具<ガイスト>なしでやったのかい?」
ヴィヴは軽口を叩きながら魔具<ガイスト>に繋がった紐から見える双眼鏡のようなものから目を離さない。
「どう?」
「魔獣が4体、人影はないね。今日の晩飯は困らないだろうさ。」
ヒュウウッと落ちてくる魔具<ガイスト>をヴィヴがバシィッと掴み取る。
「――また肉生活に戻るんですね。」
「安心しな。黒パンなら買ってきてる。」
「サトー そんな黒パンに目を輝かせなくても。」
「肉ばかりの生活から解放される。それだけで救済ですよ。」
「大袈裟ね。」
「エルリーフは食にこだわりが薄いからな。
あたしたちドヴェルグはやたら塩辛いし。
サピエンスが一番飯はまともだな。」
「サピエンス?」
「ニールともいうけど、サトーと同じ体に特殊な特徴のない人種よ。
そういえばこの大陸に多い人種を言ってなかったような。」
「そーなのか。
脳筋の多いドヴェルグでも初等教育で覚えるのにな。アハハ」
「はぁ 悪かったわ。
連邦には4民族がいて
エルリーフ、ドヴェルグ、コルプガイスト、サピエンスまたはニール。
エルリーフは私達みたいに感覚器官の一部が魔素<エレメント>の影響で変化していて
耳が長かったり、目に瞳が2つ3つあったりするわ。光が見える瞳は1つだけど、魔素<エレメント>を感じ取る瞳が発達してるのよ。
髪も魔素<エレメント>の影響で色素が薄い色が多い。水色とか私の場合はブロンドだけど。」
「まぁ 要は魔術に器用なやつらだな。魔具<ガイスト>なしで魔術を使えるのはエルリーフが多いし。」
「なるほど。そういえば最初に会った時も弓を使わずいろんな魔術を使ってましたね。」
「次にドヴェルグ」
「あたしを見れば分かるだろ 強い一族だ。」
ヴィヴが胸を張る。一族とは仲が悪くても人種自体には誇りを持っているんだな。
「体の一部に人以外の動物の特徴が現れている人種よ。
力が強かったり、足が速かったり身体的特性は様々ね。」
「ちなみにあたしは全部強いぜ。いい女だろ。」
がっとヴィヴが俺の頭を引き寄せて胸にあてる。
「ゴホンッ」
「おっと 先生が不機嫌になっちゃうな。」
「――別にかまいませんが。
コルプガイスト
少数民族ながら魔具<ガイスト>の基礎を作った特殊な一族よ。
人種としてはニールとほぼ同じだけど、一緒にされるのを嫌がるのよね。
体の一部が魔素<エレメント>によって拡張されている 魔障と呼ばれる病気を発症した人種ね。
サピエンスは異世界人のあなたの方が詳しいでしょう。
まぁ3民族からの蔑称でこずるいとかそういう意味だからあまり使わない方がいいけれど。
ニールが一般呼称ね。」
「――魔障って」
「大気中の魔素<エレメント>によって人の身体に変化が現れること。
私の目と耳やヴィヴの耳や筋肉も魔障と言えるわ。」
「なるほど。でも体が拡張するって便利そうですけど。」
「はぁ そんなわけねぇだろ。
いきなり体に尻尾が生えて感覚までついたらあちこちぶつけて痛いだろ。」
「――そんな弊害が。」
「まぁ例えだけどな。それにその日の天候や星の移動によって魔体<デモス>がくっつく体の部位が変化していくらしいぜ。」
「それゆえにどの人種よりも早く魔素<エレメント>の本質を理解し、魔具<ガイスト>を作りだした。逆に魔障に適用してしまったエルリーフは魔具<ガイスト>の発展が一番遅れているわ。」
「はい 先生! 魔具<ガイスト>を発明したのは帝国の何とかってインテリどもだろ。
あたしはそう習ったぞ。」
「はぁ。先生じゃないです。
歴史の表向きはそうね。
でも実際にはコルプガイスト達が自分達の知名度をあげないために代役として立てた説もあるけれど。」
「まぁ有名になってもいいことねぇからな。特に連邦は昔から転生者がやたら出てくるし。」
「そうなんですね。」
「あぁ 地図見ろよ。
これ ここが連邦で大陸のど真ん中にある。
であたしが知ってる限りでは帝国とムハバラット、エイフリカーンに転生者が出てきたって話がほぼ残ってねぇんだよ。
こんだけ面積広いのにおかしいだろ。転生者は大陸の中央から東側だけに偏在してる。」
「その通りよ。さすがヴィヴね。」
「まぁ年の功ってやつだな。」
「それにしては凄い見識ね。転生者の情報を地図に落とし込むなんて。」
「まぁな。だが原因は今の高等学院のやつらもまったく分かってねぇんだろ。」
「いくつか説があるけれど。有力なのは異世界からの門が魔素<エレメント>の濃度が関係しているというもの。」
「へぇ。魔素<エレメント>の偏在ねぇ。なら極東が一番多くねぇと成り立たねぇ気はするけどな。」
「そうね。極東に転生者が現れたという話はほとんどない。
だからあくまで1つの学説でしかないわ。」
「極東かー。そういやサトーの出身もその辺なんだろ。」
ヴィヴが地図で一番右端を指さす。
「えぇ。俺がいたのは別の世界の極東ですが。二ホンと呼ばれてました。」
「こっちじゃヒノモトだな。難しい変な文字で書くらしいけど。」
「さて話を戻しましょう。コルプガイストの魔障は今はほぼ克服されているわ。
それが魔具<ガイスト>の発明。」
「大気中の魔素<エレメント>をエネルギー源として様々な事象を発生させる。
その結果、大気中の魔素<エレメント>が一時的に下がる。
それを利用して様々な魔具<ガイスト>を街中で動かし魔障の原因である魔素<エレメント>を極限まで減らす。」
「へぇ。そんなことになってんのか。
あたしがちっちゃい頃はまだ魔障の治療でぐっろい医療やってるの効いたけどな。」
「30年以上前の話ね。それに今はコルプガイストのいくつもあった街はなくなり、彼らは各地に散っているわ。」
「そりゃそうか。魔具<ガイスト>の技師は今や一番の稼げるもんな。」
ガサッ
草木がかすれる音がした。
「――魔獣か。ちょっくら狩ってくるぜ。」
「ヴィヴ サトーと一緒に戦ってくれないかしら。」
「は? 別にそこらの魔獣なら」
「軍とぶつかるならあなたとサトーの戦いの癖を把握しておいた方がいいでしょう。
私は弓だから別にいいけれど。」
「そりゃそうか。確かにその錫杖で魔素<エレメント>を散らされるとあたしは戦いづらいしな。」
「えぇ。なので2人の時はインドラをメインにアシュヴァルはあくまで棒として使おうと思ってます。頑丈ですし。」
「たしかにあたしの戦斧でも切れなかったし。結構いい素材してんだな。」
「――そういえばこの錫杖はインドラと色が似てますね。」
「インドラの素材は魔素<エレメント>の伝導性の高い何かね。
ダイヤモンドに匹敵する硬度があるし
同じだとしたらかなり貴重な物じゃないかしら。」
「へぇ 掘り出し物ってやつか。高かったんだろ。」
「銀貨1枚でしたよ。」
俺たちは音のした方向へ歩いていく。
魔獣が見えてその瞬間にヴィヴの顔が狩人の顔に切り替わる。
「行くぜ サトー」
ヴィヴが斧を構える。
今度は熊か。だがとさかのようなものが頭に立っているな。
「ボレアルサ 暴風系統の風魔術を使うわ。
正面に立たなければ大丈夫よ。」
「しゃらくせぇ。正面突破だ!」
ヴィヴが石をぶん投げてボレアルサの頭に直撃させ
突進する。
「続きます。」
インドラの射程まで俺もヴィヴの後ろに続く。
「ウォゥッ!!」
ボレアルサが叫び、こちらに突進してくる。
めちゃくちゃ速いな。
元いた世界だったら確実にビビッて逃げていただろう。
相手熊だし。
だが今は仲間も心強い道具もある。
アマ姉の教えてくれた仏陀の教えでいうと完全に破戒してるがな。
殺生はだめなはずだし。
「ヴァジュラ!!」
射程に入った俺はボレアルサの顔面めがけて電撃を放つ。
ボレアルサの額と目に直撃しバランスを崩す。
「っしゃああああ!!!」
ヴィヴが高く飛び上がり斧を
ドォォォォォォ!!!!
振り下ろしボレアルサの頭部を完全に真っ二つに切り裂く。
「頭蓋骨はかってぇな。」
「お疲れ様です。」
パァン!
俺はヴィヴとハイタッチした。
「流石ね。1回で合わせれるなんて。」
エルはナイフを取り出してさっさとボレアルサの皮をはいでいく。
「まぁな。私のお気に入りだしな。」

ヴィヴが俺の背中をバシバシたたく。
「私はいらない気がしてきたわ。」
エルが手を止める。
「何を言ってるんですか。
俺が強くなれたのはエルに教えてもらった基礎があったからで。」
「そーだぜ。サトーと一緒に冒険できるのも。
転生者なんておっかねぇもんをエルが見出したおかげだしな。」
「そ」
エルは嬉しそうな顔を隠して手早く皮をはいで部位を切り離していく。
「へっ 素直じゃねぇな。」
それだけじゃないがな。
「初めて会った時からきれいな人だと思ってました」
「は」
「へ」
エルとヴィヴがナイフをポロっと落として俺の方をぽかんと見てくる。
「あ しまった。」
口に出ていたか。
「さ さぁ ボレアルサを捌きましょう。
次は胴体の皮を外していけばいいですかね。」
「え えぇ そうね。」
エルは顔を真っ赤にしながら皮 皮と繰り返しぼやく。
「ふんっ。このっ。」
ヴィヴは不機嫌そうにナイフでざくざく皮をはいでいく。
「なんだよ。」
「いえ 何でも。」
「そーか。ならいいけど。」

夜はいつも通り焚火を囲ってヴィヴと俺が先に寝て、交代でエルが寝る。
俺はいつも通り歩き疲れてすぐに寝入った。
「ヴィヴ ――起きてる?」
エルが小声でつぶやく。
「なんだよ。今起きた。あと半刻ぐらいはあるだろ。」
「ごめんなさい。でも聞きたくて。」
「何だよ。1分で終わるならいいぞ。」
「私 サトーとは付き合えない。
――転生者は悪しき者とされていて子を為せないから。」
「そんなことか。エルリーフはかたっくるしくてやだね。
あたしは気にしない。
サトーは他の転生者と違って女を無理やり囲ったりしねぇし いいやつだ。」
「嫉妬してるの。」
「はぁ? 」
「私もサトーが好き。こうして旅をして
それに、初めて出会った時に私がいないと駄目な気がして。」
「で? あたしだって好きだ。
あたしの武技だって教えるつもりだ。面倒見なら負けない。」
「そうよね。それでもあなたに取られたくない。」
「はぁ?  あれだけ博識の癖に支離滅裂だな。断る。
あたしから奪いたかったらまずはサトーと付き合いな。
あたしと交渉するんじゃなくてサトーと向き合うのが筋ってもんだろ。」
「そうよね。ごめんなさい。忘れて。最低よね。」
「今寝てるから聞こえなかった。」
「――ありがとう。」
月灯りと焚火の炎が2人を照らす。

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