第165話 たかりに慣れたかなめ
「なるほど……やっぱりお前等をけしかけたのは叔父貴か」
そう言ってかなめは静かに手にした汁の中に静かに蕎麦湯を注いだ。菰田はかなめの詰問に根負けして、すべての嵯峨の指示の内容を自白した。隣のテーブルでは島田のシャレに突っ込むサラのけたたましい笑い声が響いた。
「うるせえ!」
「止めなさいよ。それにかなめちゃんの声のほうがうるさいわよ」
かなめが怒鳴りアメリアがたしなめる。それを見ながらカウラはお代わりした蕎麦をすすっていた。
「でもまあこれで……」
「ご苦労さん。さようなら……出来ればカウラちゃんが食べ終わるまでに会計済ませといてね」
アメリアの態度は明らかにつれないものだった。それどころか昼飯をたかるつもり満々な二人の上官に菰田は大きなため息をついた。
「そんな……」
「あきらめろよ。見つかった俺等が間抜けだったんだ。でも良かったじゃないか。ベルガー大尉と一緒に食事が出来たんだぞ。願ったりかなったりだな」
犬猿の仲の島田の言葉に菰田はさらにしおれていった。サラと誠が同情の視線を向けたのは無理も無い話しだった。
「ふう」
そう言うとカウラは最後の一口を汁の入った小鉢からすすりこんだ。そして満足げな顔で蕎麦湯で薄めるわけもないというようにそのまま汁を飲み干してしまった。
「おい、そこは蕎麦湯を入れるもんだぞ」
「別に貴様に蕎麦の食べ方ひとつでどうこう言われる話ではないな」
満腹で多少機嫌が直っているカウラだが、かなめ達がつけてきたにはかなり怒っている様だった。島田とサラが暴走するのはいつものことだが、嵯峨の差し金とはいえ、一番苦手としている菰田にまで参加していたことにいらだっていた彼女は菰田のおごりで昼を食べることで何とか機嫌を直していた。
「ああ、それじゃあ俺等は出るわ」
はじめから別会計と宣言していた自分達のてんざるセットの分の伝票を持つと島田はさっと立ち上がった。サラも満足したように一緒に立ち上がって赤い色のコートを見にまとった。
「どこでも行け!二度と帰ってくるな!」
威嚇するようなかなめの声に首をすくめるようなしぐさをした後、島田とサラは入り口に消えていった。