第150話 プレゼントの仕上げ
「パーラの奴は本当に人が良いと言うかなんと言うか……」
かなめの苦笑いに誠も頷くより他になかった。深夜、もうすぐ日付が変わろうとしていた。サラ達運用艦『ふさ』のブリッジクルーの女性隊員達はただ一人、帰りの運転の為に酒を飲めなかったパーラの運転するマイクロバスで誠の実家の道場を出て行った。
かなめとアメリア、そして誠が見送った。カウラは今は道場の床を薫と一緒に掃除していた。
「おい、神前。いいのか?明日だぞ、カウラの誕生日」
かなめのタレ目が誠に向かった。満面の笑みに誠は酒を出来るだけ控えていた理由を思い出した。
「大丈夫よねえ。その為にあまり飲まなかったんだから。今晩は一晩中かけて仕上げてみなさい。男の子でしょ」
そう言うアメリアに誠は自信を持って頷いた。さすがに冬の晴れた日。日が落ちてからはどんどん気温が下がった。暖房といえば煮えたぎる鍋が有った先ほどの宴は過ぎて、羽織るどてらに冷たい風がまとわり付いた。
三人はさっさと玄関に向かい、引き戸を開いてあがりこんだ。
「じゃあ、僕は作業があるんで」
そう言い残して誠は階段を駆け上がって自分の部屋に入った。邪魔するものも無く机の上にはカウラへのプレゼントのイラストが乗っていた。
「ふう。御馳走食べて元気も出て、後は自分の仕事をするだけ。最高の気分だ」
そう言ってため息をついた後、誠はそのまま机に向かった。実はカウラのドレス姿は細かい修正が残っているだけで、すでにほぼ完成していると言ってもいい状況だった。
いつものポニーテールを解いたエメラルドグリーンの髪、その額の赤い石の輝くようなティアラ。胸のネックレスにも同じような赤い石が光っていた。まっ平らな胸が少し増量されているように見えるのはご愛嬌だと誠は思わず笑みがこぼれた。
しばらく誠はじっとその絵に見入っていた。表情はいつもの緊張したカウラのものではなく、少しばかりやわらかくアレンジしてみた。
めったに見ることが出来ない安心したような笑顔。かなめなら『こんな顔か?こいつ』とか言われるかもしれない。そう思いながらとりあえず首飾りの輪郭などにペンを入れる作業を始めた。
師走だというのにいつも忙しい下町にしては静かな夜だった。下町の繁華街と住宅街が入り組んだ町には似つかわしくないほどの沈黙に誠の身が引き締まった。誠はそんな中で静かに作業を続けていた。
そんな中ふすまの外でごそごそと音がして振り返った。