【原神】からかい上手のナヒーダさん #30 - 謎のコンテスト(後編)【二次創作小説】
大きなキノコが発行する光の中、小さな休憩スポットで一息ついている。ナヒーダは熱心にメモを眺めながら、次の「研究」に意気込んでいる様子だ。
「それじゃあ、次は稲妻の人たちね」
彼女が新しいページをめくる音が、静かな洞窟内に響く。
「さっきまでの項目に加えて、『頼もしさ』と『一緒にいて楽しいか』という新たな評価軸も追加しましょう」
「またかよ! もはや何が目的なのかわからなくなってきたぞ…」
思わず抗議の声を上げるが、ナヒーダは意に介さない様子だ。
「知識の体系化には多角的な視点が必要なの。特に『頼もしさ』は、冒険者であるあなたにとって重要な要素でしょう?」
言われてみれば確かにその通りだ。旅をする中で、頼りになる仲間の存在は大きい。
「まあ、確かにな…」
「それに『一緒にいて楽しいか』という要素は、人間関係の質を長期的に測る上で欠かせないわ」
ナヒーダの言葉には一応の理屈がある。…たぶん。
「わかったよ。じゃあ最初は雷電将軍からだな」
稲妻の統治者であり、雷神である彼女について考える。まさか神との戦いを経験することになるとは、モンドを出発した時点では想像もしていなかった。
「雷電将軍は…戦闘能力は間違いなく10点だ。神だからというだけじゃなく、あの太刀さばきは本当に圧巻だった。一度真正面から戦ったからこそ、その力は身をもって知っている」
思わず身震いする。あの一太刀は今でも忘れられない。
「でも社会性は6点かな。統治者としての責任感は強いけど、民と距離があり過ぎるし、コミュニケーションが一方的なところがある」
「家庭関連は?」
「うーん、5点…かな。家事のイメージがわかないし、料理に関しても、まな板を真っ二つにしそうだ」
雷電将軍が家事をしている姿を想像すると、なんだか不思議な気分になる。
ナヒーダは頷きながら、熱心にメモを取っている。
「次は、神里綾華はどう?」
次々に答えていくと、ナヒーダが眉を上げた。
「この子は全体的に高評価なのね。特に印象に残っている点は?」
「彼女の優雅さと強さが同居している点かな。表面上は穏やかだけど、いざという時の決断力と剣術は本当に素晴らしい」
神里流の剣術を思い出す。あの美しさと実用性を兼ね備えた動きは、まさに芸術だった。
「宵宮についてはどう思う?」
「社会性は10点満点。彼女のエネルギッシュな明るさと創意工夫の精神は、周りまで元気にしてくれる。花火師としての情熱も素晴らしくて、彼女と話していると時間があっという間に過ぎるんだ」
宵宮との楽しかった思い出が次々と蘇ってくる。花火大会の準備や、彼女の店でのやりとりは、稲妻での良い思い出だ。
「彼女は商才もあるし、人付き合いも抜群に上手いからね。稲妻の中でも特に人脈が広い人だと思う」
「なるほど…」
ナヒーダは何かを考えるように、少し遠くを見つめた。
こうして九条裟羅、早柚、久岐忍、珊瑚宮心海、綺良々、夢見月瑞希と、稲妻で出会った女性たちについても語っていく。
早柚が入っていたのは以外だった。あくまで同世代と比べて身長が低いだけであるためか、成人扱いしている様子だった。
思えば稲妻では特に多くの人々と深い絆を結んだ。雷電将軍との決闘を経て、国全体の雰囲気が変わったことも大きかったのだろう。
「次はスメールの人たちね」
ナヒーダの言葉に、少し緊張が走る。スメールは彼女の国。自分の国の人々について、どう評価されるのか気になるのだろうか。
「まず、ニィロウから聞かせて」
正直に答えていく。
「なるほど、性格の評価が特に高いのね」
「彼女の優しさと強さのバランスが素晴らしいんだ。弱者に手を差し伸べる心の温かさと、信念のために戦う強さを兼ね備えている」
ニィロウの笑顔が脳裏に浮かぶ。彼女の純粋な心は、見るものを勇気づける不思議な力を持っている。
「ディシアについては?」
「研究への情熱と知的好奇心が印象的だね。時々周囲が見えなくなるほど夢中になることもあるけど、それも含めて彼女らしさだと思う」
ナヒーダはうんうんと頷きながらメモを取る。
こうしてコレイ、ドリー、ファルザン、キャンディス、レイラなど、スメールで出会った女性たちについても語っていく。彼女たちとの出会いは比較的最近だが、それぞれに鮮明な印象が残っている。
「ふぅ、これで全員だな」
一通り話し終えて、少し疲れを感じる。
「いいえ、まだ残っているわよ?」
ナヒーダが不思議そうな顔で言った。
「え? まだ誰かいたっけ…」
「ほら、ここに」
ナヒーダが自分自身を指さした。
「え? ええ!?」
思わず声が裏返る。まさか自分自身を評価対象に入れるとは。
「なぜそんなに驚くの? 私も対象よ?」
ナヒーダが首をかしげる。その仕草が妙に可愛らしくて、言葉に詰まる。
「いや、それは…そうだけど…普通の人間と違って七神だし…」
「公平なデータ収集のためには全員評価すべきでしょう?それに、雷電将軍を入れて私を入れないだなんて、不公平じゃない?」
そう言われると反論できない。だが、目の前の本人を評価するなんて、あまりにも気まずい。
「でも、お前を評価するなんて…」
「大丈夫よ。正直に言って。客観的なデータが欲しいだけだから」
ナヒーダは真剣な顔で言う。だが、その瞳の奥には何か期待のような色が見え隠れしているような…
「うーん…」
さて、どうしたものか。あまり低い評価を付けてもきっとやり直しさせられるし、かといって…ここまで来て、答えないというのも…文句を言われるに決まっている…
「まあ、正直に言うしかないか…じゃあ…容姿は8点かな」
「へぇ、なかなか高評価ね」
ナヒーダの顔が少し明るくなった。
「その理由は?」
「えっと…その…小柄だけど均整の取れたスタイルと、白に近い緑の髪が似合っているし、なにより瞳の色が綺麗で…」
言いながら、自分でも何を言っているのか恥ずかしくなってくる。ナヒーダの翠色の瞳がじっと俺を見つめている。
「なるほどね。性格は?」
「性格は…9点…かな」
「まぁ、さらに高い! どうしてそんなに高いの?」
ナヒーダの声には明らかな嬉しさが混じっている。
「知恵の神として賢明なだけじゃなく、好奇心旺盛で前向きな面もある。時々いたずらっぽい一面もあるけど、根は優しくて思いやりがある。それに…」
言葉を切る。言いすぎた気がする。
「それに?」
「いや、なんでもない」
ナヒーダの表情が少し物足りなさそうになるが、すぐに次の質問に移った。
「戦闘能力は?」
「…9点。草元素の使い手として非常に強力なサポーターだし、戦略的な思考も鋭い。スメールの危機の時も、ナヒーダの力がなければ乗り越えられなかった」
「社会性は?」
ここは少し考える。ナヒーダは500年間、社会から離れていたため、経験豊富とは言えない。だが、彼女なりに努力している姿は見てきた。
「…8点…かな。知恵の神として優れた洞察力を持ってカバーできていると思うけど、時々人間の感情の感情を理解しきれていない面もある。でも、日々学んでいるのが伝わってくるから日常生活は問題ないと思う」
ナヒーダは真剣に聞いている。自分の評価を客観的に受け止めようとする姿勢が感じられる。
「家庭関連は?」
「これは…わからないな。一緒に料理したことはないし、家事の腕前も見たことがない」
「そうね、確かに未知数ね。でも、私には知識があるから、どんな料理も作れるし、家事もプロ級にこなせるわよ…9点としておくわね」
妙に自信たっぷりに言うナヒーダ。何を考えているのだろう。
「頼もしさは?」
「……10点満点だ」
ボソッと答える。
「あら、本当に?」
「ああ。草神として偉大な力を持つだけでなく、いざという時に冷静な判断ができる。何より、どんな困難にも立ち向かう勇気を持っている。スメールの危機の時も、精一杯民を守ろうとしたし、知恵で勝利に導いた姿は本当に頼もしかった」
思い出すだけで胸が熱くなる。彼女の知恵や決断力には、心から敬意を表している。
「ありがとう…旅人」
ナヒーダの声が少し震えた気がした。
「最後に、一緒にいて楽しいかどうかは?」
「……9点」
「理由は?」
「ナヒーダとの会話は知的な刺激に満ちているし、新しい視点をいつも提供してくれる。それに、このように冗談を言い合ったりするのも今じゃ悪くない。一緒にいると時間があっという間に過ぎている気がする」
正直な気持ちを口にして、少し照れくさくなる。だが、それは本当のことだ。ナヒーダと過ごす時間は、不思議と心地よく感じる。
ナヒーダはしばらく黙ってメモを取っていたが、やがて満足そうに頷いた。
「これで全データが揃ったわ。さて、分析の結果を発表するわね」
彼女はメモ帳をめくりながら、真剣な表情で言った。
「分析? そんなことまでするのか?」
「ももろん。データを集めるのは分析するためよ」
ナヒーダは俺の方を向いた。その表情には何か決意のようなものが浮かんでいる。
「分析の結果…あなたにピッタリのパートナーは…」
ドキドキとした緊張感が走る。まさか本当にそんな分析をしていたのか?
「私ね!私の優勝よ!」
ナヒーダは自信満々に宣言した。
「えぇっ!?」
思わず声が上ずる。何てことを言い出すんだ。
「優勝とか、そもそもコンテストじゃないだろ! ただの知識整理のはずじゃなかったのか?」
慌てて抗議するが、ナヒーダは意に介さない様子だ。
「データは嘘をつかないわ。あなたの評価基準と私の特性を照らし合わせた結果、最も相性が良いのは私だという結論になったの」
彼女は真剣な顔でそう言う。まるで既定の事実を述べるかのように。
「そ、そんなバカな…」
「バカじゃないわ。科学的根拠に基づいた結論よ」
ナヒーダがメモ帳を見せる。そこには様々な数字と図表が書かれていた。本当にそんな分析をしていたのか…
「それに、あなた自身が私を高く評価したじゃない。上位グループの中でも私が勝っているわよ」
言われてみれば確かにそうだが…
「と、とにかく! これはただの会話のネタで、コンテストとかじゃないんだから」
「でも、データ上は私の優勝ね」
ナヒーダはくすくすと笑う。その表情には悪戯っぽさと、どこか嬉しそうな色が混ざっている。
「さて、優勝者にはご褒美をもらおうかしら♪」
「ご褒美??」
「ええ。優勝者特権として、二つのお願いを聞いてもらうわ」
何を言い出すのか。彼女の言うことに乗れば、また何かからかわれるんじゃないだろうか。だが、その笑顔を見ていると、なぜか断る言葉が出てこない。なぜだ。慣れてしまったのだろうか。
「何をお願いするつもりだ?…一応言っておくが、簡単に叶えられない願いなら却下するからな」
「まず一つ目は…優勝したことを褒めながら、私の頭を撫でて欲しいの」
意外なお願いに、思わず目を丸くする。
「頭を…撫でる?」
「ええ。ほら、早く」
ナヒーダが俺の方に近づき、少し身を屈めて頭を差し出す。その仕草があまりにも無防備で可愛らしくて、心臓が早鐘を打ち始めた。
(しょうがないな…)
恐る恐る手を伸ばし、彼女の頭に触れる。白に近い淡い緑の髪は、想像以上に柔らかく、絹のような手触りだった。
「うん、優勝、おめでとう…」
彼女の要望通り、小声で呟きながら、そっと頭を撫でる。小さな草神が目を閉じ、嬉しそうに微笑んでいる姿が、妙に胸を打つ。
「お願い…もう少し…」
言われるままに、しばらく頭を撫で続ける。ナヒーダは完全に満足した様子で、やがて目を開けた。
「ありがとう。とても気持ち良かったわ」
彼女の素直な喜びの表情に、なぜか照れくさくなる。
「二つ目のお願いは?」
「二つ目は…ハグして」
さらに予想外のお願いに、言葉に詰まる。
「は、ハグ!?」
「そう。親しい者同士は、信頼の証としてハグをするものよ、ほら、腕を広げて」
ナヒーダが両腕を広げて、期待に満ちた表情で俺を見上げている。断るという選択肢もあるはずなのに。
今までの罰ゲームの類もそうだったが、数秒だけ我慢すれば簡単に終わる内容のせいか、なぜか今回も応じてしまう自分がいる。不思議だ。
いや、きっと拒否したところで、不満を次々と述べられたり、理路整然とした説明をされて結局丸め込まれる…そんなオチが見えているから、なのかもしれない。
「わかったよ…とっとと済ませよう」
俺も両腕を広げると、ナヒーダがすっと近づいてきた。そして、小さな体が俺の胸に寄り添う。草神の香りが鼻をくすぐり、心臓の鼓動が速くなるのを感じる。
「ふふっ、あなたの心臓、すごく速くなってるわね」
ナヒーダがくすくすと笑う。近すぎる距離に、思わず息が止まりそうになる。
「そ、それは…」
言い訳をしようと思った瞬間、不意にナヒーダがバランスを崩したように後ろのめりになった。
「きゃっ♪」
彼女に引っ張られて俺も前に倒れ、二人して地面に転がってしまう。
「うわっ…大丈夫か?」
心配して声をかけると、俺はナヒーダの上に乗るような形になっていた。二人の顔の距離がとても近い。
「ごめんなさい、足が滑って…♪」
彼女はそう言うものの、その目には明らかな悪戯心が宿っている。これは完全に「わざと」だ。
「わざとだろ!」
咄嗟に言葉が出る。ナヒーダはくすっと笑った。
「さあ、どうかしら?」
彼女の表情には、まったく反省の色がない。むしろ楽しんでいるようだ。だが、この状況からすぐに抜け出せないのは、俺自身も少し動揺しているからかもしれない。
「ねぇ、昨日はあなたを拘束して弄ばせてもらったお詫びに…」
その瞳には、いつもの知的な光とは違う、何か怪しさを感じる特別な色が宿っていた。
「今回はあなたが私を弄んでいいと言ったら…あなたはどうする?」
ナヒーダが意味深な言葉を口にする。
「な、何言ってるんだ!そそ、そんなのもういいから!!」
心臓が大きく跳ねる。本当に何を言っているんだ、この神様は。
慌てて体を起こし、ナヒーダも立ち上がる。お互いの服についた洞窟の埃を払いながら、何とも言えない気まずい沈黙が流れる。
ナヒーダが先に歩き出す。その背中を見ながら、今起きたことの意味を考える。あの謎のコンテストは、初めから彼女の計画だったのだろうか。
「ふふっ、退屈しのぎになったでしょう?」
ナヒーダが振り返り、満面の笑みを浮かべる。その笑顔には、純粋な喜びと何か特別な感情が込められているように見える。
洞窟の出口に向かって歩きながら、俺は考えていた。この「コンテスト」が意味するもの、ナヒーダの言動の真意、そして自分自身の気持ち。あの「わざと」の転倒も含めて、すべてが彼女の計画通りだったのかもしれない。
だが不思議なことに、からかわれたという焦りや恥ずかしさよりも、どこか温かな気持ちが胸の内に広がっていることに気づく。それは何なのか、まだ名前をつけられないけれど…
「ねぇ、早く行きましょう」
ナヒーダの声が、前方から明るく響く。
「ああ、もちろんだ」
そう応えながら、洞窟の出口へと向かっていった。