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新たなる脅威 2

「俺は横取りだとか、そんな事思っていませんよ」

「ムツヤ……」

「そうよ、アシノの名前が無ければ出来ないことばかりだったし。面倒くさい治安維持部隊とのやり取りもぜーんぶアシノがやってくれたし」

 ルーも続けて言うと、みんな「そうだそうだ」と言い出した。

「そうか……」

 アシノは小さく呟いて酒を飲み干す。


 朝を迎えて一行はまた馬車に乗り込む。そのまま揺られて昼過ぎ頃、スーナの街へ着いた。

 馬車を役人に預け、ムツヤ達は街の中へ入る。この賑やかな感じが懐かしい。

 冒険者ギルドを目指し、中へ入ると皆がアシノを見てざわつく。

「勇者アシノだ」

「キエーウを壊滅させたってよ」

「あの仲間達は何者なんだ」

 噂になっている本人は、すました顔をして受付へと向かった。

「おかえりなさい、アシノさん」

「あぁ、ギルドマスターに合わせてくれ」

「はい、ご案内しますね」

 受付嬢の後を付いてギルドの応接室へ向かう。しばらくするとギルドマスターのトウヨウが入ってきた。

「皆、無事で何よりだ。まずはご苦労だったと言うか」

「正直、裏の道具をキエーウに奪われたと言われた時には肝を冷やしたが、なんとかなったみたいだな」

「あぁ、なんとか、な」

「それで、私もまだ情報が届いていないのだが、戦闘で生き残ったキエーウのメンバーはどうしたのだ?」

 ギルドマスターであるトウヨウは少し心配するように顎のヒゲをいじりながら聞いた。

「それなら心配ないさ、ムツヤが記憶を消す魔法とやらで裏の道具の事は忘れさせた」

「そんな魔法まで使えるのか!?」

 信じられないとトウヨウは驚きの声を上げる。

「まぁ、それならば概ね心配はあるまい。みんな本当によくやってくれた」

「ほぼムツヤっちがどうにかしてた感はありますけどね」

 ルーが言うとムツヤは首を振った。

「いいえ、皆さんが居たからキエーウを倒せたんです!!」

「謙虚だな」

 そう言ってトウヨウは笑うが、次の瞬間には神妙な顔をする。

「ムツヤ、お前の行いはそれこそ勇者試練の権利を有するほどのことだ。しかしだ、ギルドはこの事を公にする事はできない」

「えぇ、構いません。俺は普通に冒険者ができればそれで」

「そうか…… 欲がないなお前は」

 トウヨウは目を閉じて、何かを考えた後でまた話し始めた。

「個人的に出来る範囲でなら望みを叶えよう。何かあるか?」

「えーっと、それでしたら……」

 ムツヤはうーんと考えてからハッとして言う。

「海…… 海が見てみたいです!! 皆で冒険して!!」

 ムツヤが言うと、トウヨウが笑い、つられて皆、笑い始めた。

 何かおかしな事を言っただろうかとムツヤは慌てる。

「海はやっぱりダメでしょうか……」

「いや、そうじゃない。意外な答えだったのでな」

「そういえばムツヤさん海が見たいって言ってましたね」

 ユモトが言うとムツヤはうんうんと頷く。

「そうです、海って見たことが無いので」

 ムツヤが子供のように言うと、トウヨウは優しく言った。

「良いだろう、海を見てこいムツヤ」

「良いんでずか!? ありがとうございまず!!」

 それで、とトウヨウは仲間達を見る。

「お前達はどうするんだ?」

「私はムツヤ殿の従者です。どこまでもお供します」

「僕も!! 僕も海って見たこと無いし、まだムツヤさんと冒険が…… したいです」

 ユモトは言い終わる頃には声がしぼんでした。恥ずかしいのだろう。

「私は、お兄ちゃんから離れられないので」

 ヨーリィが部屋に来て初めて喋った。

「私はギルドの許しが出れば付き合うわよ!!」

 そう言ってルーはちらりとギルドマスターを見る。トウヨウは黙って頷く。

「ムツヤが何かしでかした時、私も居た方が良いだろう。しばらくは国からの呼び出しも無さそうだしな」

 これで全員がムツヤと共に海へ行くことに決まった。

 アシノが出発する為の手続きがあるため、明日、旅立つことになった。山のような書類を前にして頭を抱えている。

 ユモトとムツヤとモモは、ユモトと共に家に帰り、父ゴラテに会うことにした。

「お父さんただいまー」

「ユモト、ユモトか!?」

 のっしのっし歩いてきた大きいドワーフのような男は玄関まで来るとそのままユモトを抱きしめる。

「ちょっ、お父さん恥ずかしいって!!」

「よく無事で帰って来てくれた。ムツヤも、モモの嬢ちゃんも」

 ムツヤは「はい」と返事をし、モモは小さく頷いた。

 居間に通されて4人は座る。お茶をズズッと飲んでからゴラテは話し始めた。

「冒険に出たと思ったら勇者アシノとまさかキエーウを壊滅させるなんて、俺は驚いたよ」

「その、なんていうか……」

「事情があるんだろ? それにギルドの依頼と秘密は親兄弟、友達恋人にも話しちゃならない」

 何か裏がある事は、ゴラテにはお見通しだったが、その上で何も聞かないでくれている。

「ごめん、お父さん。いつか話せる日が来るとは思うんだけど……」

「いいさ、俺はお前が元気で居てくれればそれでいい」

 ゴラテはヒゲをモサモサと触りながら言う。

「ありがとうお父さん。それで、早速で悪いんだけど、明日からは海を見てこようと思うんだ!!」

「また旅に出るのか、まぁ俺もお前ぐらいの頃は旅ばっかしてたから何も言えねぇが」

「今日は家に泊まっていくよ、出発は明日だし、色々話したいこともあるし」

 ユモトが言うとゴラテの顔が明るくなった。

「そうかそうか、わかった」

 親子水入らずの所を邪魔してはいけないと、ムツヤとモモはユモトの家を後にする。

 ムツヤとモモは金に余裕があるというのに、いつもと同じ安宿を目指す。

「ヒッヒッヒ、勇者アシノのお供のモモちゃんじゃないか」

 フロントへ行くとロッキングチェアに座ったグネばあさんが迎えてくれた。

「ずっとここに居るのにどこからそんな情報を仕入れてくるんだ」

「宿屋ってのは噂話が集まる場所さね」

 部屋の鍵を受け取って二階へ上がる。ムツヤの部屋には先にヨーリィが待っていた。

「お帰りなさい、ムツヤお兄ちゃん」

「あぁ、ただいまヨーリィ」



 そして、その頃。ルーはギルスの待つ部屋のドアを開けていた。

「やぁやぁ、私の優秀な部下くん。裏の道具の研究はできているかい?」

「いつ俺がお前の部下になった。研究はまだまだ手つかずだよ」

 ギルスは面倒くさそうに答える。するとルーは地団駄を踏んで怒り出す。

「なんでこんな部屋に引きこもってたのに出来てないのよ!!!」

「仕方ねぇだろ!! 警邏(けいら)の連中とお前達のサポートをしてたんだから!!」

「探知盤見てただけじゃない!!」

「馬鹿言うな、でかい探知盤はそれだけ操作が難しいし、24時間体制だぞ!!」

 一通り騒ぎ終えると、ルーはスタスタと歩いて椅子に座り、そして手をヒラヒラさせて言った。

「この店は客にお茶も出さないのかしら?」

「店じゃねぇ、飲みたきゃ勝手に自分でやれ」

 ギルスが机から目を離さずに言うと、ルーはまた騒ぎ始める。

「やーだーやーだー!!!」

「あーもう、うるさい!! 帰れ!!」

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