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新たなる脅威 1

 ムツヤ達はスーナの街を目指して馬車を走らせる。

 荷台ではアシノがもたれかかって昼寝をし、ルーは横になって爆睡していた。

「そろそろ昼食はいかがでしょう。馬も休ませたいですし」

 モモが運転しながら言うと、ユモトが返事をする。

「そうですね!! 皆さん起きてくださーい」

 仲間を起こして昼食の用意をした。

 食べ終わる頃に、アシノは連絡石でギルスに話をする。

「明日の朝にはスーナの街につく。一応確認だが裏の道具の反応は無いな?」

「あぁ、見張っているが1つも反応はない。それよりアシノ、この街でも君のことはすっかり噂になっているぞ。勇者アシノがキエーウを壊滅させたって」

「そうか……」

 人の噂が広がるのは早い。アシノは片手で顔を覆い隠す。

「勇者アシノ伝説がまた1つ増えたわね」

「なんかこう、自分でやった功績じゃないのに、讃えられてもなぁ……」

「それだけじゃないぞ、イタガの街を魔人から救ったってのも有名になってる」

 ギルスが付け加えるとまた1つ、ため息を漏らした。

「そっちもか……」

「それで、まぁ帰ったらギルドマスターから話はあると思うが、最近、魔人の目撃が増えているらしいぞ」

 アシノは少し顔を険しくして話す。

「キエーウの次は魔人か、体がいくつあっても足らないな」

「まぁまぁ、目撃ってだけだからまだ確証ってわけじゃない」

「あのー、魔人ってイタガでも会いまじだけど、一体何者なんですか?」

 アシノとギルスの会話を聞いて疑問に思ったムツヤが尋ねる。

 それを尋ねられてアシノは「あーっ……」と声を出してから答える。

「そうだな、魔人ってのは大まかに分けて2種類いてな、1つは生まれつき魔物が人のようになった者、もう1つは人が悪魔に魂を売って魔物になった者だ」

「うーん、なるほど」

「お前、本当に分かっているのか?」

 なるほど、と言ったがムツヤは欠片も分かっていなかった。もう少しだけ分かりやすくルーが解説を入れてやる。

「魔人ってのはね、悪い人の事よ。人に悪いことをする人のこと!!」

「それじゃ強盗やキエーウのメンバーとかも魔人なんですか!?」

 ムツヤが言うとアシノは首を横に振った。

「そんなスケールじゃない、魔人ってのは街や国すらも滅ぼす」

 それを聞いてムツヤは思わず生唾をゴクリと飲んだ。

「キエーウの奴らも災厄の壺で亜人を滅ぼそうとしたことは、確かに魔人クラスだとは言えなくもないが……」

 そうアシノは付け加えておいた。

「イタガの街で戦ったアイツ、確かドエロスミス将軍だっけ? あぁいう奴よ!!」

「魔人は自身も相当強いが、大抵はモンスターを操ることも出来る」

「そうなんでずか……」

 ムツヤは魔人という存在の恐ろしさを再認識する。

「よく勇者と魂を売った魔人は紙一重だと言われてな。強くて人を助けるのが勇者、強さに溺れて野心を持った奴が魔人に堕ちる」

 アシノは自嘲気味に言った。強い者というのは良く言われもすれば、悪く言われもするのだ。

 そこで、黙って会話を聞いていたユモトが発言をする。

「そのー、ギルスさんが言っていた魔人の件が本当なら大変なんじゃ……」

「なーに、魔人は勇者がなんとかしてくれる。お前達はそんな事気にせず、これからは気ままに冒険者をやればいいさ」

「それが問題なんだよ『勇者』アシノ」

 ギルスが勇者という部分を特に強調して言うと、アシノは自分の置かれている立場に気付いてサーっと血の気が引いた。

「わ、私はもう関係ないぞ!!」

「そうも言ってられないよアシノ。ギルドじゃ勇者アシノが帰ってきたと大騒ぎだ」

「んなこと言ったって私はビンのフタを飛ばすしかできねぇぞ!!!」

「まぁ、詳しいことは帰ってからだね。それじゃまた」

 そう言ってギルスは通話を終える。アシノは青いシートの上でがっくりと膝と手をついている。いたたまれなくなり、ルーが話し始めた。

「今更『私はビンのフタをスッポーンと飛ばすことしか出来ない』なんて言えないわよねぇ…… それに言ったところで冗談だとしか受け取ってもらえないでしょうし」

「ルー、私はどうすればいい?」

「と、とりあえずギルドへ帰りましょう!! ギルドマスターも何か策を考えてくれているわよ…… 多分」

「アシノ殿……」

 モモも気の毒そうにアシノを見ている。

 昼の休憩はアシノのテンションがガタ落ちして終わった。そのまま馬車を走らせると夕暮れ時になり、野営の準備をする。

 食事が終わるとそれぞれ焚き火を囲んで、武器の手入れをしたり、何気ない話をしていた。

 そんな中でアシノが突然語りだす。

「何か私は…… お前達に悪い気がしてな、手柄を全部横取りしている気がして」

「アシノさん……」

「アシノ殿……」

 ユモトとモモは言葉が出てこなかった。勇者アシノの姿が頼りなく、小さく見える。

「何から何まで公に出来ないことばかりだが、お前達の働きは、それこそ勇者になる資格がある事ばかりだ」

「アシノ……」

 ルーも真剣にアシノの言葉を聞いていた。

「私は、私は…… 苦しい…… 何も出来ないこと…… 自分を偽っていること……」

 パチパチと焚き火が燃える音だけが当たりを支配している。その沈黙を破るのはムツヤだ。

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