第98話 待ち合わせの昼食時に
「アメリア……」
駅前の下町の風情のある洋食屋。スパゲッティーナポリタンを食べ終えたカウラは、好物のメロンソーダをすすりながらあきらめたように目の前に置かれたアメリアの荷物に向けてつぶやいていた。
「だから言ったんだよ、アタシは」
ようやくステーキを食べ終えたかなめが皿を下げる店員をやり過ごしながらつぶやいた。フィギュアの入っている袋からカウラはその中身が何かを想像できていた
「だって!やはり自分がもらってうれしいものが……」
「相手がもらってもうれしいとは限らないのよ。ねえ、ベルガーさん」
カウラの隣に座ってオムライスの乗っていた皿が運ばれていくのを見ながら薫がつぶやいた。さすがに薫の言葉にはアメリアも愛想笑いで自分の失態を認めて見せなければならなかった。
「それにしても今度はなんだ?夏はスクール水着だったが……」
次にカウラの視線は目の前の見たことの無いブティックの袋に向かっていた。誠もかなめもそれについては何も言う気は無かった。
「セーラー服か?巫女装束か?」
ストローから口を離してカウラはそうつぶやいた。
「惜しい!」
「全然惜しくないわ!」
アメリアの隣に座っていたかなめが思わず突っ込んだ。後頭部を叩かれてアメリアは思わず店員が運んできたコーヒーに顔から突っ込みそうになった。
「危ないじゃないの!」
「危ないのはテメエの頭だ!メイド服なんていったいどこで着るんだ?かえでの屋敷か?あそこには確かにメイドが居るが、テメエみたいなおばさんのメイドは居ねえぞ」
「かなめちゃん、一遍死んでみる?30歳をおばちゃん扱いするのはいい加減にして頂戴ね」
かなめの剣幕とアメリアへの侮蔑の言葉。そしてアメリアの静かな怒り。二人のやり取りにカウラは呆れてものも言えない状態だった。気まずそうにコーヒーを並べながら店員はすごすごと引き上げていった。さすがにとめるべきかと迷う誠を薫が制した。
「意外と誠はそう言うの好きなのよ。小学校の時からそう言う絵を描いていたじゃないの」
それは事実なだけに誠は何もいえない。そんな彼をかなめがタレ目ながらも明らかに恫喝している視線を送って来た。おずおずとカウラを見た誠だが、興味深そうな純粋な視線を誠に向けてくるカウラの姿がそこにはあった。
「そう……なのか?」
「食いついたよこいつ!良いのか?それで良いのか?」
かなめを無視してカウラは視線をアメリアの買い物袋に移した。それを見て得意げに胸を張りながらアメリアはコーヒーをすすった。
「私も考えたのよ。今度のフェスは一般客として行く予定だけど、一人ぐらいコスプレする人がいても良いんじゃないかと思って」
いかにもアメリアは得意げだった。カウラは袋と誠を見比べながらしばらくじっとしていた。手にしていたメロンソーダのストローがゆっくりと指先から離れていく様を誠はじっと見つめていた。